13話 断罪の一撃
「ほ、本当にやるのか?」
出来れば穏便に済ませたい俺はあの物騒な解説が載っている魔法を発動したいとは思わなかった。消費魔力は2000と《時間魔法》よりやや少な目だが、千超えなのは変わらない。
そもそも《時間魔法》に関しては消費魔力の割に使い勝手が悪すぎる気がした。俺が思うに、おそらくまだ何らかの効果が隠されていると思った方が妥当だろう。
この世界では未だに名付魔法に関して、分かっていない事が多いと言われている。なら魔法が消費魔力に見合う進化を果たすという可能性もあるのではないだろうか?
(まあ、俺の願望が入ってるのは認めざる負えないな)
それよりも今は《断罪魔法》について考えるのが先だ。
それに対象の行いによって効果が変動するという説明が引っ掛かった。
悪しき者には制裁をと書いてあるが、その制裁がどの程度の物なのか分からない。しかも対象の行いと書いてあるので、無機物には効果がないと思った方がいいかもしれない。いや、まだ実際は試した事がないので確証はもてないが。
「いざって時に使えない魔法だったら困るじゃない。攻撃系にしろ、防御系にしろ。効果が分かっていた方が良いのは明らかよ」
たしかにその通りだが、やはりノリ気がしない。だが、二人の期待に満ちた視線から察するにここから逃れる事は難しそうだった。
なにせ名付魔法は別名、唯一の魔法と言われている、使える人が本人しかいないうえに、極端に数が少ないレアな魔法なのだ。そんな物を二つも持っている訳だが、どうしてこうなった。
それにしてもこの明らかにランダム臭の漂う解説はどうにかならないものだろうか?
《断罪魔法》
対象となる者の行いによって、効果が変動する。善き者には天からの恵みを、
悪しき者には制裁を下す。
消費魔力:2000
行いによって効果が変動するって何だよ。抽象的すぎて伝わらねぇよ。もっと詳しい解説をくれよ。
「それにしてもこの『善き者には天からの恵みを』の部分が気になるな。普通に解釈するなら、悪い奴には攻撃で、良い奴には何かしら恩恵が与えられるって事だと思うけど」
本当にここまで厄介な魔法を使える自分を呪いたくなってきた。
(おお神よ、どうしてこんな魔法を授けたのか)
《世界は貴方の望みを叶えたまでです》
「……ん? 二人とも、今何か言ったか?」
「いいえ、何も言ってないわよ」
「わたくしも何も言っていないですよ」
「そうか」
どうやら答えがない訳ではなく、分からない問題に頭を使い過ぎていよいよ幻聴が聞こえるようになってしまったらしい。
どこかで聞いた事があるような淡々とした声音だったが、今のはなんだったのだろう?
「まあ、とにかく。つべこべ言わずに使ってみなさいよ。男でしょ? 頭より身体を動かしなさい」
なんだかアイが凄まじい暴論で俺に魔法の使用を急かすが、その理屈だとお前は完全に男になるからなと言ってやりたくなった。
あとが怖いので口には出さないが。
俺ってば、こんな情けない野郎だっただろうか?
「それにわたくしも気になります」
「ラミリ―、お前まで……」
二人からここまで熱心に急かされるとさすがにやらなくてはいけないような気がしてくる。俺はどうせいざという時には使わなくてはならないのだと観念する事にした。
「ちょうどタイミング良く、空にはアースプテラが飛んでいる事ですし」
ラミリ―言う通り、たしかにアースプテラが空を自由自在に飛び回っていた。あいつはC級の魔物で俺のハンターライフに初めての泥を塗ってくれた相手なのだ。魔法の使用運転には申し分ない相手である。
「そんじゃあ、やってみますか」
俺はそう言って左手を空で旋回するアースプテラに向けて叫んだ。
「断罪!」
《――――有罪――――!》
瞬間、空に轟く判決がアースプテラに向かって下される。
雲一つない空は突然黒雲に覆い尽くされ、雨霰のような雷が幾重にもその巨体を貫いていく。巨体に似つかわしくないスピードで、その場から離れようとするのだが、一切の動きを雷で塞がれて動けなくなっている。
その雷の柱がどんどん中心に向かって収縮されて行き、最後には巨大な一本の柱が完成してしまう。逃れられない罠に嵌まってしまった獲物の影は、もがきながら幾度もその身体を仰け反らせていた。。
「…………」
「…………」
「…………」
やがて、それが完全に消え去る頃には、既にアースプテラの姿は炭すら残っていなかった。三人とも最早呆然である。あの光景に声さえ出なかった。
「なに今の!? ねえ、なに今の!?」
しばらくしてハっとなり、最初に口を開いたのはアイだった。その慌て様は興奮しているというより、ビビっていると言った方が正しいかもしれない。
「なにって……俺の《断罪魔法》だろう? まあ、落ち付けよ」
それしか返す言葉が思い付かなかった。何と聞かれれば《断罪魔法》だと言うほか見当が付かない。
だってね。あんな一方的な虐殺だとは思わないじゃないですか。怖すぎだってあれは。
「一方的だったのよ!? Cランクの魔物がまるで赤子の手を引き千切るような呆気なさで消滅させられたのよ!? なんでそんなに冷静でいられるの!?」
「冷静でいられるのは単純に驚き過ぎて、テンションが追いついてくれなかったからだけど。それより、その物騒な表現はどうにかならなかったのか?
赤子の手を引き千切るとか、発想がおかしな方向に行き過ぎてるだろ」
要は普段なら苦戦を強いられるCランクの魔物を、ほぼ一回の魔法で屠ったからだろう。アイの興奮は一向に収まる事をしらない。それどころか、ますますヒートアップしたようにも思える。
それからラミリ―は驚き過ぎて声さえ出さずに空を眺めていた。
「…………」
「ラミリー?」
「…………」
呼びかけても返事が無い――と思ったら、彼女は気絶していた。どうやら空の大陸出身のせいか、雷が相当苦手なようだ。おまけに今日はその大陸が俺達の視界の端で雲のように流れている。そりゃあ、気絶でもしたくなるか。
なんとか被害が及ぶような場所に浮かんではいなかったようだが、当たらなくて本当に良かった。あんな太陽のように巨大な大陸に喧嘩を売ったなんて思われたら最悪である。
危ねぇ……。もう少し、周りを見てから使えば良かったぜ。
《断罪魔法:有罪パターン1・トールハンマーを行使できるようになりました》
「…………」
またあの声である。しかも、やはりどこかで聞いた事があるような機械音声。一体、この声はどこから聞こえて来るのだろうか? それともなんだ。俺は疲れてしまっているのか。たしかにここのところクエスト尽くしだが。
「ど、どうしたのよ? 怖い顔して」
「ん? ああ、なんでもない。それより、今日のところはもう帰ろうぜ。《断罪魔法》の効果が一つは分かった訳だし」
「そうね……。ラミリ―を起こしたら、行きましょうか」
俺達はこの《断罪魔法》がどんな効果を齎せてくれるのかまだまだ分からない事尽くしだが、これからはもう少し使ってみた方が良いと結論付けた。
その後。俺は《断罪魔法》:祝福パターン1・ホーリーエンジェルという最強の回復魔法を手に入れるのだった。
14話以降は今書き直し中です。20話前後で章が終わる予定なのでしばしお待ちください