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覚醒 THE ワールド  作者: 明智
第1章
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8話 ギルドと申請書

 店を出てラミリ―と別れると、ギルドに向かう事になった。ギルドの建物は北西の位置にあり、他の建物に比べて風格があったので遠目からでもはっきりと分かった。

 

そこに近付くにつれ、建物の大きさで首が痛くなりそうになった。もうなんだか無駄にでかいのだ、あの建物。


 そんな建物の前に辿り着き、空を見上げるようにホゲーと眺めていると、隣からアイに「なに間抜け面してるのよ」と呆れられてしまう。


「んな事言ったって、こんなでかいとは思わなかったんだよ」

「なに言ってんの。先に教えといたじゃない。ここはギルドの本部だって。大きいのは当たり前よ」

「そうだったっけ?」


 俺はそんな事も言われたなぁ、程度の感覚で今の言葉を聞いていた。思い出せないものを無理に引き出す気は全くないのだ。気にせずいよう。


「そうよ。確かに教えたわ」

「そっか。忘れてたぜ、わるい」


 全然悪びれる事無く謝ると、アイに軽く嘆息され、ついて来てと促される。どうやら中に入るようだ。建物が大きくとも、自動には開かないらしく、アイが開けた扉の後に続いた。


中に入るとそれなりの装備をした者から軽装備の者まで、様々な人が見られた。


異なる種族も沢山居るようで、一番多いのは人類種(エルフやドワーフまで見られる)だが、頭に輪っかを浮かせた者や先端がスペードの形をした尻尾の生えている者まで多岐に及んだ。おそらく、後者が魔人種なのだろう。あれも始めてみたが、特徴的な尻尾だった。


俺はいよいよハンター登録だとワクワクしながらも少し緊張し始める。ここに来る途中までに、アイは特別な事はしなくとも大丈夫だと教えてくれたが、やはり緊張するなという方が難しかった。


「大丈夫よ。必要事項を記入すればいいだけなんだから簡単でしょ?」

「まあ、そうなんだが……」


 簡易魔法(シンプルマジック)の文字というものがある。それは本人が知らない文字でも自分の知る文字と同じ感覚で筆を動かせば、自動的に補正してくれるという魔法だった。


最初はどんな時に役に立つのかと思ったが、世界(アイリス)には種族ごとの文字があるという事と、何よりそこまで識字率が高くないという問題があった。

 

なのでこういった簡易魔法は(シンプルマジック)は重宝されるし、覚えておいて損はないらしい。事実、今から俺の役に立とうとしてくれている。


「つうかさっきから俺達、見られてないか?」

「そうかしら?」

 

ここに入った瞬間からそうだが、妙な視線を集めているような気がするのだ。特にその視線が殺意となって俺に集中しているようにしか思えなかった。

ここに人の視線に疎いのか、アイは全く気にしているようには見えない。実際に気にしてないのだろう。我関せずという佇まいで俺の隣を歩いていた。

 

多分だが、俺がこんなに見られているのはアイのせいだ。今でこそ性格の問題で気にせずにいられるが、こいつは飛んでも無い美少女なのである。それこそ、つり合う男など居るか分からないレベルの。そんな少女が冴えない少年の隣を歩いていたらどうなる?


「……少し離れて歩かねぇか?」


 そりゃ、こうなりますよ。周囲の男共から殺意がビンビンに伝わって来るもの。ましてやアイはここでハンター登録をした人間である。有名である可能性は大いにあった。


「どうして? そこまで近くないじゃない。これ以上、離れたらはぐれちゃうわ」

「いや、いくら何でもはぐれはしないだろ……」


「分からないわよ? 簡易魔法(シンプルマジック)の音響でアンタの名前が呼ばれるかもしれないじゃない。ヨウタ・ヤスナギ、ヨウタ・ヤスナギさん。至急、迷子部屋までお越しください。アイ・バラスティアさんがお待ちです……って」


 簡易魔法(シンプルマジック):音響とは音を直接、広範囲かつ遠くまで届かせるための魔法である。簡易の位置付けにはあるが、取得するのは意外と難しい魔法だと聞いていた。

 

それより、気になったのはこのギルドに迷子部屋という部屋がある事だった。まだ何も知らない俺にとって、それが事実なのかは分からないが、一つだけ彼女に言うべき事があった。


「アイ、それだと迷子になってるのお前だぞ。どうして、俺より勝手の知るお前がそんな所で俺を待ってるんだよ。斬新過ぎて驚くわ」

「あ、間違えたわ! 逆よ逆。どうして私が親を待つ子どもみたいな立場になってるのよ!」

「知るか。自分で言ったんだろ?」

「うぅ……不覚だわ」


 いちいちそんな事を言っていたら、いつも不覚ではないだろうかこの娘。出会った当初はそうでもなかったが、日に日に頭が悪くなっているようにしか思えなかった。


いや、そもそも頭はよろしくなかったのかもしれない。彼女が話してくれるのは俺にとって知識となるのは間違えないが、それはこの世界アイリスでの常識であって、言ってしまえば誰でも知っているような知識に過ぎなかった。


