プロローグ 力の目覚め
目が覚めたら異世界だった。
……いや、唐突過ぎて何を言っているのか分からないと思うが、間違った事を言っていないのも確かだ。
空を見上げると快晴で暑苦しいと思えるぐらい太陽が輝いている。そんな太陽が俺の目にはどうも一つではなく、二つに見えていた。しかも片方はゆっくりとだが動いているように感じる。
それだけじゃない。空を飛び交う鳥の大きさたるや、アレは何の恐竜ですかと思わず虚空に訊ねてしまったほどだった。
それほど大きな鳥が飛んでいた。
そこまではまあ、良しとしよう。
昨日まで日雇いのバイトを連続でこなしてきた俺は家に帰ると、そのまま眠ってしまっていた。ならこれは夢なんだと当然思う。
そんな思考もあり、夢の中なら怪我もしないだろうと思って、近くの崖から思いっきりヒャッハァー(飛び降り)したのだ。
しかし、それがまずかった。
この世界が、夢なのではなく現実だとしたら俺の身体はどうなる? 当然、落下するよ。フォールダウンだよ。空に身体を投げ出した一瞬の浮遊感はさることながら、落ちて行く時の速度、風圧、恐怖。あれは紛れも無く本物だった。
何よりこの痛み。夢の中だったらとっくに覚めてもおかしくないものだった。
「痛っ!」
俺は思わずしかめっ面を浮かべる。背中に走る激痛を耐えるにはそれしかなかった。立ち上がる事すら出来ないこの状態で、治療など出来るはずもない。それどころか、今口から漏れた声さえ、逆に辛くなるだけだった。心なしか、さっきより視界が狭い。
あーもう、こりゃ死んだな俺。バットエンドですよちくしょう。
(くっそ、せっかくあそこまでバイト代稼いだのに、どうして……)
俺は薄れ行く意識の中で自分の境遇を呪う事しか出来なかった。眠い。ただひたすら眠い。目を開けているだけで辛い。
そうだ。どうせ死ぬんだし、ここで寝てしまおう。起きたらきっと天国か地獄だ。
次こそはまともな生き方をしてえなぁ…………。
《断罪魔法の獲得。及び時間魔法を発動を確認。修復します…………修復完了》
耳元で誰かの声が聞こえた気がする。だけど、もう関係ない。
短い間だったが、さらば異世界。おやすみ俺の人生。