100年後、また会いましょう
過去に戻ることはできない。
だが、未来へ行くことならできる。
約200年前、アインシュタインの「特殊相対性理論」によって、それは理論上可能だと明らかになった。
そして今夜。
満月が浮かぶ夜、私は町のはずれにある小高い丘の上にいた。
隣には、一人乗りの小型宇宙船。
そして目の前には、付き合って3年になる彼がいる。
彼の頬には涙がこぼれていた。
彼はそれを手でぬぐう。
「今までありがとう」
そう言って、彼は優しく私を抱きしめた。
私は何も言わず、彼の背中に手を回す。
そして、小さくうなずいた。
最後のキスをする。
私は宇宙船に乗り込む。
窓から彼の姿が見える。
宇宙船は自動操縦で、ゆっくりと空へ昇っていく。
彼の姿が、少しずつ小さくなっていく。
私は思わず顔を上げた。
涙がこぼれ落ちないように。
1年前、癌が見つかった。
現在の医療では治すことのできない病気だった。
余命は3年。
普通なら絶望して、自暴自棄になっていたかもしれない。
けれど私は冷静だった。
今はもう、未来へ行ける時代だ。
宇宙船は光速に限りなく近い速度まで加速できる。
宇宙船の中で流れる時間と、地球で流れる時間には大きな差が生まれる。
私は宇宙船の中で約1年半を過ごし、100年後の未来へ行く。
そして、発展しているであろう医療を受け、癌を治す。
そうと決まれば、行動は早かった。
クラウドファンディングで資金を集め、病気を理由に国へ「未来移動申請」を行った。
そして補助金を得た。
1年後。
癌になる前からの貯金と、クラウドファンディングで集めたお金、そして国からの補助金。
すべて合わせて2000万円。
そのうち1000万円を未来移動の費用に。
残りの1000万円を、未来での治療費に充てる。
私には、父も母もいない。
兄弟もいない。
天涯孤独だった。
唯一、私のそばにいてくれたのが彼だった。
でも、仕方がない。
100年も時代が違えば、きっと彼はもういない。
人は出会い、そして別れる。
ただ、その別れが少し早く来ただけだ。
そう思っていた。
それなのに。
それなのに私は今、宇宙船の中で泣いている。
後悔はしていない。
未来へ行く。
癌を治す。
そして、生きる。
その決意は変わらない。
けれど、彼と出会った日の記憶が蘇ってくる。
天涯孤独だった私を救ってくれた彼。
一緒に笑った日。
喧嘩した日。
何でもないことで笑い合った日。
そのすべてが、胸の奥から溢れてくる。
宇宙船は大気圏を抜けた。
窓の向こうに、青い地球が浮かんでいる。
私は窓に手を当てた。
「さよなら、地球」
涙をぬぐう。
そして、もう一度つぶやいた。
「100年後、また会いましょう」




