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覚醒 THE ワールド  作者: 明智
第1章
2/17

1話 魔法とステータス

魔法の説明っぽい前篇! みたいな感じです

 音が聞こえた。

 これは鳥の囀りか?

 ゆっくりと目を開ける。


「…………」


 最初に入ってきた情報は見覚えない天井だった。木目のはっきりとした、いわゆる顔に見えるという不気味なアレがあった。首が動く事を確かめ、ゆっくりと視線を巡らせて行く。

 左方には小さな窓。ここから陽の光が差し込み、部屋の中を照らしている。花瓶が飾られており、中には青い花が活けられていた。前方にはドアがあり、それ以外は何もない殺風景な光景だった。右方に見えるは目を疑うほどの美少女。彼女は質素な青いワンピースを着用して椅子に座っていた。窓から差し込む光を浴びて長いプラチナブロンドの髪が輝く。肌は透き通りほど白く、顔は驚くほど小さい。胸は薄いほうでス―ス―という寝息とともに、ゆっくりと上下していた。


 ――って、違う。思わず見とれてしまったが、そうじゃない。それよりここはどこだ? 俺は生きているのか? あの怪我で? 一体、どうやって?

一度、疑問に思い始めたらきりがなかった。

 とりあえず、身体も動く事が分かった。

 上半身を起こして、背中に触れてみる。


「…………あれ?」


 怪我が治っている。おかしい。一日やそこらで治るような怪我ではなかったはず。即死でなかっただけ奇跡だと思えるほどの状態だったのに。ましてや、完治などするはずもなく、後遺症が残ってもおかしくなかった。

 それなのに、背中の怪我が塞がっている。それどころか、普通に動いても痛くない。


「どうなってやがる……?」


 俺は訳が分からずそう呟いた。するとその声で目が覚めたのか、金髪の美少女が「ふぁ~」と、小さく欠伸をした。そしてゆっくりと目が合う。


「…………」

「…………」

「……どうも」

「――お母さん!」


 少女は一瞬、驚いた顔をして部屋の中から出て行ってしまった。俺はそれを呆けながら、ただ見つめる事しか出来なかった。


 やがて思考が正常に働くようになり、下の方でドカドカと騒がしい音が聞こえる。どうやらここはニ階の寝室のようだ。よく見ると俺が寝かされていた場所はベッドだった。

 怪我人である俺をここまで運んでベッドに寝かせてくれたのか。さっきの少女は母親を呼びに行ったようだから、来たらちゃんとお礼を言おう。俺は助けられた事を疎ましく思う人間じゃない。ましてや相手は命の恩人だ。ジャンピング土下座をする気持ちで、礼を言うぞ。


 まあ、実際にジャンピング土下座をするほどの度胸はないんだけど。絶対にふざけていると思われるし。




「あらあら、目が覚めたようね~」


 やってきた金髪の美女が俺に向かってそう言った。さっきの娘と比べて大人の色香を放つ母性に溢れた女性だった。胸は娘に遺伝しなかったのか、手で鷲掴みに出来るほど大きい。

