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23.地下迷宮 その2


 ルミア先生の言っていた通り、第六階層からは雰囲気が一変した。


 これまでのように整備された感じは一切なく、まるで迷路のように入り組んだ通路。そして獲物を求めて徘徊する魔物たち。


 まさに迷宮の名にふさわしかった。


「……その通路の先に二体の魔物がいます。気をつけてください」


 先頭を歩きながら、ルミア先生が言う。その手には光り輝く地図があった。


「先生、それは?」

「光属性の探索魔術の一種です。一定範囲内の魔物の位置がわかります」


「じゃあ、出口もわかるんですか?」

「いえ、あくまで魔物の位置だけです。それでも不意打ちを防ぐことはできるので、十分に役立ちます」


 シェリアの問いかけに、先生は得意げな顔で答える。

 俺も同じ魔術を試してみようかと思ったけど、直後に先生から睨みつけられたのでやめておいた。


 ……たぶんすぐに使えるのだろうが、一つくらいは彼女に花を持たせてあげないと。


 そんなことを考えつつ、俺たちは通路を進む。


 やがて開けた空間があり、ゴブリンとアンデット兵が徘徊していた。


 アンデット兵はガイコツが鎧を着たような見た目で、その手には剣を持っている。

 ゴブリンは緑色の子鬼のような姿で、棍棒を引きずっている。


 ゴブリンは本来、数十から数百の群れを作って生活する魔物だ。

 それが単独行動しているあたり、この迷宮の生態系が特殊なことがうかがえる。


「あれくらいならなんとかなりそうだな……先生、戦ってみてもいいですか」

「どうぞ」


 あっさりと許可され、俺はゆっくりと通路から顔を出す。


 それから魔物たちが背を向けたタイミングを見計らってホーリーアローを撃ち放つ。


「グゲェ!」


 光の矢に撃ち抜かれ、アンデット兵は声にならない声を上げて消える。

 予想通り、奴は光属性が弱点なのだろう。


 一方のゴブリンは魔術を受けてもなお、俺たちへと向かってくる。


「……てりゃあっ!」


 棍棒を振り上げようとするゴブリンを、素早く接近したヨハンが切り捨てる。

 その予想外の動きに、俺は目を見開いた。


「へぇ、ヨハンもやるじゃん」

「へへ、俺だって、毎日訓練してるんだからな!」


 ヨハンは誇らしげな顔で言う。

 その背後で、倒れていたゴブリンが顔を上げ……近くに落ちていた石を拾い上げる。


「……って、危ねぇ!」


 ゴブリンの意図に気づいた俺は、迷わずヨハンの前に出る。


「……光の粒子よ、我が前に集い盾となれ。ルミナス・シールド!」


 衝撃を覚悟していたが、石が当たる寸前にシェリアが光の盾を生み出して投石を防いでくれた。


「……まったく、どっちも詰めが甘いですよ」


 それまで黙って俺たちの戦いを見ていたルミア先生は、呆れ顔でゴブリンへ風の刃を叩き込む。


「ギャッ!」


 金切り声のような絶叫のあと、ゴブリンは動かなくなる。

 その直後、淡い光を放ちながら姿を消してしまった。


「迷宮内で生命活動を終えた魔物は魔力に分解され、このように消えてしまいます。きちんと倒せたかどうかは、それで判断してください」


 持っていた杖で肩を叩きながら、ルミア先生は言う。


 ……なるほど。迷宮では魔力によって魔物が生み出されるわけだし、一種の循環のようなものが成り立っているわけか。


「もともと、新人冒険者が迷宮に慣れるために潜るような場所です。よほどのことがなければ、ライフ君たちでも対処できる魔物ばかりですよ」


 ルミア先生はそう付け加えたあと、奥に向かって歩き出す。

 俺たちは顔を見合わせたあと、そのあとに続いた。


 ◇


 ……その後は俺とヨハンが先頭を歩きつつ、迷宮探索を続ける。


 魔物を見つけたら俺が魔術で先制攻撃を仕掛け、魔術攻撃に耐えた魔物はヨハンが剣で仕留める……そんな戦い方が、自然と確立していった。


 後方のシェリアも戦況をよく見ていて、時折防御魔術でサポートしてくれる。


 それでも危なくなりそうな場面では、ルミア先生がすかさず手を貸してくれた。


 このおどろおどろしい迷宮の雰囲気も、魔物たちとの戦いも、その全てが小説執筆のための糧となっていく気がした。


 加えて、このなんともいえない仲間たちとの一体感。まさに冒険している感じがして、すごく楽しかった。


 ……そうこうしているうちに、俺たちは地下迷宮の第七階層までやってきていた。


「そろそろ戻りましょうか」


 もう何体目かわからないゴブリンを倒したところで、ルミア先生が言う。


「え? もう少しいけますよ」

「戻る体力も残しておかないといけません。帰り道にも、魔物は出るんですよ」


 先生はそう口をとがらせる。

 ……それもそうか。ゲームと違って、一瞬でダンジョンから出る便利アイテムや魔法はないのだ。


「わかりました。それじゃ……」


 俺は汗を拭いながら、ルミア先生たちに向き直る。

 ……その時、彼女たちの背後の空間に黒いモヤが発生しているのが見えた。


 あれはなんだろう……と不思議に思っていると、やがてそのモヤの中から無数の魔物が現れる。


「皆、後ろだ! ホーリーランス!」


 俺は叫ぶと同時に仲間たちの間をかき分け、魔物の眼前に移動。光属性魔術を発動する。


 同時発動させた光の槍の数は5本。それは放射状に広がり、前方広範囲の魔物たちをまとめて消し飛ばした。


「え……さっきまで、そこに魔物は存在しなかったはずですが」


 ルミア先生は手元の地図を見ながら、驚愕の表情を浮かべる。

 その頃になると、黒いモヤは跡形もなく消え去っていた。


 先生はああ言うけど、魔物が突然現れたのは事実だし。迎撃しなければこちらがやられていた。


「……あれ?」


 その時、俺はあることに気づく。


 魔物たちが湧いた場所の奥……壁の一部が崩れ、細い通路が続いていた。


「これって、もしかして隠し通路?」


 周囲魔物の気配がなくなったのを確認し、おそるおそる近づいてみる。


「そのようですね……この迷宮は探索され尽くしたと思っていましたが、まさか未踏部分があったとは」


 未踏部分。その単語に俺の胸はときめいた。


「第一発見者ですし、調べてみてもいいですか?」

「そうですね……魔物の存在もなさそうですし、まぁ、少しくらいでしたら」


 ルミア先生は手元の地図を確認したあと、しぶしぶ了承してくれた。


「ただし、この迷宮はアゼレア聖騎士団の管轄になるので、何か見つけたら手を触れず、上の階の騎士たちに報告しましょう」

「わかりました」


 俺はうなずいて、隠し通路に足を踏み入れる。仲間たちもそれに続いた。


「……うわ、なんだここ」


 いくつかの曲がり角を抜けると、突然強い光が溢れてくる。


 その光に目を慣らしながら慎重に歩みを進めると、急に広い場所に出た。


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