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覚醒 THE ワールド  作者: 明智
第1章
11/17

10話 少年の覚悟

「あ、やっと見つけた!」


 人が多く騒がしいのにも関わらず、はっきりとした声音が俺の耳に届く。声が聞こえた所へ振り向くと、アイがこちらに走ってくるのが見えた。これといって人とぶつかる事なく、すんなりと俺の前にたどり着いた。この中を走ってくるのは至難の業だが、さすが戦闘センスが高いだけはあった。


「どこ行ってたのよ、ヨウタ! 終わったら来いって言っておいたじゃない」


 どうやらアイの居る場所を探している間に、俺の方が逆に探されていたようだ。ギルド職員や他のハンターに尋ねながら向かっていたのだが、結局たどり着けなかったのである。恥ずかしながら、もろ迷子というやつだ。反省さねばなるまい。


「わるい。お前の所に向かおうとしてたんだけど、途中で迷ってた……」

「もう、それなら迷子部屋に居てもらってた方が楽だったわ」

「ははは……」


 思わず乾いた笑いが漏らしてしまう。自分でも情けないが、そうした方がもう少し効率も良かった気がするからだ。アイが見つけてくれるまでかれこれ一時間はさまよっていたから余計にそう思う。だが、俺は多分その迷子部屋にすらたどり着けなかっただろう。


 まあ、迷子部屋にたどり着けるんだったら、最初からアイの居る場所に向かっていたけど。


「で? 登録は出来たの?」

「ああ、カードももらったぞ。ほれ」


ヨウタ・ヤスナギ

ランク:E

使用武器:ナイフ

依頼受付数:0

依頼成功数:0

依頼失敗数:0

称号:名付弐式(ダブルユニーク)


 俺はもらったギルドカードをアイに渡して見せた。これといった内容は書かれていなかったはずだが、いつの間にか称号が増えている。


「いきなり称号持ちなのね」

「ああ、さっきまで出てなかったはずなんだけどな……」


 どうやら自動更新されるというのは本当のようだ。ステータスの方も確かめてみると、職業の覧にハンターの文字が浮かび上がっていた。やったね、無職脱出だぜ。


「アンタは例外なのよ。名付魔法(ユニークマジック)を二つ持っている人なんて世界中探してもアンタぐらいよ」

「大げさなんじゃないのか?」


 いくらユニークが珍しいといっても、さすがにそれは言い過ぎだと思った。


「そんな事ないわよ。だってラミリーですら見つけられていない人材なんだから。あの子は初対面でも相手の名前を知っているような娘なのよ?」


 改めて聞くと、とんでもない奴である。きっとアイも他の人と同様にいきなり名前で呼ばれた経験があるのだろう。少し苦笑いを浮かべていた。


「じゃあ、俺の事を聞いてきたのは珍しかったんだな」

「珍しいどころか、あんなの初めてよ。まあ、そのおかげでアンタがこの世界の人間じゃないのが本当なんだって分かったんだけどね」


 そう言って、アイは歩き出す。いつまでもここに居ては邪魔になると判断したのかもしれない。俺はその後をゆっくりと追いながら、声をかける。


「なんだ? まだ疑ってたのか?」


 出身を見て信じてもらえていたと思ったのだが、俺の勘違いだったのかもしれない。


 そう思っていると、彼女の苦笑がこの場に居ないラミリ―ではなく、今度は俺に向いている事に気付いた。


「だってあんな簡単に魔法を使いこなせるような奴が、魔法を知らない世界から来たなんて信じられなかったのよ。

 疑ってたとは悪いと思ってるけど……。私だって始めて魔法を使えるようになるまで一年はかかったのよ?」

「いや、それこそ冗談だろ?」

「いいえ、残念だけど事実よ」


 俺は彼女の言う事の方がいまいち信じられなかった。なにせ現在覚えている魔法はほとんどがアイに教えてもらったものだ。数も今の俺が足元にも及ばないほど多く、属性魔法エレメンタルマジックも火、風、陽と豊富だった。


 そんな彼女がたった一つの魔法を覚えるのに、一年もかかるとは思えなかったのだ。


「まあ、とりあえずこの話は置いておきましょう」

「ん? ああ、俺は構わないが」

「じゃあ、これからどうするかなんだけど、ラミリ―の所に行くわよ」


 話はなぜか切り替えられ、俺達はラミリ―の店に再び行く事になった。




「いらっしゃいませ! ……あっ! お二人とも、ようやく来てくれましたか! お待ちしていました!」


 店の中に入ると、ラミリ―の元気な声が出迎えてくれた。どうやら俺達を待っていたとの事だが、何かあったのだろうか?


