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覚醒 THE ワールド  作者: 明智
第1章
16/17

15話 緊急のクエスト

 鬼の森と呼ばれ、魔物が多く棲みつく地帯。俺達のパーティーはここでオウガと呼ばれる魔物と対峙していた。オウガはこの森で王様的な立場にいるのだろう。こいつより強い魔物はおらず、すでに何匹か始末を終えていた。


 周囲の木々は散々暴れ回った挙句、すでにほとんどが切り倒されてしまっている。だがそれも今は別の場所に運んであるので、この場にはない。


『ゴアァァァァァァァァッ!』

「くぅっ!」

「ラミリー、大丈夫!?」

「だ、大丈夫です!」


 俺達の前でオウガが雄叫びを上げた。全身を這うような怖気に襲われ、思わず一歩後ずさりをしてしまいそうになった。緑色の肌に二メートル超はある強靭な肉体。何よりその凶暴そうな頭の上に生えた二本の角が異様な存在感を放っている。


 このオウガがBランクに分類される理由。それは魔法への強い耐性と攻撃力の凄まじさからだった。こいつは俺と同じ大きさぐらいの棍棒を軽々と振り回し、地面に小さなクレーターを造るくらいの攻撃力を誇っていた。


「……ここまで苦戦するとはなぁ」

「何を今更な事を言ってるのよ。Bランクの魔物と戦ってみたいって言ったのはどこの誰だったかしら?」


 まあ、それは俺だな。俺が言ったんだ。


 だが苦戦している理由が何も強いからというだけではない。ゴーレムを抜いた人型の魔物を戦うのは今回で初めてというのも大きい。血の通わない岩の魔物よりも、多少生物らしさのあるオウガを相手にするのはきついものがあった。なにせ、よりにもよってこの魔物の血の色が赤なのだ。


 なんとか接近して一撃を入れる事に成功したのだが、返り血が赤い事にはかなり驚いた。やはり気にしないように努めていたとはいえ、人型となると精神的に来るものがある。


「だけど、何なんだ? あの異常なまでの魔法耐性は。ナイフの刃では傷付けられるのに、かまいたちじゃ全く傷を負わせられねぇ……」


 突進しながら近付いてくるオウガを睨みつけながらそう呟いた。オウガ自体、それほどスピードがある訳ではない。なので、ある程度距離を取って戦う事は容易なのだが、ただ俺は遠距離戦向きではなく、近距離戦向きなのが仇となった。


「止まれ!」

 

 しかし、ナイフと棍棒で打ち合う訳にはいかず、そういった意味でもかなりの苦戦を強いられていた。ホント、心身ともに厄介な魔物を相手にしようと思ったものだ。ゲームと違うのだとつくづく思い知らされる。


「くそ! あの棍棒はなんだよ!」

 

 《時間魔法クロノス》を使ったのだが、なぜかあの棍棒の動きを止める事が出来ない。


「あれも含めてオウガの一部なんです! だから多分、その生物反応で《時間魔法クロノス》が効かないんだと思います!」


 さすがはラミリ―。そういう事か! だけどそれはもう少し早く教えてもらいたかったな!


『ガアアアアア!』


 俺の前まで接近してきたオウガが棍棒を振り下ろす。


「くっ!」


 付加魔法エンチャントマジック:高速移動を使って背後へ周り込み、攻撃をかわして反撃にでた。だが上半身を捻るように動かされ、背後からの突きをかわされてしまう。


「反応が良過ぎるだろ!」


 毒づきながら、今度はこちらが反撃を喰らわないように距離を取った。


「アイ、頼む!」

「インフェルノダンス!」


 彼女の称号の由来となった火属性の弓攻撃。炎を纏った矢を空に放ち、幾重にも分身させる。それは驟雨のようにオウガ目掛けて降り注いだ。その全てが踊るような動きでオウガに傷を負わせていく。


「邪魔な木がなくて助かったわ!」


 この森はオウガが暴れてくれたおかげで障害物となりそうな木々はほとんど倒されてしまっている。ついでにラミリ―の土魔法を使って倒れた木は、周囲から森の外へ運び出されていた。


 なので森が火事になる心配はなかった。なったとしても魔法で何とかすれば充分だろう。今、気にしていると倒せそうにないので考えない事にした。


『グォオオオオオ!』


 アイの攻撃は確かにダメージを与えていた。炎が与えるダメージは差ほど大きく無さそうだが、弓矢として攻撃は確実に成功している。


「ガイアクラッシュ!」


 そこへ追い打ちをかけるようにラミリ―が魔法を発動する。もちろん、魔法耐性が強いオウガへではない。その足下を魔法で崩したのである。


『――っ!?』


 突然の出来事にバランスを崩すオウガ。だがよろめいたのは一瞬の事で、すぐに体勢を立て直した。だけど俺にはまだ作戦がある。


「アイ、俺を浮遊であいつの頭の上にまで飛ばせるか!?」

「何をする気よ!」

「とにかく頼む!」

「分かったわ――浮遊!」


 アイに俺の身体を簡易魔法シンプルマジック:浮遊を使って浮かせてもらった。そしてオウガの頭の上まで飛ばしてもらう。


「くらえ! 待機!」


 俺はそこから簡易魔法シンプルマジック:待機を発動させた。瞬間、オウガの頭の上から森の外へ運び出したはずの木々が降り注ぐ。


『――っ!?』


 予め用意した物を出す。それが簡易魔法シンプルマジック:待機の魔法効果だ。俺がアイから二番目に習った魔法でありながら、あまり使う機会がなかったので覚えただけだったが、どうやら今日はその機会に恵まれたらしい。木を森の外に運んでもらう前に準備をしておいて良かったと思う。