 その視線に気付いたのだろう。後からやってきた少女がジト目でこちらを睨んでいる事が分かった。


「お、おかげさまで」


 ベッドで上半身を起こして、頭を下げた。


「まだ寝てなくて大丈夫なの~?」

「え? あ、はい。大丈夫みたいです」


 俺は女の人と言葉を交わすのが久しぶりなせいか、驚くほど緊張していた。加えて相手がこんなに綺麗な人なのだ。緊張するなと言われるほうが難しい。


「そう。君、名前は~? 歳はいくつか聞いていい~?」

「あ、えっと名前は安凪陽太(やすなぎようた)で、歳は十七歳です」

「ヤスナギが名前なのかしら~? 変わった名前ね~」

「いえ、安凪は名字で陽太が名前です。えーと、ヨウタ・ヤスナギが正しいですかね」

「どちらにしろ、ここら辺にはない名付けの風習ね~。歳はアイの一つ上か~」


 その女性はなぜか嬉しそうにうんうんと頷きながら、俺を見て来る。その後ろで少女が待機しているのだが、一向に口を開かない。

 やっぱり、母親の胸を凝視された事を怒っているのか? でも、あれは男として本能だ。仕方ない。


「私はユウ。ユウ・バラスティアよ~。それからこの子は――」

「アイ・バラスティアよ。目が覚めたら、さっさと出て行きなさい」


 ユウと名乗る女性の紹介を遮って声を出したのはアイ本人だった。思った事ははっきりと口にするタイプなのか、初めて向けられた言葉が予想以上に辛辣なものだった。


「あらあら、アイったらどうしたの~? さっきまで心配してたのに~」


 その言葉に俺の目が丸くなる。心配してた? 今の喧嘩を売っているとしか思えない口調でか?


「それとこれとは別よ」

「どうして~?」

「だって、こいつ! 私の胸とお母さんの胸を比べた後、ジッとお母さんの胸だけを見つめているのよ!?」


 よっぽど不快だったのか。いきなり、こいつ呼ばわりである。しかし、今の台詞に否定できる個所は何も無く、俺はただ目を逸らす事しか出来なかった。

 だって、ねぇ? くどいようだけど、俺、男の子だし……。


「アイ~?」

「なによ!?」

「男の子は胸で性別を判断するのよ~」


 何を言っちゃってくれてるのか。俺はそこまで胸に興味がある訳じゃない。説得力がないようだが、断じて胸だけで性別を判断する訳がないのだ。

 そんな俺の気持ちが伝わっていないのか、アイは殺意に満ちた目で俺を睨みつけていた。


「~~~~っ!! 最低!」

「いや、誤解だから!」


 堪らずそう返した。さすがに胸で性別を決めるのは失礼だし、不本意過ぎる。その論理で行くと、俺は相撲中継をエロビデオのように観賞していた事になってしまう。そんなのは断じて違う。男として下半身に誓っても良いと断言できる。


「ふん! どうかしら。アンタが鼻の下伸ばしながらお母さんの胸を見てたの知ってるんだから。わ、私の胸を見る時は壁を見つめるような眼差しをしてたくせに!」

「え!? 俺、そんな目で見てたか!?」


 とんでもない濡れ衣である。胸が大きなユウさんに目移りしたのは認めるが、さすがにアイの胸を壁のようなだと思って…………。


「…………」

「そ、その目よ! その目! もー、あったまきた!!」


 すみません、はい。見てました。壁のようだと思って見てました。




 さて、閑話休題。

 アイも少しは落ち着きを取り戻したので、俺は改めて二人に向き直る。そして、徐にお礼を言う。


「助けてくれて本当にありがとう」


 本来ならベッドから出て、言うべき事なのだろうが、思った以上に疲労していたらしい。痛みは引いているが、別の意味で身体を動かすのが辛い。それと朝起きるとなる例の生理現象のおかげで、布団を省く訳にはいかなかった。

 いや、胸を見てたからじゃないよ?


「助けたって……。私はあそこで気絶してたアンタを魔法でここまで運んだだけよ」


 アイは当然のようにそんな事を言う。しかし、俺は魔法という単語に唖然としていた。


「ま、魔法? そんなものがあるのかこの世界は?」

「なによアンタ、魔法を知らないの?」

「ああ」


 ここで知ったかを決め込むメリットもないので、素直に首肯した。すると二人はそんな俺を物珍しそうな表情で見てくるではないか。まあ、当たり前のように魔法なんて単語が出てくる世界だ。知らないという奴の方がおかしいのだろう。