戦闘時の頭の回転もセンスや感覚で乗り切っているように見えるし、考えて行動しているようには感じなかった。以上の事から、俺はアイを馬鹿だと思う。ラミリ―の店でもあったが、今のように自滅をするから言い得て妙ではなかろうか。


「今、失礼な事を考えてたでしょ?」

「…………」


 それから、どうしてこんなにも勘が鋭いのか気になった。




「では、こちらに必要事項をご記入の上、隣の窓口にて申請下さい」


 受付に着くと一枚の紙を受け取り、筆を渡される。筆といっても習字とかに使う物ではなく、鉛筆のような物の事だ。俺はそれを持って、アイが座るテーブル席まで向かう。

 

ここに来るまでに散々見られたから、いい加減野郎共の嫉妬の視線にも慣れてきていた。我ながら適応能力の高さには驚かせる。この世界に来た時もそうだが、俺はあまり起きてしまった事態を問題視出来ない人間なのかもしれない。

 

自覚があって、こんな事を言っている訳ではないが、その可能性も無きにしも有らずといった具合か。


「えーと、これには何を書けばいいんだ?」


 俺は紙を持って、アイにそう訊ねた。彼女は当然――


「それに書いてあるじゃない」


 ――と答えた。確かに書いてある。しかし、待ってほしい。俺がどうしてアイにこんな事を訊ねたか知ってもらいたい。


 俺は元々、別世界の人間だ。言葉こそ共通していたおかげで通じてはいるが、文字までは一緒ではなかった。だから書けと言われても、書けなかったのだ。でもそれは魔法の力によって解決できていた。

 だが、問題はそこではない。たしかに魔法の力で書けるようにはなった。

 

 では読み方は? この世界の文字の読み方はどうなる? 日本語のような文法で読めばいいのか? それとも英語? ラテン語? 分からない。そもそも一文字も読み方が分からないのだ。


しかもご丁寧にルビまで振られている文字があるが、あっちの世界で言う漢字と同じ扱いなのだろうか? それでも読めないのだから始末に負えない。というか、文字が書けるような魔法があるなら、読めるようにもなる魔法があると思うのだが、後でないか聞いてあったら覚えよう。

 

それまではアイに所々で書くべき内容を指摘してもらって筆を動かすしかないようだ。


「いや、こっちの世界の文字を見る事すらほぼ初めてだから」


 そうなのだ。俺は文字は書けるようにはなったが、読めるようにはなっていない。その訳は家や村にある物で、文字の書かれている物が極端に少ない事にあった。おそらく、文字に触れるという文化が少ないのだろう。文字は違えど言葉は共通なので大抵の事は口頭で伝えられてしまう。とても反故できない約束事とかは便利な魔法様を使ってどうにかすれば何とかなる。


しかし、文字に触れる機会が少ないこの世界でそれが識字率を著しく下げる原因になっているような気がしてならなかった。


 そもそも、この簡易魔法(シンプルマジック):文字の効果だって自分の知る文字を書くつもりで筆を動かして書く前提なのだ。つまり読める事が前提か、他種族の文字が書ける事が前提で考えられた魔法でもあるという事だ。という事はどちらも出来ない人はどちらにしろこの魔法を覚えている意味がないし、無駄という事になる。


 俺は日本語という異世界の文字が書けるから、何とかなったようなものだが、この世界の住人はもう少し頑張った方がいいと思う。魔法という素晴らしい力を発展させたのは凄いが、衰える所がどこかになかったか、考えるべきではないだろうか。


 ええ、まあ、はい。散々それっぽい事を言ってますがただの八当たりです。

 

「もう、仕方ないわね」

「…………」


 イラっと来た。なぜか満面の笑顔なのがむかつく。この笑顔、そうアイがよく訓練中に浮かべる俺を追い込んでいる時の笑顔だ。綺麗なのだが、こんな笑顔を浮かべている時のこいつは碌な事ではない。


 俺はしばらく思案した後、面倒だがある方法を考えた。幸い、筆の試し書きをするためにあるのか、テーブルにはメモ用紙のような紙が置かれている。

 そこに五十音順かアルファベッド順に文字を並べて行き、この紙に書いてある内容と照合するという方法だった。


 ……………………………却下だ。数秒で辛くなった。

 ここは素直にアイの教えを請うようにしよう。そもそも最初からそのつもりで訊ねたのだ。今更、言い訳しても仕方ない。


「わるい、頼む……」

「ふふ、分かってるわよ」


 そう言って彼女は俺に書くべき内容を教えてくれた。意外な事にきちんと最後まで教えてくれたのは助かった。


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