「ええ、ヨウタが迷子になってたせいで時間がかかちゃったのよ」

「ふふふ、初めての場所なのですし、分からなくなる事もありますよ」


 なんだか二人で会話が始まってしまったようだが、それを話題にするのはやめてもらいたかった。それよりもラミリ―が待っていたという理由を知りたい。


「俺らを待ってたっつうのはどういう事だ?」

「あ、それはランクとパーティーについて説明しながら話すわ」

「そうですね」


 そう言うと、二人は徐に俺の方へ向き直った。


「まずはハンター登録おめでとうございます」

「あ、うん。ありがとう?」


 登録してきただけでおめでとうと言われるのも疑問だが、ここは素直にお礼を言っておく。どうせなら初クエストをクリアした時に言ってほしい台詞ではあったが。


 そんな事を考えていると、ふと大事な事を思い出す。


(あっ! そういえば、Eランクのクエストを見てきてねぇぞ!)


「ふふ、そのクエストの事も話しますよ」

「ん? あー、もしかして声に出てたか?」

「はい、しっかり」


 これはかなり恥ずかしかった。自分はいつからこんなドジになってしまったのだろう。今日の迷子といい、誰かさんに移されたとしか思えないほどの失敗様だ。


「それでお前達は新米ハンターの俺に何を教えてくれるんだ?」

「えっと、それはですね。まず、ランク。それからクエストとパーティについて説明します。本来はギルド職員に聞けば良いのですが……」

「私がラミリ―に頼んでおいたのよ」

「ほう」


 なるほど、アイがギルドから俺を早々と連れだした理由とラミリ―が俺達を待っていたという理由は一緒だったのか。


「というか、職員から聞けるってどういう事だ、おい」

「本当はハンター登録をした後に資料を渡されながらギルド職員にクエストやランク、パーティーの説明してもらえるのよ。

だけど、アンタがこの世界の文字を読めない事と、魔力量が桁違い過ぎて驚いた職員が説明をちゃんと出来るのか心配になっちゃったの。

それでアンタが登録をしている間に私はもう一度、この店に来てラミリ―に頼んでおいた訳」

「本音はアイ様の口から説明してあげたかっただけですよね?」

「ちょっとラミリー!」


 なんだかアイが一瞬、凄く頭の良い奴に見えてしまった自分が悔しい。ギルドで起きたあれだけのやりとりで、俺のためにここまで考えてくれているとは思わなかったのだ。


 だが、それにも関わらず悔しいと思ってしまった理由は、アイの頭の回転が速くなっているように思えたからだ。普段、馬鹿だ馬鹿だと思っているのに、なぜか今日だけその立ち位置が入れ変わってしまっているような気がしてならない。


「なんかまた失礼な事を考えてない」

「滅相もございません」

「そう? なら良いんだけど」


 相も変わらず勘が鋭い。俺もすでに誤魔化すのがお手の物にはなっているが、いきなり言われると少しドキッとしてしまう。まあ、彼女の事を馬鹿にしてる自分も奇行によって死にかけているのだが……。


「それで? このランクという奴はどうやって上げるんだ?」

「ランクはクエストを決められた数だけクリアするか。相応な功績を残す事で上げる事が出来ます。前者は最も一般的ですが、後者は運と巡り合わせがないと起きない上げ方ですね」

「決められた数という事はEランクのクエストを十回クリアするとかか?」

「そうです。ここで大事なのがどのランクのクエストを受けるかになります。ランクに応じて成功すれば、すぐに上げる事も出来ますから」

「ん? ちょっと待て。俺はEランクだからEランクのクエストしか受けられないんじゃないのか?」


 俺がそう訊くと、ラミリ―首を横に振るった。どうやらそこは違うらしい。


「つまり、他のランクも受けられると?」

「はい。でも、受けられるのはクエストは自分が現在ランクの上下一つまでなんです。ヨウタ様はEランクなので、DとEのクエストを受ける事が出来ますね。

Dに上がればC、D、Eと受けられる数も増えますが、ランクが上がって行くと逆に下位クエストが受けられなくなるのです」

「私だったらB、C、Dのクエストは受けられるけど、AとEのクエストは受けられないという事よ」


 ほう。という事はさっきラミリ―が受けるクエストのランクによって上げるのが早くなると言っていたが、俺の場合はDランクのクエストを中心に行えばランクアップも近い訳か。


「じゃあ、自分のランクより下のクエストでもランクは上げられるのか?」

「いえ、それは出来ません」

「あれはあくまで息抜きみたいなものね。本来はお金に困った時、低いレベルであればすぐにクリア出来るだろうし、数もこなせるから稼ぎになるだろうって考えられたらしいけど」

