表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/27

21.お守り


 食事を終えた俺は、ベールの書斎へとやってきた。


 ……ちなみに、この家に父の部屋というものはない。

 ルーナ母さんの部屋がかつてそうだったらしいが、現在は立ち退いてしまったそうだ。


「よう、来たか」


 書斎の椅子にどっかりと腰を落ち着けるベールは、謎の風格があった。


「父さん、渡したいものって?」


「そう()くな。しかし、お前が地下迷宮に興味を持つとはなぁ。やはり、男は冒険に憧れるんだな」


 全ては小説のためなのだけど……なんて言葉が喉元まで出かけるも、父の威厳のために口には出さないでおいた。


「まぁ、あそこは迷宮と呼ぶには少し情緒が足りないがな。初心者にはちょうどいいだろ」


 からからと笑いながら言ったあと、ベールは表情を引き締める。


「それでも、魔物が出ることに変わりはない。用心は必要だぞ」


 一瞬で騎士の顔になった父は、どこからか一本の剣を取り出した。


「……これは?」

「魔力を制御する力を持った剣だ。お前用に作らせた、特注品だぞ」


 言いながら、鞘に収まった剣を俺に差し出してくる。

 その鞘には見事な装飾が施され、柄の中央には緑色の宝玉がはめ込まれていた。


 俺は両手でその剣を受け取る。子ども用らしくサイズは小さいが、それでもずっしりと重みを感じた。


 おそるおそる抜き放つと、杖を握っている時と同じような、独特な感覚が俺を包みこんだ。


「……軽い」


 次に、そんな言葉が口をついて出る。

 鞘に収まっている時はやけに重く感じたが、今はめちゃくちゃ軽い。この宝玉に何か仕掛けがあるんだろうか。


「装備した者の魔力を消費してどうこう……って、魔道具屋のじーさんが言ってたな。まぁ……お守りみたいなもんだ」


 最後はどこか照れくさそうに頭を掻きながら、父さんは言った。


「父さん、ありがとう。大切にするよ」


 剣を鞘に納めながら、俺はお礼を言う。


「いざという時は、それでシェリアちゃんを守ってやれ。もちろん、ヨハンもな。どっちも大事な跡取りだ。怪我なんてさせようものなら、俺の立場が危うくなる」


 ……後半に彼の本音が出ていた。


 まぁ、あの二人に怪我させるつもりなんて、毛頭ないけどな。


 ◇


 ……それから数日後。


 俺とシェリア、ヨハンの三人は旅支度を整え、荷馬車に乗ってアゼレアの街の門をくぐる。


 この門を最後に通り抜けたのは、今から一年前。ヴァンス兄さんの周辺警戒任務に無理言って同行させてもらった時以来だ。


「今日は天気も良さそうですし、絶好の馬車日和ですね」


 荷台に載せられた巨大な木箱の上に寝そべりながら、ルミア先生が言う。

 一方の俺たちは荷馬車の最後尾に三人並んで座っていた。


 ちなみにこの荷馬車は、ロバとラクダの中間のような謎の生き物に引かれながら、街道をゆっくりと進んでいる。


 その手綱を握るのは商人の男性で、どうやらこの荷物を地下迷宮まで運ぶ途中らしい。


 俺たちはそれに便乗させてもらったのだが……。


「おおうっ」

「いって!」


 その乗り心地は最悪。しょっちゅう石に乗り上げては、ガタガタと盛大に揺れる。


 街道といいつつも、アスファルトで舗装しているわけではない。中途半端な石畳は、揺れが増す原因となっていた。


 荷物にはしっかりとロープがかけてあるものの、俺たちは荷台に放置されているも同然。

 気を抜いていたら、その衝撃で荷馬車から振り落とされかねない。


「いってて……舌噛んだ」

「先生……これ、なかなかにすごいですね」


「しっ。二人とも、声が大きいですよ。せっかくタダで乗せてくれたんですから、多少の揺れは耐えてください」


 俺とヨハンが不満を口にするも、先生は口元に指を立てて、声を押し殺す。

 確かに、地下迷宮のある丘まで歩くと半日以上かかるし、馬車を借りるとものすごくお金がかかる。


 なので、このやり方は理にかなっていると思うが……このままだと迷宮につく頃には、尻が痛くなっていそうだ。


「……きゃ!?」


 そんなことを考えていると再び強い衝撃があり、隣に座っていたシェリアが倒れ込んできた。


「……おっと」


 思わず抱きとめると、花のようないい香りがした。香水かな。


「あ、ありがと」

「い、いや……揺れまくるから、気をつけろよな」


 何故か赤面していたシェリアにそんな言葉を返したところで、再び荷馬車が揺れる。


「……うわっ!?」


 今度はヨハンが俺のほうに倒れかかってきた。


 お前もかよっ……と一瞬思うも、とっさに支えた体は想像以上に柔らかかった。こいつが女だってこと、すっかり忘れてた。


「なーんか、楽しそうですねぇ」


 そんな俺たちの様子を、ルミア先生は荷物の上からジト目で眺めていた。

 ……あれだけの揺れの中、この人はどうして平然としていられるんだろう。


 何か魔術でも使っているのかもしれないが、本当に不思議だった。


 ◇


 ……それから荷馬車に揺られることしばし。


 ほとんど尻の感覚がなくなりかけた頃、荷馬車は小高い丘に差し掛かる。

 その上に、遺跡っぽい灰色の建物が見えてきた。


 あれが地下迷宮か。いかにもな雰囲気で、創作意欲を掻き立てられ……うん?


 だんだん迷宮に近づいていくにつれ、俺は妙な違和感を覚える。


 ……人が多いのだ。


 それこそ、迷宮探索に来た冒険者……という感じではない。女子供の姿もかなりある。

 これは……いったいどういうことだろう。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