夢断念代行サービス
小学校から家に帰るや否や電話が鳴り、たかしは受話器をとった。
「はい、もしもし」
「もしもし、たかしさんでしょうか?」
「はいそうですけど」
「夢断念代行サービス『アキラメーロ』の長谷川です。未来のあなたから依頼を受けて連絡させていただきました」
「夢断念? 未来?」
「驚くのも無理ないかと思いますが、用件を伝えますね」
「……はい」
「あなたは将来画家になりたいそうですね」
「はい、えっなんで知ってるんですか?」
「未来のあなたから聞きました」
「そうなんですね……」
「それで端的に申し上げるとその夢」
長谷川はそこで一拍おいた。
「あきらめてください」
「なんでだよ……嫌だ、嫌だよ!」
「守秘義務があるのであまり詳しくは教えられないですが、未来のあなたはその夢を追いかけたがゆえに悲惨な末路をたどっています」
「そんな……」
「だからどうかあきらめてもらえないでしょうか?」
「……未来の自分と電話を代わってください」
「えっ?」
「未来の自分に『諦めるな』と言います。代わってください」
「すみません代行サービスですので……」
「……なんで代行サービスなんか使って……直接言えば良いのに」
「未来の自分が子供のあなたに直接あきらめろと言うのは忍びなかったのでしょう。だから弊社のサービスを利用されたかと思われます」
「もう良いです」
「じゃあ諦めることでよろしいでしょうか?」
「いいえあきらめません! さよなら!」
たかしは電話を切った。
頬に伝わる涙を手でぬぐい取った。