「へぇ、色々考えられてるんだな」


 たしかに俺も某狩りゲーで武器を造るためのお金に困った時、なかなかクリア出来ないクエストをやるより、少しランクの低いクエストをやりまくって稼いでた時があったから分かる。あれは楽だし、すぐに稼げる。慣れてからは上位とかだけで大丈夫だったが。


「で、そのクリアしなければならない数なのですが、ヨウタ様のランクなら十回、一つ上のDを受けるなら五回という回数になります。それからDなったら三十回、Cを受ければ十五回とランクに応じてクリアしなければならない回数もどんどん増えて行きます」


 もちろん失敗してしまえばランクを上げる事は出来ないだろう。それどころか、失敗する事で生じるデメリットも知っておきたかった。ハンターギルドというのはある種の商売なのだ。ギルドはクエストのクリアを約束する事で、依頼主からお金を受け取っている。


それを考えると失敗は出来ないし、逆に違約金を払わなければならない可能性も高いのではないだろうか。


「失敗した時のデメリットとかってなんだ?」

「ありません」

「は?」


 一瞬、何を言われたのか分からなかった。即答過ぎて分からなかったのか、それとも正しく聞き取れた上で思考が意味を理解しなかったのか、それさえも分からないほど、予想外な返答がきた気がする。


「ないって……そりゃねえだろ」

「正確にはありますが、そこまで重く考えるような事ではないのです。そもそもハンターは世界(アイリス)中に沢山居ますから、失敗してもすぐに他の方達がクリアしてくれるのです。

そのかわり失敗すれば最低でも数週間、自分のランクより一つ低いクエストしか受けられなくなりますが」


たしかにそれはあまりデメリットとは言わなかった。どちらかというと、少しは強くなって来いという意味すら込められている気すらしてくる。


「もしあったとしたら、私は今頃アンタに付き合ったりとかしてられないわよ」

「む? たしかに」


 俺はそういえばとアイのカードの内容を思い出す。


「お前は十二回も失敗してるんだったな」

「うるさいわね。それを言ったら、ラミリ―だって一緒よ」

「そうなのか?」


 俺はラミリ―にそう訊ねた。彼女は「そうです」と言ってコクリと首肯した。


「わたくしとアイ様はパーティーが一緒で、よく一緒に行きますから」

「それでもソロとかなら何とかなってるんだろ? 逆に」

「いえ、そんな事はありませんよ」

「なにそれ? 私のせいで失敗してるとでも言いたいの?」


 俺の言葉が聞き捨てならなかったのか、アイはこちらをジロリと睨みつけてくる。俺は軽く「わるい」と言って難を逃れた。


「むしろソロで行った方が危険が伴う可能性が高くなります。パーティーを組んで行けば、それだけで強力したり励ましあったりも出来ますから。それにわたくしの場合は、支援系の魔法が多く、後衛の際立ちますから」

「そういうものなのか。じゃあ、お前らはCランクのパーティーなんだな?」

「はい、そうなりますね。本当はあと一人、Bランクの方がいらっしゃるのですが、ここには居ないので紹介は省かせて下さい」

「分かった」


 Bランク一人とCランク二人のパーティーか。クエストを受ける時の決まりがあるから、そのパーティーが受けられるクエストはBとCのやつだけという事になるのだろう。


「それで今度はそのパーティーってのを教えてくれ」

「はい。パーティーとは三人以上で組む仲間の事です」

「…………」

「…………」

「……」

「……?」

「えっ!? それだけか!? 他に説明は?」

「それだけですよ?」


 どうやら本当にそれだけらしい。彼女は俺が何かしらの返事を返して来るのを待っていたようだ。何も言い返さなかったから、沈黙が訪れたとみて間違いなかった。


「まあ、そんなところです。あとはハンターを続けているうちに覚えていくと思うので焦らずに頑張ばどうにかなりますよ」

「なんかラミリ―に言われると、妙に安心感があるなぁ」

「ふふ、恐縮です」


 これぞ天使パワーというやつか。いつも戦闘系美少女と一緒にいるから、こういう天使系美少女と一緒に居るとユウさんとは別の意味で癒される。


「でも、油断しちゃ駄目よ? たまにギルド側からランク以上の依頼を任される時もあるから」

「だけど、それって滅多にないんだろう?」

「そうね。それでも絶対にないという訳じゃないから。とくにアンタの場合、ランクは最低でも力はそれ以上なんだから、実力を発揮できるようになった時は覚悟しておいた方がいいわよ?」

「ああ、肝に銘じるよ」

「ええ、そうしなさい」


 何はともあれ、これで俺も正式なハンターである。ある程度、この世界の知識も増えてきたし、そのうち《断罪魔法(ジャッジメント)を使う機会も出てくるだろう。今はまだ使うのが怖くて使用テストすらしていないが、そろそろそっちの覚悟も決めておいた方がいいのかもしれないな。


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