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floor lover  作者: 桔梗
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Chapter5


前日の不安を残していた私と岡田は、支店の裏口で待ち合わせて、二人で出社することにした。


私が先について裏口の前で待っていると、「おはよ,麻衣子!お待たせー」と岡田が走ってきた。


「ううん、今着いたとこだから、大丈夫ー」


「行くかー。なんか怖いよな」


「それな……すごい不安なんだけど」


と言いながらそこにい続けることもできず、私たちはそっと裏口を開けたのだった。


土地開発部のエリアに向かった私たちを待ち受けていたのは、なんとも言えない重たい空気の社員たちだった。

まだ勤務開始時間よりかなり時間があるにも関わらず、皆バタバタと慌てて資料のようなものを用意をしている。


「あっ!やっときた!あなたたち新入社員の岡田君と間宮さんだよね?」


と、ぽっちゃり体型の女性が慌てた様子で声をかけてきた。


「あ、はい!」と岡田。


「今日から、よろしくお願いします」と私。


「あ、ごめんね!今ちょっと時間なくて……早速で悪いんだけど、この後八時から会議だからさ、

この資料を2階のセミナールームに並べていてもらえるかな?」


「え……あ、はい!」と岡田。


私たちは急いで渡された資料を2階に運び、並べ方がわからず、とりあえずある分だけ席においた。



「おい、準備終わってるのか?」


そう言ってギロっと周囲を見渡しているのは、昨日怒鳴り声をあげていた倉木だった。


「あ、はい。新入社員に手伝ってもらいました!」と、先ほどのぽちゃっとした女性が答える。


まるで軍隊みたいなやりとりに私は少し驚いた。


「じゃあ、セミナールームに10分後に集合で」と板倉。


「はい」とその場にいた全員が答えた。

ここにいるのは営業職のはずだけど、私と岡田を入れて九人しかいない。

なんか思ってたより少ないなと思った。


そして、呆然と立ち尽くす私と岡田に、原田さんが声をかけてくれた。


「昨日の今日でごめんね。今日は火曜日でしょ、毎週火曜日は定例会議なんだ。それでこの有様」


「そうなんですね……」と岡田。


「とりあえず、2階に行こうか。資料準備してくれたんだって?ありがとね」


「いえ、並べただけですので」と私。


そうして全員で2階に向かっている時、ちょうど裏口から他の同期たちがゾロゾロ入ってきた。


(こいつらと同じ時間に来てたら完全アウトだったな…)と内心ヒヤッとした。


昨日までは一緒に出勤する予定だったのだが、私はなぜか嫌な予感がしたので、岡田に早めに行こうと伝えたのだ。

本当に危なかった。(原田さん、昨日のうちに言ってくれたらよかったのに…)と思った。


そして、いよいよ定例会議とやらが始まったのだがーーなんだこの空気は。


まるで、お葬式のようだと思っていると、「おはようございます。では、今日の株価から発表します」と、

突然一人の男性社員が立って話し始めた。


(ん?何事?)


その男性は株価を発表すると、次は新聞発表とやらを始めた。

しばらくその男性の発表とやらをみんなで静かに聞いていたのだが、

突然倉木が「おい、お前なんでそんな記事を選んだ?」と淡々と聞いた。


(あれ?確かさっき選んだ理由も言ってたような…)


と不思議に思っていると、男性社員が恐る恐る口を開いた。


「えっと…、土地の価格が高騰したので、重要だと思いました」


「おい。お前、その土地って大阪のだろうが」と倉木。


「はい。申し訳ございません…」と男性社員。


男性社員の声は震えている。


「もういい。会議を始めよう」と倉木。


(え?会議まだ始まってなかったの?)


ようやく始まった定例会議とやらは、私と岡田にはさっぱりの難しい内容で、不安だけが押し寄せた。

そうして、1時間の定例が終わると、「じゃあ、今日はここまで。新入社員の二人は昨日もしてくれたけど、昨日いなかったメンバーが多いから、もう一回自己紹介してくれるかな?」と倉木。


私は(急に!?)と、とんでもなく緊張した。

岡田も同じく緊張しているようで、話始める様子がなかったので、

岡田にそっとアイコンタクトしてから、私は立ち上がった。


「えっと…。この度、立川支店土地開発部土地開発営業に配属されました。間宮 麻衣子です。出身は福岡県久留米市です。至らぬ点も多いと思いますが、どうかご指導ご鞭撻の程、よろしくお願いいたします」


私が言い終えると、みんな拍手してくれたので、頭をもう一度下げてから座った。


「大阪府出身、岡田 友也です…。よろしくお願いします」


岡田は緊張していたのか、昨日の自己紹介よりもかなり短く済ませた。

みんなが拍手をして、岡田も頭を下げて座った。


「ということで、今年の新入社員は二名です。みんなこれからよろしく。

それから、二人のOJTだけどーー間宮さんは原田が担当で、岡田は久世にお願いすることになったから。

じゃあ、そういうことで」と倉木は言い残してセミナールームを出て行った。


そうして、初日の怒涛の会議が終了したのだった。



午後は営業先への同行だった。


私は原田さんと雑談しながら三件の既存顧客を訪問した。どの顧客も六十歳を超え、余裕ある老後を送っている様子だった。


(自分には無縁の未来だな)


少しだけ寂しくなりながらも、笑顔だけは絶やさなかった。


「間宮さん、本当にお客さん受けいいね。この調子ならすぐ契約取れそうだ」


「いえ、私は原田さんの横で笑っていただけですので……」


「いや、それが難しいんだよ。初日であの空気出せるのは才能だよ。自信もって!」


私は少し調子に乗りそうになりながらも、(こんなのは学生時代のバイトに比べたら、全然マシだ)と思っていた。


支店に戻ったのは十七時過ぎ。


駐車場で車を降りると、原田さんが言った。


「そういえば、間宮さんさ、今日夜って時間ある?」


(え……これって……?)


私が一瞬考え込んでいると、


「あ、ごめん違う違う。支店長が歓迎会やろうって言い出して、急遽バーベキューになったんだ。立飛の方に大人数でバーベキューできるところがあるんだ」


それなら、と私は即答した。


(同期でご飯行く話もあったけど……まあ、みんなこっち来るよね)


支店に戻ると、普段は残業する人も多いらしいが、今日は皆バーベキュー優先らしい。


業務説明を受けていると、支店長が声をかけてきた。


「お前たちもそろそろ行けよー」


こうして私たちも会場へ向かった。



急に決まったと聞いていたのに、会場にはほとんどの社員が集まっていた。


グループLINEで同期も全員来ていることを確認し、私と岡田は合流することにした。


「おーい!麻衣子!こっちこっち!」


藤沢が大きく手を振っている。


「みんなもうおるな。麻衣子、行こや」


岡田に促され、歩き出す。


そのときだった。


藤沢の後ろに、見覚えのない男性たちがいるのに気づいた。


そして、その中の一人と目が合った瞬間――


まるで雷に打たれたように、心臓が跳ねた。


いや、違う。


跳ねたのは、心の方だった。


二十二年間生きてきて、一度も感じたことのない衝撃だった。

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