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さみしがりやの末っ子アイドルは、仕事ばかりの30才バツイチに愛されたい <dulcisシリーズ>  作者: はなたろう


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#5 ケイタの誘惑

「い、いたたぁ……!」



ケイタはソファの下にうずくまって唸っている。



押し倒されて、襲われる!そう思ったら、咄嗟に体が動いてしまった。


ケイタの左手首をひねり上げ、横腹に膝蹴り一発入れると、勢いよくソファから転がり落ちた。


顔は狙ってないけど、さすがアイドルなのだろうか、咄嗟に顔をかばいながら落ちて行った。



「私、空手の有段者なんです」



近所に道場があったので、小学生から高校まで、護身術として習っていてよかった。



「クライアントに手を上げていいの?」



「う、それは」



「あ、おなか痛い」



「自己防衛とはいえ、すみません」



「明日のダンスレッスン、さぼれるかな。アラタの振り付け苦手なんだよ、クセがあるから」



そんなの知らんがな。



「あの、パンプス取ってもいいですか?片方、脱げてしまったので」



去年の冬のボーナスで買った、dulcis〈ドゥルキス〉のコウキがアンバサダーを務めるBELTAの赤いパンプス。


ケイタの後ろに転がっている。



「反対も脱いじゃいなよ」




もう片方のパンプスを奪われ、ポイッと投げ捨てられた。



「ちょっと、お気に入りなのに!」


「もっといいのを買ってあげるよ。他のメンバーが関わってないブランドのをね」


「は?」


「それより、もう一度やりなおし。こっちは負傷者だから、上に乗ってもらえばいいよ」



よっこいしょ、なんて言いながらソファに這い上がる。



「あの、ケイタさん?」



「それさぁ、ボクの方が年下なんだから、呼び捨てでいいよ。敬語も好きじゃない」



「そういう話ではなく、何してるんです?」



何でベルトを外しているのか分かりません。



「いやいや!待って、お願い、ストップ!」



パンツまで脱ごうとしないで。


個人的には、靴と靴下は先に脱いでおいてほしい。いや、そういうことじゃない。思わず自分で自分につっこんでしまう。



「体を売って仕事を取るみたいなことは、絶対にしません」


「なんで?ボクのことキライ?」



そんな馬鹿なと言わんばかりに、驚いた顔をする。



「自信があります。そんなことをしなくても」


「へえ」



今度は楽しそうに目を輝かせる。ころころと表情が変わるのは、画面の中でもそうだった。



「女を抱きたいなら、さっきのキレイなお姉さんにお願いしてください」


「すぐに足を開くような女だよ。そのくせ、プライドばっかり高くて、抱いても楽しくないもん」



なるほど、彼女たちとはすでにそういう関係っていうことか。



「そういう意味なら、私も同じです」


「同じ?」


「私もプライドが高いんです。仕事に対しては」



妥協しません。どんな小さい仕事でも。


目の前のクライアントが望むなら、望んだ以上を出してやりたい。こりゃやられた!と、思わせるくらいがいい。


もっと賢くできれば、楽に稼げるかもしれない。でも、それができない人間が集まっているのが、ゲンキライブ企画。



新卒で入社した大手広告代理店から、転職すると決めたとき、親には大反対された。任せてもらえる魅力。結婚相手を大事にできないくらい、仕事に夢中になっていた。


離婚したのも納得な結果だと思う。



「仕事やお金のために、寝るなんてありえないってこと?」


「そうです」



「ボクだってプライドがあるよ。顔と身体と、女の子を喜ばせるテクニックには自信はあるんだ」



「ケイタさん、テレビとはだいぶイメージは違いますね」


「アイドルなんて偶像崇拝だよ」


「そうかもしれませんね」



私が同意すると、嬉しそうに頷いた。



「ボクとエッチしたら、考えも変わると思うよ」


「年上をからかうのが趣味ですか?」


「そんなことないよ。とっても真剣」


「とにかく、着衣を整えてください」



ケイタは一度外したベルトを渋々と戻すと、空になったグラスにまたシャンパンを注いだ。



「もう、いったい何なんですか?」



高いであろうシャンパンを飲み干すと、ケイタは少しだけ声を荒げた。



「もう、なんで覚えてないの?」


「え?」


「ひどいよ、杏ちゃん」



――杏ちゃん?



「杏ちゃんは、変わっていないね。まじめで、まっすぐで、キラキラしてる」


「どこかで、会った……?」



接待で行ったホストクラブにいた?いや、こんなイケメンがいたら忘れるはずない。大学時代のバイト、塾の生徒とか?



「ボクのお嫁さんになるって約束したのに」



「ちょっとっ!」



突然、奪われた唇。



考えに集中していて反応が遅れてしまった。私の拳が空を切る。そのまま、ケイタの手に収まる。



「杏ちゃん、本当に覚えてないんだね」


ケイタが寂しそうに、長いまつ毛を伏せた。

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