14話 メリットとデメリット
更新再開です。設定はあまり変わってませんが、内容は前回とはかなり変えてあります。予定では20話前後で一章は終了です。
俺達は今日も一つのクエストを終わらせてギルドに来ていた。倒したのはキャノンヘッジホッグというトゲトゲの球体になって襲ってくるCランクの魔物だった。
「ではこれでCランクへのランクアップを認めますね。おめでとうございます。今日からBランクのクエストに参加できますよ」
「はい、ありがとうございます」
俺はランクアップの手続きをしてくれた受付嬢にお礼を言った。まあ、今日はもう魔法を半日は使う事が出来ないのだが。カードを見るとDからCに変わっていた。
ヨウタ・ヤスナギ
ランク:C
使用武器:ナイフ
依頼受付数:37
依頼成功数:36
依頼失敗数:3
称号:名付弐式
ゴーレム退治以降からCランククエストを16回挑戦し、うち14回の成功でランクアップに至った。それでも2回は失敗し、残りの8回はDランクによるものだ。魔法の特訓もあったので、クエストは一日一回までしか受注していない。だが順調過ぎるとも言える。なのでランクアップまでにかかった日数は約一ヶ月と短かった。
俺がそれまでに覚えた魔法は全部で三つである。一つは簡易魔法:束縛。これは崩れやすい物や纏めておきたい物を束にして縛るという魔法だ。
まあ、俺の場合はそれを敵の動きを止める時に使うんだけど。それから二つ目は簡易魔法:転移と言う。これは前に聞いていたので、詳しく話す必要もないと思うが一応説明しよう。この魔法は現在自分が居る地点から一度行った場所に瞬間移動が出来るという便利な魔法なのである。つまり俺が居るこのギルドから村に戻る事が出来るという事だな。
簡易魔法に属してはいるが、一般人で使える人は少ない魔法らしい。
最後の三つ目は属性魔法:トルネードだ。階級で言うと中級に分類される魔法で、大人一人分の竜巻きを起こすという効果なのだが、精霊武具の力により、それの攻撃力や効果範囲は広げる事に成功していた。
それぞれの消費魔力も上から15、50、50と俺にとってはそれほど高い消費量ではなかった。
「さて、ランクアップも無事にしたようだし、もう行きましょう」
「ああ、そうだな」
俺はそう返事をしてその場をあとにした。ちなみにあそこはランクアップ専門の受付らしい。前から何度も思っているが、受付が多過ぎる気がするのは俺だけだろうか。
「それにしても随分と早くCまで上がれたよなぁ」
「でもどれくらい経ったのかしらね?」
「さあな」
俺もハンターになってから詳しい日数までは覚えていないが、ランクは尋常じゃないスピードで上がっていると思う。これも全てアイ達のおかげなのだが、親しくなると途端に礼が言いづらくなる。照れがなくなったら言えるように努力しよう。今は無理だ。
「まあ、なんにしろ。これからも頑張ろうぜ」
「ええ、そうね」
現在、俺とアイは二人で王都の街を歩いていた。客寄せの声や子どもがはしゃぐ声で今日も大賑わいである。ラミリ―は店もあるので、今は一緒に行動していない。クエストは明日にならないと魔法が使えないので、休暇と思えばちょうどいいだろう。
「ところで、お前もランクアップは近いのか?」
俺は自分がランクアップした事もあり、アイの現状も気になったので訊いてみた。
「私はあと27回Cランクのクエストを成功させればランクアップね。Bランクのクエストはまだ成功した事がないから、30回も残ってるけど」
アイはそう言って苦笑する。どうやらBランクというのは俺が思っている以上に難しいクエストらしい。Cランクですら苦戦させられたのだから、当然といえば当然なのかもしれない。
「へぇ、俺が最初にカードを見せてもらった時はお前の成功数が58回だったよな? という事はアイがCに上がった時の成功数は40回ぐらいになるのか」
「ええ、私はEの時にDランクを10回、Dの時に同じランクを30回成功させてCに上がったのよ。
それからアンタと会うまでに18回Cランクのクエストを成功させていたから、これまでのプラスして、残り27回でランクアップになるわね」
つまりアイはCランククエストだけでランクアップをしようとしていた訳か。
「Bランクってそんなに難しいクエストが多いのか? それにBランクの仲間が居たんだろう?」
俺は気になってそう訊ねてみた。たしか前に聞いた話だとアイ達にはBランクも資格を持った仲間がいたはずだ。その人はどうなったのだろうか?
