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覚醒 THE ワールド  作者: 明智
第1章
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7話 アイテムと天使

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「改めて名乗りを上げましょう。わたくしは神人種の天使属が一対、ラミリー・トトリポートと申します。訳あって、この雑貨屋の店主などをしております。以後、お見知りおきを」


 そう言って優雅に一礼。俺もそれに倣って名前を告げる。


「俺はヨウタ・ヤスナギ。こっちの世界で言うなら、人類種の一人だな。まあ、説明は省くけど知っての通り異世界人だ」


 互いに握手を交わして自己紹介をしめた。この世界に人類種以外が居る事は知っていたが、実際に会ってみると妙に感慨深かった。それが当たり前のように店を構えていたのがシュールな驚きがあった。


「…………」


 そして俺は初めて見る天使の輪に興味津々だった。ラミリーは胸も魅力的だが、むしろそっちの方が気になって仕様がない。罪作りな輪っかである。 後で触らせてもらえないかな。


「さっきからそればかり見ているけど、どうかしたの?」


 俺がラミリーの頭上を一心に見つめている事が不思議だったのだろう。アイがそんな事を訊いてきた。むしろ、平然としているアイの方が俺にとって不思議だったのだが、この世界の常識に自分の常識は通用しないと考えれば納得できた。


「ああ、この世界の奴らと違って、俺は天使なんて初めて見るからな。どうしても目移りしちまうんだ」


 俺は正直にそう答えた。神話や漫画などでは嫌というほど見てきたが、実物を見たのは初めてだった。居ないものを見かけられるはずもないし、珍しいものは珍しい。


「ヨウタ様の世界には天使属は存在しないのですか?」

「架空としてなら存在してたよ」


 むしろ架空でしか存在しない。それ以外で存在が確認されていたのなら、さすがの俺も覚えていると思う。それこそ、あそこまで露骨に驚いたりもしないだろう。逆に見えていたなら完全に幻覚だし、電波(あぶない)な人だと勘違いされる可能性が高いのではないだろうか。


「というか、俺の世界には俺とアイのような見た目の奴しか居なかったしな」

「つまり各種族の一部しか人は存在しないという事ですか?」

「一部どころか、人類種しかいないぞ。他の種族でも俺達と同じ見た目の奴らが居るのか?」

「普通に居ますよ。では、人類種の人しか存在しないと?」


 どうやらこちらの世界では種族は問わず、人と呼ぶらしい。目の前の天使がそう発言したのだから間違いないだろう。


「そういう事だ。まあ、つまらない世界ではあったな」

「そうなのですか? むしろ、わたくしにはそちらの世界の方が興味深いですね」

 

 ラミリーにとって既知であるこちらの世界より、まだ知らぬあちらの世界に惹かれるものがあるのかもしれない。俺としては無いものが多いあちらの世界より、こちら世界の方が断然魅力的なのだが。魔法やら何やらがない訳ではなかったが、頭の中で妄想で終わらせるしかなかったあちらとは異なり、こちらは本物が使える。それだけで感じ入るものがあった。

 

「やめてとけ。魔法なんて便利な物がないから、こっちの生活に慣れている奴が行ったら不憫に思うだけだ」

「むぅ……それは残念ですね」


 ラミリーは残念そうに口を尖らせる。冗談ではなく、本当に行ってみたかったようだ。


「私は行ってみたいとは思わないわね。魔法がないなんて、どうやって生きていくのよ」

「ほら、こんな言葉が当たり前のように出てくるんだぜ? あっちで暮らせる訳がないじゃねぇか。それに仮に魔法が使えたとして、俺は帰り方なんて分からないからな」


 帰り方が分からないという事は、つまり行く方法がないという事だ。こちらの世界には来れたのだから、もちろん戻る方法もあるような気はするが、無理して見つける気もなければ探す気もなかった。それに、あの世界はこれといって楽しい事やワクワクするような事も無い退屈な世界なのだ。そんな所に何をしに戻るというのか。

 またアルバイトか? 冗談ではない。そんなつまらない事をしていられるか。


「口頭で良いので、どんな世界なのか説明してもらえますか? わたくし、それで諦めます」

「うーん」

 

 正直、気が乗らなかった。説明するのはいいが、ぶっちゃけ面倒だったからだ。そんな気持ちもあり、渋っていると店内で一本のナイフを見つける。棚に近付き、それを手に取った。


「これは……?」


 そのナイフはどう見ても安物だが、なぜか懐かしいものを感じられた。そして、何気なく裏返してみると、刃の方に『made in China』と彫り込まれていた。俺はそれを見て、この世界も大陸のどこかに『チャイナ』という国があるんだなぁ、と妙な感動をしてしまう。


「そのナイフがどうかしましたか?」

「いや、何でもない。ちょっと気になって……っと、なんだこれ? 凄いな」


 するとそのナイフにばかり気が行っていたが、その隣にあるもう片方のナイフも異色のオーラを放っていた。主に刃のメタリック感や色彩的な意味で。


「なんでこれ、刃が真緑で染まってるんだ?」

「それは精霊武具(エレメンタルウェポン)の一種だからですね」

精霊武具(エレメンタルウェポン)?」


 聞いた事がない名前だった。名前から察するに精霊の力を宿した武具なのだろうが、これ以上の解釈が出来ない自分の無知さが歯痒かった。精霊というほどだから、属性魔法(エレメンタルマジック)にも関係しそうだが。


