抽選
夏休みまで後1週間
とある中学の学年集会が体育館で行われ、壇上の教頭が話を始めた。
「えー夏休みまで後1週間ですが」
教頭はそこで咳払いをし、
「夏休みの期間をくじで決めようかと思います」
どういうこと?
なんでくじ?
生徒はざわざわし始めた。
そんな中、女性教諭と男性教諭1人ずつ壇上に上がり教頭の隣に立った。女性教諭は白い抽選箱を持っており、男性教諭はA4サイズの白い紙と白の封筒をそれぞれ何枚か持っていた。
「では、先生」
教頭は男性教諭に目を向けた。
「はい、では」
男性教諭は紙を1枚生徒に見せた。紙には黒く太い文字で「1ヶ月」と書かれていた。
「まずは1ヶ月。これが通常の休みですね」
男性教諭はそう言った後、掲げた紙を四つ折りで折りたたみ封筒に入れ、それを抽選箱に入れた。
この要領で
2ヶ月
1ヶ月半
2週間
1週間
の書かれた紙を生徒に見せては封筒に入れ抽選箱に入れた。
この間、生徒達は
2ヶ月はえぐいなー
1週間ってまじ?
と盛り上がっていた。
「では生徒会長がこのくじを引きます」
教頭がそう言うと
真面目な小早川生徒会長が壇上に上がった。
行け! 小早川!
2ヶ月引け! 小早川!
生徒達の熱気は最高潮となった。
生徒会長はゆっくりと抽選箱の中に手を入れ、そして一通の封筒をつかみ取り、箱から手を出した。
封筒を教頭に手渡した。
教頭は封筒を開き紙に書かれた字を見て、口を開いた。
「夏休みは1週間です!」
教頭はとびきりの笑顔で紙を生徒に見せた。
なんでやねん!
生徒全員ひっくり返った。
放課後
「うまくいったね。小早川君」
「そうですね、徳川教頭。『1週間』が入ってる封筒だけざらざらしてるから、とることができるなんて、ナイスアイデアですね」
「そうだろ? これで学級閉鎖してた間の授業時間を取り戻せる」
「今年はインフルで何回も学級閉鎖しましたもんね。当然の理由だから、こんなことしなくても良かったのでは?」
「いや、直接『1週間』と言えば反発は大きいからね。くじにして決まったなら渋々納得して受け入れてくれるだろう。ま、これも私のやさしさだ、ハハハ」
そう笑う教頭につられ、ある意味真面目な生徒会長も笑った。