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さみしがりやの末っ子アイドルは、仕事ばかりの30才バツイチに愛されたい <dulcisシリーズ>  作者: はなたろう


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#3 アイドル事務所

「すごいオフィスですね」


営業部のエース、小山君は完全に浮き足立っていた。


大人気アイドルのdulcis〈ドゥルキス〉が所属する事務所。ガラス張りで開放感のある会議室に通された。


「オドオドするな、小山。お前ももう少し服装と髪型を変えれば、ここの所属タレントでいけるぞ」


「合コンでの受けはいいけど、それは言い過ぎですよ」



社内でも人気な小山くんだが、事務所のそこかしこに飾られた、アイドルたちのポスターを見ると、その差は歴然では?



「杏菜さん、ひどいです。でも、そんな冷たいところも好きです」


「おい、よそでやれ」


「よそでもやめてよ」


「遅いですねーー、担当の人」


和泉さんと小山君のいつもの漫才のようなやり取りも、今の私には遠くで鳴っているBGMのようだった。


先週、突然舞い込んだビッグ案件。

それ以来、社内はdulcis一色になった。


ライブDVDを観込み、雑誌を漁り、五色のメンバーカラーに囲まれる日々。

正直、離婚した現実から目を逸らすには絶好の忙しさだった。


「お待たせしました」


入ってきたのは、いかにも仕事ができそうな女性マネージャー・葉山さん。


それから、もう一人。


「こんにちは。dulcisのケイタです」


にっこりとアイドルスマイルを見せたのは、この一週間、画面越しに毎日見ていた「ケイちゃん」本人だった。


ゆるくウェーブのかかった、透き通るような金髪。

耳元で揺れるオレンジのピアスが、彼の白い肌によく映えている。


かわいい男の子、というイメージだったけれど、実物は思ったより背が高い。

何より、タイトな黒いシャツの上からでも分かる、鍛えられたしなやかな体躯。

発光しているかのような圧倒的なオーラに、思わず気圧されそうになる。


「デザイナーの加賀杏菜です。よろしくお願いいたします」


和泉さん、小山君に続いて名刺を差し出す。

すると、彼は名刺を受け取った指先を止めて、私をじっと見つめた。


「杏菜さん、かわいいね」


不意打ちだった。

至近距離で見つめられると、彼の瞳が驚くほど澄んでいるのが分かる。

私の百倍、いやそれ以上にかわいい顔をしたアイドルに微笑まれ、心臓が跳ねる。


「え、あ、ありがとうございます……」


「確かに、名刺からもデザイン力が伺えますね」


すかさず葉山さんが仕事の話に引き戻す。

名刺のことか、と少し安堵した私を他所に、ケイタが不満げに口を尖らせた。


「ジャマしないでよ、葉山のお姉さん」


彼はそのまま、私から視線を外さずに続けた。

唇の端を少しだけ上げ、年下特有の生意気さと、男としての色気が混ざったような笑みを浮かべる。


「本日は、秋の海外公演のグッズについてお話を伺いたいと思っています」


話し始めると、それまでの「甘い弟キャラ」の空気がふっと消え、低い声が会議室に響いた。


会議が始まってからも、私は奇妙な違和感を抱いていた。


何度も、視線がぶつかる。

目が合うたびに、彼は悪戯っぽくウィンクをしたり、挑発するように唇をなぞったりする。


ああ、これが「ファンサ」というやつなのね。

さすがプロ、サービス精神がすごい。


そう自分に言い聞かせたけれど。


(……なんだか、やけに熱い気がするんだけど。気のせい?)


仕事用の仮面の下から覗く、獲物を狙うような鋭い視線。

それはただの仕事相手に向けられるものにしては、あまりに質が違いすぎていた。


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