「そうですよ。この世界には四種類の精霊と陰と陽の力がある事はもう知っていますよね?」

「ああ」


 アイに魔法について教えてもらった時に覚えた知識だったので、今でも頭の中に入っている。たしか、どんな場所でも必ず四大精霊・火、水、風、土が居て、そいつらの力を借りて行使する魔法が属性魔法(エレメンタルマジック)だったはずだ。それから陰と陽の力は人の体内に予めある力で人類種なら両方。神人種と魔人種ならそれぞれ片方の力が使えたはずである。

 

ここまでつらつらと並べていて、後半から少しうろ覚えなのだが、おそらく間違ってはいないと思う。


「それはその四大精霊の力を強める魔法具の一種なんです。その武具を媒介に精霊を宿して、属性魔法を使えば強力な武器になってくれますよ。

 色は属性や精霊に密接な関係がありまして、赤だったら火、青だったら水、緑だったら風、黄色だったら土となっています。ヨウタ様が手に取ったそれは緑だから風の力を強めてくれますね」


 聞いていて思ったのは、生活方面で役に立ちそうにないが、戦闘では大いに使えそうだなという感想だった。事実、ラミリ―が強力な武具等と言っているから、そうなのだろう。しかし、ここが魔法具なんていう物が売っているような店には見えなかったので素直に驚いている。こういう寂れた雑貨屋というのは総じて品質が悪く、扱いづらい物ばかり置いていそうだと偏見を持っていたのだが、訂正しよう。


 手に持った感覚もずっしりと重く、百円ショップの刃物のような頼りなさは感じられなかった。先程の『made  in China』と比べてみても、質量の違いがはっきりと分かった。


精霊武具(エレメンタルウェポン)はレアアイテムだから、普通の店では扱ってないのよ」

「へぇ」


 そんなレアアイテムを商品として置いてあるこの店はどうなっているのだろうか? こんな貴重な物があって、なぜこんなにも寂れてしまっているのか。


「ここが普通の店じゃないって言うつもりはないけど、ここの商品はラミリ―が直接どこかで見つけてきて売っているのよ。

 中には用途不明のアイテムもいっぱいあるけど、品数よりも品のレパートリーだったら他のアイテムショップの追随を許さないって感じね」

「それならもう少し、店が繁盛しても良いような気もするが……」


 俺はそう言って、店内を見つめる。見事に誰もいなかった。ここに入って、話し込んでからかれこれ三十分以上は経つが、誰一人として客が入って来る気配がない。


「稼ぎがない訳ではないのですよ?」

「そうなのか?」

「はい。わたくしもアイ様と同じようにハンターをやっているので、そこの収入でやり繰りしています」

「いや、それ店の利益じゃねぇじゃん」

「趣味で経営しているようなものなので」


 言い切られてしまった。そういう事なら、俺がとやかく言う筋合いはないだろう。店を経営していて利益を求めないとか、なめてんのかと思ったが、趣味なら仕方ないと自己完結する事にした。


「それに店の利益はマジックポーションとかを街を出歩いて販売しているので、それで賄っているのですよ。元々、ここにある商品はわたくしがクエストで取って来る物ですから、無料(ただ)なのです。すぐに売れなくたって文句はありません。それより、マジックポーションが売れなかった日の方がショックです」


 たしかにそういう事なら納得がいく。元々仕入れたアイテムが無料なら、利益なんて入ればラッキー程度のものだろう。しかし、ちゃんとした小売業者を通して手に入れているマジックポーションが売れなかった時の方が堪えそうではあった。


「そのマジックポーションを買いに来たわよ」

「あ、はい。いつも通り十個で良ろしいでしょうか?」

「いえ、今日はその倍の二十個でいいわ」

「ありがとうございます! 一つ百ハーツなので合計二千ハーツになりますね」


 この大陸(アカデミス)での通貨の単位はハーツで、当然大陸よってその単位は変わるらしい。一ハーツを日本円で換算すると一円で、とても覚えやすかったのは大助かりだった。


「ああ、一日にこれだけ売れたのは久しぶりです……!」


 アイにいつもの倍の量を買ってもらえた事がよほど嬉しかったのか、ラミリ―は少し涙を浮かべていた。いくら趣味で経営しているとはいえ、やはり利益がないのは悲しいようだ。

 彼女が経営者として利益を求めないと思ったのは、俺の早とちりだったらしい。


「今日は気分が良いので、お二人ともこの店から一つだけ何でも好きな物を持って帰ってもよろしいですよ? 差しあげます」


 なんと太っ腹な店長である。気分がよくなれば無料(ただ)で譲るとか大丈夫かこの店長天使。まあ、貰える物は嬉しいので、素直に好意を受け入れる事にした。俺が欲しい物は既に決まっている。


「でも良いのか? 俺まで貰っちゃって?」

「はい、大丈夫ですよ。そのかわり、条件がありますが」

「条件?」


 何だそれは。俺にクリア出来る見込みのある条件だろうか?


 そんな事を考えていると、ラミリ―はカウンターを乗りだして目を輝かせながらこう言った。


「さあ、お聞かせ下さい! ヨウタ様の世界のお話を!」


 ああ、それなら大丈夫。俺でもクリアできる条件だ。

 初めは話す事が面倒で渋っていたが、このナイフが貰えるならこんな話をするのもお安い御用だった。


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