#0 人気アイドルとバツイツの甘い夜
加賀 杏菜 (30)
職業: ライブグッズ企画会社 チーフデザイナー
バツイチのアラサー。仕事に情熱を注ぐプロフェッショナル。正義感が強い姉御肌タイプ。
ヘビースモーカーで、空手の有段者というタフな一面も持つ。元夫の浮気で離婚したばかり。
ケイタ (23)
職業: 人気アイドルグループ dulcis〈ドゥルキス〉の末っ子メンバー
甘いベビーフェイスで人気を博すキラキラアイドル。天然キャラでバラエティー番組でも活躍中。
幼少期に杏菜と知り合い、一途に想うあまり過激な行動に出ることも……。
和泉 佐和子 (42)
杏菜の上司でクリエイティブディレクター。仕事のパートナーであり、私生活でも杏菜の良き理解者。
バツイチ、子供がひとりいるが親権は元旦那。あんな以上の仕事人間。
葉山 瞳 (42)
dulcis〈ドゥルキス〉が所属する、MICOプロダクションの社員でマネージャー。ケイタをスカウトし、見守る姉のような存在。秘密の恋を黙認する。
小山 元気 (23)
杏菜の後輩。入社2年目、営業部のルーキー。杏菜に惚れている。
田中 祐介 (31)
杏菜の元夫。大手企業勤務、高学歴、高身長の持ち主だったが、浮気が発覚し杏菜に別れを告げられる。
dulcis〈ドゥルキス〉とは?
主人公・杏菜の恋人であるケイタが所属する、日本トップクラスの人気を誇るアイドルグループ。20代の男性5人組。
春のドームツアーでは約19万人を動員し、その生配信の視聴者数は日本記録を更新。
最新アルバムは発売日にミリオンセラーを達成するなど、その人気は社会現象となっている。
「帰っちゃやだ」
年下の甘えん坊な彼は、子供みたいに駄々をこねる。
ああ、またこのパターンか。何度もこの甘い罠に引っかかってしまう。
数ヶ月前までは、ケイタとこんなに蜜月の関係になるなんて、夢にも思わなかった――。
「ねぇ、いいでしょ?」
ゆるふわな金髪、白く透明感のある肌、まるでギリシャ彫刻みたいな裸体でベッドに寝そべっている。
人に見られることには慣れているのだろう。自分に自信があると、羞恥心なんてなくなるのかな。
「朝まで一緒にいてよ」
自分の欲求を素直に言葉にする。
「ケイタ、今日が何曜日か知ってる?」
日曜日の23時。
明日のためにも早く帰らないと、朝が辛いだけだ。
満員電車に揺られ出社して、大量のメールから必要なものだけをピックアップして返信。これだけで午前の時間は過ぎる。
月曜日の朝を想像すると、どんなに好きな職種でも、憂鬱な気分になる。
まぁ、会社勤めをしたことのないアイドルには、分からない感覚なののだろう。土日も平日も関係ない仕事だから。
そう、彼はアイドル。
人気アイドルグループ、dulcis〈ドゥルキス〉のメンバー。
春のドームツアーでは、3都市6公演で約19万人を動員し、その生配信の視聴者は日本記録を更新した。
最新アルバムは販売日にミリオン突破。
甘いベビーフェイスで、ファンには「ケイちゃん」と呼ばれる、23歳の末っ子アイドル。
「今夜は帰るよ、明日は大事な会議があるの」
床に散らばった下着を拾い、手早く身に付ける。あれ、服はリビングだったかな。
「杏ちゃん」
「なぁに?」
振り返ると、彼がベッドから身を起こし、真っ直ぐに私を見ていた。
その瞳は、ステージで輝く「みんなのケイタ」とは違う、一人の男としての欲求を隠さずに向けてくる。
「帰したくない」
「だめ」
「ボクのこと嫌いになったの?」
「どうしてそうなるのよ」
仔犬が怒られたときのような、大きな黒目がこちらを見ている。
私は下着姿のままベッドに腰かけると、ケイタの髪にそっと触れる。
「さっき、杏ちゃんが『いや』って言うこと、ずっと、何度もボクがしたから、怒ってるのかと思って」
「そ、それは……」
なんと返せばいいか分からず、ただ少し前まで、ここであった出来事の数々を思い返してしまい、耳まで赤くなってしまう。
「いやだったわけじゃ、ないよ」
「ほんとに?」
「うん」
「気持ちよかった?」
「うん」
「もう一回したいくらい?」
「うん……、え、コラ!」
後ろから抱き締められた。
せっかく身に付けたばかりの、ブラジャーのホックを外された。
しかも、口でだ。なんて、しつけのなっていない犬なのか。
「しようよ、もっと」
引き寄せられて、そのままベッドへ引きずり込まれた。
「今出ないと、もう終電に間に合わないから」
「タクシーで帰れば?なんで電車にこだわるかな」
答えは『給料日前だから』です。
口には出さないけど、金銭感覚の違いも悩ましい問題。年は私の方が上なのに。
もはや、人気アイドルと一般の差なんて考えだけ無駄かな。
「そもそも、なんで帰るの?」
「泊まるつもりで来ていないの。服も化粧品も、仕事用の鞄もない」
「一緒に住もうって、何度も言ってるのに」
イタズラな手は、巧みに私の弱いところに触れて、だんだんと思考回路を狭めてくる。
「ちょっと、ケイタ!」
さっき、何度も指で弄ばれたばかりなのに。
「また濡れてるよ」
「ん、やっ、やだ……」
「やだ?本当の本当?ねぇ、どっちのやだ?」
身体はなんて正直なんだろう。
少し前まで枯れていた心と身体が、ケイタに愛され満たされると、すぐに泉のように彼を欲しがる。
「杏ちゃん、お願い。帰らないで……」
私の鼻に自分の鼻をスリスリさせる。本当に犬みたいだ。
「杏菜」
不意に真面目な表情。
普段は子供っぽいくせに。
ケイタの指が私の唇に触れ、そして、答えを急かすように舌先をなぞった。
「もう、わかった。朝まで一緒にいよう」
本当は、私だって帰りたいわけではない。
帰らないという答えに満足したのか、それとも、安堵したのか……。
ケイタが私の奥へと辿り着く。
「杏ちゃん、可愛いよ」
アラサーでバツイチの私のどこがいいのか。
これは、彼と私の、秘められた恋の物語。
始まりは、あの日の「再会」からだった――。
「大好きだよ」
遠退く理性の中で、甘い言葉を何度と聞いただろうか。