「ラミリー! もう一度、ガイアクラッシュだ! 奴の動きを封じろ!」


 逃げられてはかなわない。俺はそう思って、ラミリ―へ指示を出した。


「分かりました! ガイアクラッシュ!」


 空からの異変に気付いたオウガに落ちて来る沢山の木をかわされそうになるが、ラミリ―の発動した魔法によって何とかそれを阻止する。


『グゥウウウウオオオオオオオオ!?』


 前のめりの体勢で倒れたオウガに大量の木がのしかかって行く。それでも四つん這いになり、未だに地面へ腹を着ける気配がない。まさにBランクと呼ばれるだけはある。大したものだ。

 

 しかし――


「――俺が用意した物が木だけだと思うなよ?」


 瞬間、オウガの真横にズドォンという凄まじい快音が鳴り響く。そこには先までなかった岩石が鎮座していた。


「くらえ。今度は外さないぜ!」

『グギャアアアアアアアア」


 俺はオウガの四肢でさえ耐えきれないそうもにない大岩を落としてトドメをさした。最後の雄たけびはまさに断末魔だった。




 オウガを倒してすぐ、その報告をするためにギルドへやって来た。ここしばらくギルドへ出入りする機会が増えたおかげで多少、俺の名前も覚えてくれる奴が増えてきた。


「よぉ、ヨウタ! 初挑戦のBランクはどうだった?」


 そう訊ねてきたのは、俺と同じCランクハンターのライドという男だ。知り合ったのはDランクに上がってすぐぐらいだろうか。この世界では村の人達を除いて初めての男友達と言える。歳は俺よりも三つばかり上だが、敬語は使わなくて良いと言ってくれていた。


 日本に居た頃の影響で年上の敬語癖が抜けていなかったので、案外普通に話せるようになるまで苦労したのは良い思い出だ。


「ああ、なんとか成功したよ」

「そうか! やるなぁ!」

「かなり苦戦したけどな」


 ライドは多少、強面だが話してみるとけっこう良い奴なのだとすぐに分かった。こういった友人はこの世界でも大切に扱うべきだと思う。


「今からその報告をするためにここに来たんだけど、ライドは何しに来たんだ?」


 友人になったとはいえ、三つも年上の人をお前呼ばわりする訳にはいかず、彼の事は常に名前で呼んでいた。ユウさんと違って敬称を略して呼んでいるのは、ライドから「さん付けはするな」と言われているからだった。


「俺はクエストの確認にな。緊急クエストが二枚あったぞ」


 緊急か。そういえば、あのポイズンスネークはどうなっただろうか?

 

「ソロで行こうだなんて思うなよ?」

「ははは! 心配するな! こちとらお前よりずっと先輩だぜ? Cランクぐらいならソロでもなんとかやっていける!」


 それでもこの職業は常に危険が伴うのだ。俺が心配するのは侮辱に値するかもしれないが、せっかく友人となった奴にあまり無茶をしてもらいたいとは思わなかった。それは当然、パーティーを組んでいる後ろの二人にも同じ気持ちを抱いている。


「さすがはベテラン」

「おうよ! BとCのどちらかを残り一回成功させれば晴れてBランクへ昇進だからな!」

「お~、凄いな。ランクアップしたら何か奢ってくれよ?」

「お安い御用だ!」


 そう言って、ライドは豪快に笑う。俺達はその後、軽く談笑してから離れて行った。男同士の話には興味はないのか、アイ達が話に加わってくる事はなかった。




「お疲れ様です。Bランククエストの成功を確認致しましたので、報酬が十五万ハーツ支払われます。山分けにしますか?」


 受付に行くと早速クエストクリアの報告を済ませていた。今はその確認作業が終わり、報酬を受け取ろうとしているところだ。


「ええ、お願い」

「かしこまりました。では、カードをお願いします」


 俺達はその指示に従って受付嬢に自分のカードを手渡した。


「……はい。これで完了になります。お疲れさまでした」


 そう言って受付嬢は俺達にそれぞれのカードを返してくれた。それを受け取るとすぐにポケットにしまう。すると窓口の近くに張り出された緊急の文字が書かれたクエストの紙が目に付く。


 が、内容を読もうとはしなかった。


「よし、じゃあ行こうぜ」


 俺はそれを気にする事無く素通りしようとしたのだが、隣でアイがなにやら不穏な空気を発している事に気が付いた。


「嘘……そんな……」


 それどころか顔がかなり真っ青になり果てていた。彼女が見つめる先はあのクエストの張り紙だ。


「どうなさいました、アイ様?」


 ラミリ―もアイの異変に気付いたのだろう。心配そうな声でそう訊ねた。


 するとアイは今にも泣き出しそうな顔のまま――


「転移!」


 ――理由も話さずにどこかに行ってしまった。


「…………」

「…………」


 俺達はその様子をただ呆然と見つめている事しか出来ずに立ち尽くしていた。しかし、アイの見ていた緊急クエストの内容を読み直して、


「――俺は馬鹿か!」


 ようやく察する事ができた。




【緊急クエスト 王都から南の山にて発見されたポイズンスネークが山を下り、人里に出現した模様。ただちに討伐求む】


 誰かオラに文章力を別けて下さい……。

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