5.ライフの素質
「次に適正属性を調べます。このカードにはそれぞれ、地・水・火・風・光・闇の六属性の魔力が宿してあります。その属性を扱う素質があった場合、カードが光って反応するんです」
ルミア先生はそう説明してくれ、俺を囲むようにカードを地面に並べた。
「やっぱり、扱える属性は一人一つと決まっているんですか?」
「基本はそうですね。中には複数属性を扱える人もいますが、本当に稀です」
「ところで、先生はいくつ属性を扱えるんです?」
「光属性と風属性です」
……ルミア先生は、ひと目でわかるドヤ顔をした。
さすが上級魔術師。二属性使えるとはすごい。
「ちなみに、地と風、火と水のように、相反する属性を扱える人はいません。あれは精霊同士、仲が悪いのです」
なるほど。属性反発的なやつか。その辺の仕組みは元いた世界の考えと同じなんだな。
「それでは、いきます」
言うが早いか、先生は杖を構え、何やら呪文を唱え始めた。
それに合わせるように、俺の周囲のカードが光を放つ。
……地と風、そして光属性のカードが。
「……は?」
再び、俺と先生の声が重なった。
「先生、さっき複数属性を扱えるのは稀って……しかも、地と風って、相反する属性ですよね?」
「そ、そうなんですが……しかも三属性? 私負けてる?」
ルミア先生は先ほど以上に焦っていた。いまだ光り続けるカードたちを確認しながら、俺の周囲を何度も往復する。そのたびに彼女の耳がピコピコと動いて、なんだか可愛らしい。
「こ、こほん。合格です。これを差し上げましょう」
これまたわざとらしい咳払いをして、ルミア先生は一本の杖を俺に手渡してくれる。
木製の柄の先に緑色の宝石がはめ込まれた杖で、材質はわからないが見かけの割に軽い。
しかし……合格なのは嬉しいが、どうして俺は三属性に適正があるんだ?
まぁ、俺の魂は別の世界からやってきたのだから、この世界の法則に当てはまらないと言われればそれまでだが。
ルミア先生の反応を見るに、明らかに嫉妬され……いや、特異な状況なのだと思うし。
◇
……その後、この世界の魔術について軽くレクチャーを受けたあと、ルミア先生がいくつか魔術を見せてくれることになった。
「……青き流れを操り、水の力よ集結せよ。ウォーターシュート!」
「おおっ……!」
いかにもな呪文詠唱のあと、先生が水平に構えた杖の先に水弾が生まれ、一直線に飛んでいく。
「今のがウォーターシュート。水属性の初級魔術です」
誇らしげな顔をする先生に対し、俺は純粋に拍手を送る。
この世界に来て、初めて見る魔術だ。もう、呪文詠唱もそのまま小説に使えるレベルだ。
メモを取っておくこともできないので、俺はその呪文を一瞬で記憶した。
「次は風の初級魔術です。我が手に宿る魔力よ、風の刃となれ! ウィンドカッター!」
「おおおっ!」
再びルミア先生が呪文を唱えると、今度は風をまとった刃が撃ち放たれた。
前方の草を刈り取りながら、まっすぐに進んでいく。
「いやー、すごいですね」
ウィンドカッターの呪文も一瞬で覚えつつ、俺は興奮を隠せずにいた。
すごいぞ。まさにファンタジー世界だ。
「フッ……あとは、風魔術の応用ですが、こんなこともできます」
俺の称賛の声に気分を良くしたのか、ルミア先生は風をまとって高速で移動し始める。
「え、なんですかそれ」
「これは詠唱不要の補助魔術で、風をまとうことで移動速度を格段に上げることが……」
先生の説明はまだ続いていたが、俺はそれどころじゃない。すでに脳内には、小説の続きができつつあった。
主人公のライバルとして、風属性を扱う魔術師を登場させよう。機動力で勝り、当初は主人公を圧倒するんだ。その圧倒的な魔力を前に、主人公は……。
「……ちょっとライフ君、私の話を聞いていますか」
「あっ、すみません」
脳内で一人創作会議を始めたところで、ルミア先生の声で現実に引き戻される。
せっかく魔術のプロが目の前にいるのだ。しっかりと話を聞いておかないと。
「……それでは、次はライフ君が魔術を使ってみてください」
「え、俺が?」
「そうです。素質があることは証明されたのですから、あとは魔力の扱いに慣れれば、すぐに魔術が使えるようになります」
ルミア先生はそう言うと、俺の隣に並び立つ。
「まずはウィンドカッターです。こうやって杖を地面と水平に構えて、それから呪文を……」
俺はその動きをまねて杖を構えると、先ほど覚えたばかりの呪文を口にする。
「……我が手に宿る魔力よ、風の刃となれ! ウィンドカッター!」
詠唱が終わると同時に、杖の先から緑色の風の刃が出現。高速でいずこへと飛び去っていった。
「……呪文、一度しか言っていないはずですが。よく覚えていましたね」
「小説に使おうと、一瞬で覚えました」
「ショウセツ……? よくわかりませんが、記憶力が高いのはいいことです。コントロールはまだまだですが」
そんなルミア先生が発動したウィンドカッターは、まるで曲芸飛行でもするかのように上空をくるくると旋回していた。
「ウィンドカッターは扱いに慣れると、自由自在に動かすことができます。魔力は必要ですが、刃の数を増やすこともできるんですよ」
「はー、そんなこともできるんですね。さすが先生だ」
俺が驚きの表情を見せると、彼女は勝ち誇ったような顔をする。
……いやこの人、素人相手に何を張り合ってるんだ。
ウィンドカッターの次は、地属性の初級魔術『ストーンブラスト』を教わる。
これは石のつぶてを飛ばす攻撃魔術で、その扱いに慣れれば慣れるほど、飛ばせる石の数と大きさ、飛距離が伸びていくそうだ。
正直、小説の描写としてはもう十分なのだが、魔術を使うのが楽しくなっている自分がいた。
せっかく見つけた才能だし、これを伸ばさない手はない。
……結局その日、俺は日が暮れるまで、魔術の練習に明け暮れたのだった。