「あの人はいつも安全主義なのよ。一人ではBランクのクエストに挑む癖に私達の事は連れて行ってくれなかったわ。だから私もムカついてラミリ―と二人で行ったのだけど、結果は惨敗。
まあ、必死に止められたのを遮って行ったのは悪いと思ってるけど。あの人は私達の事を過保護に扱い過ぎてるのよ。私がボロボロになった姿を見せた瞬間、卒倒した人だから」
「へ、へぇー」
俺はそんな奴が仲間に居たのかと少し会ってみたい衝動にかられる。
「で、そいつは今なにをしてるんだ?」
興味本位でそう訊ねてみると、アイは少しだけ逡巡して見せた。
「そうね……。たしか修行とか言って旅に出てたと思うわ。私とラミリ―を止められなかった自分を責めていたそうよ」
それはなんというか……。
「変わった奴なんだな」
止める前に一緒に行ってやれば良かったのに。なぜ、そうしなかったのか。
「まあ、変わってるといえばその通りなんだけどね。でも面倒見はいい人なのよ」
「へぇ」
やっぱり、俺はそのBランクの奴に会ってみたいと思うようになっていた。どんな奴にしろアイ達の仲間だったのだ。一目見たいと思うのは当然である。
するとアイは思い出したように「そういえば」と口を開いた。
「アンタの《断罪魔法》の二つ目の能力だけど、アレは序盤から使う訳にはいかないわよね……」
「そうだな。それには激しく同意するよ」
俺が《断罪魔法》:有罪パターン1・トールハンマーを使えるようになってからしばらくした日。《断罪魔法》:祝福パターン1・ホーリーエンジェルという回復魔法が使えるようになった訳だが、こいつの効果がは凄まじいものだった。
ホーリーエンジェルは絶対回復能力と絶対蘇生能力を完備した魔法だったのだ。発動する切欠となったのは当然、魔物との戦闘だった。
この世界にももちろん普通の動物は存在する。魔物だけという事はあらず、あらゆる場所に普通の動植物も存在しているのだ。代表的な動物が犬。あいつらは人の多いこの街に居るが、王都を出た外の場所にも野生として生きているのが分かった。そんな犬なのだが、俺達の魔物との戦闘に巻き込んでしまい、死なせてしまったのだ。
俺は少しドライだと思われるかもしれないが、その犬の骸に《断罪魔法》を試してみたのである。すると発動したのはトールハンマーではなく、ホーリーエンジェルという魔法だったのだ。
この能力は先程も述べた通り、絶対的な回復効果と蘇生効果を秘めている。なので死んでしまったはずの犬はたちまち元気になり、俺達が我に返る頃にはもうその場に居なかったのである。そして後に、分かった事がもう三つあった。
それはホーリーエンジェルを使った後は、他の魔法が一切使えなくなるという事だ。それからこの魔法の効果で蘇生した生物の数と魔法が使えなくなる日数が同じという事も分かった。
付加魔法:効果対象無制限と合わせて使う事で分かった結果である。つまり生物が二体生き返らせれば二日。三体なら三日だけ魔法が使えなくなるという訳だ。
デメリットはあるが、それを感じさせないほど凄まじい効果なのは間違えない。さらに、回復魔法のみを発動する場合は半日だけ魔法が使えない事も確認済みだ。まあ、確認したのはつい最近なのだが。というか、今日だけど。
「でも色々実験の為に使っただけで、使わないに越した事のない効果だよな」
「そうね。あれを使う機会がこれからも訪れない事を願うばかりだわ。デメリットもあるし」
だけど獲得しておいてよかったと思える効果なのは確かだから良しとしよう。それから《断罪魔法》には制限があり、三つまでしか異なる効果を保持する事が出来ないようだ。
俺が今使える効果は二つ。空中の敵に対しては絶対的な破壊効果を齎す《断罪魔法》:有罪パターン1・トールハンマー。生物を蘇生させる能力を持つ《断罪魔法》:祝福パターン1・ホーリーエンジェルの二つである。だから制限としてあと一つまでしか獲得する事が出来ない。
それ以降は獲得するにはどうしたら良いのか分からないが、そのうち知る事が出来るだろう。ステータスのレベルというのも未だに1だが、上がれば何か変わるかもしれない。
「まあ、トールハンマーのデメリットの方が生活する分には最悪よね」
「たしかに。俺はもう死ぬかと思ったぜ」
「大げさ……って言えないのが恐ろしいわ」
そう。ホーリーエンジェルにデメリットがあったのだから、トールハンマーにも当然デメリットはあった。
それは五感の消失。トールハンマーを行使した次の日、俺は一日だけ五感の全てを失ったのだ。突然の事でパニックになりかけたが、あの声が頭の中で大丈夫だと教えてくれたので助かったと言える。
「さすがの私でも慌てたわよ。だって、アンタに《断罪魔法》をやるように進めたは私なんだから」
「お前が気にする必要はないんだけどな。まあ、なんにせよ。この《断罪魔法》を使う時はデメリットを承知の上で使うしかないだろうよ」
俺はそう言って、アイと二人で街中を歩き続けた。たまにこういう散歩みたいのも良いものだなと思いながら前を向く。明日はBランクに挑戦してみるのもいいかもな。