「さっきの名付けの風習といい、本当に珍しい子ね~?」

「今時、魔法を知らないだなんて、どうやって生きてきたのよ」

「そんなのアルバイトでだが……」

「アルバイト? ま、いいわ。とにかく、私は気絶してたアンタを魔法で浮遊させてここまで運んだだけ。あとは目覚めるのを待っただけで何もしていないわ」

「ちょっと待ってくれ」


 何もしていないって、血だまりは? この背中の治療は誰がやってくれたというのか。


「俺の怪我を治してくれたんじゃないのか?」

「怪我? そんなの全然負ってなかったわよ。私が見つけた時には気絶してただけ」

「…………」


 おかしい。あんな怪我自然に治癒される訳がない。それとも何か、ここに運ばれる前に誰か親切な人が治療でもしてくれたのか?


「まあ、考えていても仕方ねぇか。とりあえず、改めて礼を言わせてくれ。ありがとう」

「い、いいわよ別に。それより、怪我ってどういう事?」


 やはり俺が言った怪我というのが気になるのか、熱心に訊ねてきた。説明は面倒だったので、簡潔に述べる事にする。


「崖から飛び降りたら、死にかけた」

「はぁ!? アンタ、魔法も使えないのにあの崖から飛び降りたの?」

「ああ、ついヒャッハァ―しちまったんだ……」

「ひ、ヒャッハァ―? 聞いた事のない言葉ね。それもアンタの国の風習?」

「いや、俺の造語だが?」

「そ、そう」


 なぜか呆れたような視線を向けられた。


「それはそうと二人とも、のど渇かない~? 良ければ、水を出すわよ~?」

「あ、ありがとうございます。お願いします」

「む。私にはタメ口でお母さんには敬語なのね……まあ、いいわ。お母さん、私も水ちょうだい」

「あらあら、はいはい」


 そう言って、ウフフとアイを見て微笑むユウさんは宙に両手を翳した。すると、その手にはいつの間にかガラスのコップが握られていた。それを俺達は渡される。見てみると、何の変哲もない普通のガラスコップだった。


「よおく持っててね~? 水を入れるから~」


 そう言われて、コップを握りしめる。一体、どうやって入れるのか。見たところ、ユウさんの手持ちに水があるとは思えない。

 俺がそんな風に思っていると、ユウさんはコップに向かって指先を向けていた。

 そして、口を開けて――


「クリエイトウォーター」


 ――と発した。

 するとコップの上にシャボン玉のような塊が現われる。俺は驚いてその塊を見つめていると、それは突然形を崩して、コップの中に落ちて行った。


「うわっ!?」


 突然の事で動揺してしまった俺はコップを思わず床に落としてしまう。当然、床は水浸しになり、コップは完全に割れた訳ではないが、罅が入り、欠けてしまっていた。


「あーあ、なにやってるのよ?」

「わ、わるい。びっくりしちまって……」

「その様子だと本当に魔法を知らないのね」

「ああ」


 知る訳がないじゃねぇか。俺は日本という、ゆとりだがなんだか分からない事をのたまう平和ボケした国から来たんだから。魔法なんてものに触れた事すらねぇ。

 

「それよりこれ片付けて新しいの用意するから待ってて」

「ああ」


 俺はアイの言葉に咄嗟に頷いたが、なんだか胸騒ぎを感じた。上手く言えないが、なんとか出来そうな、そんなフワっとした感覚に苛まれた。

 そして無意識のうちに左手を割れたコップに向かって翳していた。

 すると、割れた破片はコップにくっ付き、罅が無くなっていく。そして、コップの中に水がどんどん収まって行きながら、俺の手元に戻って来る。


「あ、アンタ、魔法を知らないって……!」


 その様子を見て一番最初に反応したのはアイだった。


「いや、本当に知らないんだ。ただ、何となく出来る気がして」

「そんな! でも、壊れた物を直す魔法なんて初心者が簡単に出来るものじゃないのよ? それにコップの中の水だって属性魔法(エレメンタルマジック)が使えないと造れないし……って、床が濡れてない?」

「あらあら本当ね~? どうなってるのかしら~?」


 二人はさっきまで水浸しだった床を見つめて、不思議そうに首を傾げる。それから数秒ぐらいが経つと、アイは何かを思い出したかのようにこちらを見つめてきた。


「ど、どうした?」

「ステータス」

「は?」

「ステータスを見せなさいって言ったの!」

「いや、見せなさいって言われても!」


 俺、そんなのどうやるのか分からねぇし! ましてや今の現象に一番驚いているのが俺だし!

