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さみしがりやの末っ子アイドルは、仕事ばかりの30才バツイチに愛されたい <dulcisシリーズ>  作者: はなたろう


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#1浮気現場を見るアラサー

帰宅したら、寝室で夫と知らない女が真っ最中だった。


思わず乾いた笑いが込み上げた。


彼は不快そうに顔をしかめたが、怒っても仕方ない。

人はどうしようもない時、思わず笑ってしまうものらしい。


「なんだよ、なにがおかしい」


「だって、笑うしかないじゃない」


血は繋がらないのに戸籍上は家族である男が、ベッドの上、素っ裸で正座をしている。

おかしいなんてもんじゃない。


「だって、笑うしかないじゃない」


正解があるなら教えて欲しい。


「あの、その、すみません」


毛布で胸を隠した女が口ごもる。


「浮気? 不倫? どう違うのかも分からないし、どっちでも構わないけどね」


床に落ちていたレースの下着を拾い、女の頭にふわりと乗せてあげた。


「夫婦の話があるので、今すぐ消えてくれる?」


 ◆◆◆


「あれ、杏菜。禁煙するんじゃなかった?」


勤務先のビルの屋上で一服をしていると、後ろから声がかかった。上司の和泉さんだ。


「タバコ、やめるのやめました」


「ふぅん。妊活は?」


「それもやめました」


まだ休憩時間はある。


もう一本吸ってから仕事に戻ろう。もう、誰に遠慮もしなくていい。

電子タバコの加熱ボタンを押した。


「杏菜に産休取られたら、仕事が回らないからね、よかったよ」


「それ、ハラスメントですよ」


「優秀な人材だと認めてるんだ。素直に受け入れて欲しいよ」


「離婚しました」


「いつ?」


「先週、離婚届を出しました。さっき、人事には報告しました」


職場ではずっと旧姓である『加賀杏菜』として勤務していたから、周りに離婚したことを説明する手間が省けた。


二人が吐いた紫煙は、晴れた空に溶けて行った。

いい天気だ。太陽の日差しが眩しくて辛い。


「やけ酒なら付き合う」


「禁酒したんじゃなかったですか?」


「やめるのをやめたんだよ」


なるほど、何でも無理してもいいことなんてないか。


「悪かったね」


「はい?」


「仕事で無理をさせ過ぎたことが、原因だろう」


視線を伏せる和泉さん。

そう、多忙が原因だと言えたら良かった。


「自分が反省していることを、部下にまで経験させたとなれば、親御さんにも面目ないな」


四十代になる和泉さんは離婚歴がある。


小学生の息子さんは、別れた旦那さんが育てている。

男性顔負けの仕事ができる女性だけど、時折、寂しそうな顔もしている。


「確かに毎日遅くまで仕事をして、スレ違いがありました。でも、浮気されて離婚になった原因は、仕事じゃないと思っています」


「そうなのか?」


私の勤め先は、ライブグッズの企画会社だ。


ペンライトやアクリルスタンドなどのデザインから、製造管理、自社ECサイトでの販売まで手掛けている。


社員三十名程度の小さな会社。

よく言えばアットホーム、悪く言えば無法地帯だ。

限りなくグレーな環境。


肩書きはチーフデザイナー。

大手からのおこぼれ仕事や、最近ではパチンコ店のPOP作成、住宅展示場のノボリなども作っている。

業界特有なのか、夜型な生活になりがちだ。


「彼はごく普通のホワイト企業だし、元々、考えも合わなかったんですよね」


自分の好きなことを仕事にしているクリエイター気質と、いわゆる会社勤めのサラリーマンでは、仕事に対するモチベーションはまったく違う。


その違いを軽視したまま、結婚生活をはじめてしまった結果がこれだ。


「価値観の違い、でしょうか」


「なるほどな」


二年前、友人が主催した合コンという名の飲み会で元夫に会った。

大手企業、高学歴、顔はそこそこだが百七十八センチという高身長がイケメン風な雰囲気を演出していた。


意気投合してお酒の勢いでその日のうちにホテルに行った。

身体の相性が良かったこともあり、付き合ってわずか半年で結婚。


三十歳という節目を目前に焦りがあり、また友人の結婚ラッシュに後押しされての結婚だった。


「和泉さーーん!」


屋上の扉が開くと、営業の小山君がやって来た。


「杏菜さんもいるならちょうど良かった! 聞いてください。ビッグニュースです!」


「小山君、くだらない話なら怒るよ。私、いま離婚したばかりでオセンチモードなんだから」


「え、離婚? それは、僕にとったら仕事なんかより大事なニュースでチャンスです! 詳しく教えてください」


「おい小山、上司の前でよく言えるな」


和泉さんの肩書きはクリエイティブディレクター。

私の所属する企画と営業チームのボス。


「いいからニュースとやらを教えて」


さらにもう一本吸おうとした。


「あの、人気アイドルのdulcis〈ドゥルキス〉のコンサートグッズ、作成依頼が来てます!」


「あ?」


「なんですって?」


火のついていないタバコをくわえ、和泉さんがポカンとしている。


「嘘でしょう」


こんな小さな会社に、なんでそんな大きな案件が?


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