第1話 最悪な関係
はじめまして。
今回は、素直になれない二人の物語です。
「嫌い」と言いながら、本当は誰よりも大切に想っている。
そんな不器用な恋を、最後まで見届けていただけたら嬉しいです。
「……また、お前か。」
朝のホームルーム前。
生徒会室から出てきた白石湊は、廊下の壁にもたれている男子を見てため息をついた。
制服は着崩れ、ネクタイは緩い。
耳にはピアス。
教師から何度注意されても直さない。
黒瀬悠だった。
「おはよう、生徒会長。」
「その呼び方やめて。」
「え、じゃあ委員長?」
「違う。」
「湊。」
「もっと違う。」
黒瀬は肩を揺らして笑う。
その笑顔に、白石は小さくため息をついた。
「朝から何の用。」
「別に。」
「じゃあどいて。」
「嫌。」
廊下の真ん中に立ちはだかる。
完全な嫌がらせだった。
「……はぁ。」
白石が横を通ろうとすると、黒瀬は一歩だけ同じ方向へ動く。
右へ行けば右。
左へ行けば左。
「子ども?」
「遊んでる。」
「僕は遊んでない。」
「つれねぇな。」
そんなやり取りを見ていたクラスメイトが笑う。
「また黒瀬が会長に絡んでる。」
「ほんと嫌いなんだな、あいつ。」
「会長も災難だよね。」
その言葉に、黒瀬は口元だけ笑った。
そう思ってくれればいい。
嫌われてる。
それで十分だ。
「どいて。」
「やだ。」
「遅刻するよ。」
「なら一緒に怒られようぜ。」
「断る。」
白石は黒瀬の肩を軽く押して横を抜ける。
その一瞬だった。
後ろから誰かが勢いよく走ってきた。
「危ない!」
振り返る暇もない。
ぶつかる――そう思った瞬間。
ぐいっ。
腕を引かれた。
体がふわりと後ろへ流れる。
目の前を男子生徒が駆け抜けていった。
「……。」
白石はゆっくり黒瀬を見る。
黒瀬は何事もなかったように手を離した。
「ぼーっと歩いてるからだろ。」
「今……。」
「じゃ。」
黒瀬はポケットに手を突っ込み、そのまま歩いていく。
振り返りもしない。
白石は小さく息を吐いた。
「……ありがとう。」
その声は届いていないはずだった。
けれど。
少し離れた場所を歩く黒瀬の耳だけが、ほんの少し赤くなっていた。
白石は苦笑する。
「本当に、不器用。」
その独り言は、誰にも聞こえなかった。
第1話を読んでいただき、ありがとうございました。
黒瀬と白石は、まだお互いに本心を隠したままです。
これから少しずつ距離が変わっていく二人を見守っていただけたら嬉しいです。
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