 そんな俺の必死な気持ちが伝わったのか、アイは嘆息して肩の力を抜いていた。


「ステータスって念じれば、ウィンドウが出て来るわ」

「分かった」


(ステータス……)


 すると目の前に透き通った紙のような四角い物が現われたではないか。そこには俺の名前や性別、色々な物が書かれていた。


名前:ヨウタ ヤスナギ

性別:男

出身:不明

職業:無し

成長:レベル1

魔力:10000

魔法:名付魔法(ユニークマジック)

   《時間魔法(クロノス)

    対象の時間を十分単位で前後、停止する事が出来る。

    消費魔力:3500

   《断罪魔法(ジャッジメント)

    対象となる者の行いによって、効果が変動する。善き者には天からの恵みを、悪しき者には制裁を下す。

消費魔力:2000


 これが俺のステータスだった。誰かと比べた事がないので、どういう感想を持つべきなのか正直分からなかった。ただ、横で覗き込んでいたアイの様子がおかしい事にはすぐに気付けた。


「な、なによこれ!?」

「何って。これがステータスなんだろ?」

「そんな事はどうでもいいのよ!」

「えぇ……」


 出せと言っておいて、その言い草はあんまりじゃなかろうか。


名付魔法(ユニークマジック)なんて持ってる人、初めて見たわ。しかも二つも」

「それって凄いのか?」

「凄いなんてものじゃないわよ! 規格外よ規格外! 普通、ユニーク一つすら持ってない人のほうが多いんだから!」


 アイは俺のステータスを見て、しきりに興奮していたが、やはり何が凄いのか見当もつかない。というか、この名付魔法(ユニークマジック)って言うの? 二つ目の魔法がなんだかよく分からない上に、妙に物騒なんだが。


「それにこの魔力量、私の十倍はあるわよ!?」

「お母さんにも見せて~? あらあら本当、凄いわね~」

「そ、そんなに凄いんですか?」

「凄いわよ~。だって、あなたの魔法を一回分ですら私達には発動不可能なんだから~。それを発動できるのはあなたの莫大な魔力量ね~」

名付魔法(ユニークマジック)が物凄く魔力を消費する事は知っていたけど、ここまで消費するなんて聞いた事ないわよ」

「へえ、じゃあアイのも見せてくれよ」

「嫌よ」


 俺は自分のステータスと比べようとアイに頼んでみたが、速攻で断られてしまった。顔を見ると、本当に嫌そうな表情を浮かべている。


「だって、アンタのステータスを見てから自分のステータスがしょぼく見えるんだもの……」

「それにレベル1でそのステータスを見せられたら、私達だって自信を失くしちゃうわよ~」

「そのレベルってのは?」

「ここに書いてあるでしょ? これは最大で五段階まであって、上がると魔力の総量や魔法の能力効果がプラスされる事があるのよ」

「そりゃ、えっと……」


 俺は何と言ったらいいのか分からず、言葉を濁した。このレベルというのは分からないが、最低レベルでとんでもない魔法と魔力である事は二人の落ち込んだ様子から知る事が出来た。


「ステータスを見せろって言ったのは私だけどさっ。あんな凄いとは思わないじゃない……。それに魔法を知らないって言うから、低級魔法も使えないって思ってたのに……」


 なにやらアイはぶつくさと文句を呟いているようだが、ユウさんは「あらあら」と困った娘を見るような目で彼女を見ていた。


 こうして俺は自分がチートな存在なのだと知る事になった。


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