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16.騎士団長からの勧誘


 思わず視線を送ると、そこにはひときわ立派な鎧を身にまとった男性が立っていた。


「グ……グランツ騎士団長殿!」


 次の瞬間、その場にいた騎士たち全員が姿勢を正し、一礼する。

 俺の魔術の暴発で傷だらけになったヨハンもなんとか立ち上がり、同じように頭を下げていた。


「皆、楽にしてくれ。休憩の邪魔したのは、私のほうだからな」


 グランツと呼ばれた男性は威厳に満ちた風格で言った。

 それから直立不動となった騎士たちを見回したあと、俺と目が合う。


「少年……ライフといったか。その剣をどこで覚えた? やはり父君か?」

「……父から基礎は習っていますが、今のは風魔術の暴発で……」


「……つまり、予期せぬ事故だったと?」

「そ、そうです」


 明らかな強者オーラにあてられ、俺は思わず背筋を伸ばし、敬語で答える。


「先ほどの魔術は無詠唱であったな。誰に習った?」

「ルミア先生です」


「ああ……ルミア殿か。彼女には、我々も世話になっている。最近、森の魔物も増えているからな」


 合点がいったのか、彼は口元に手を当てて、何度もうなずいていた。


 街の近くに現れる魔物は、畑を荒らすゴブリン程度のものだが……街の北にある広大な森は悪い魔力が溜まりやすく、魔物が発生しやすいのだとベールが言っていた。


「それにしても、魔術だけでなく剣術の才もあるとは。さすがはグランフォード家の血筋だな」


 続いて、グランツ騎士団長は俺の全身を見ながら意味深な笑みを浮かべる。


 ……待て。この流れは……嫌な予感しかしないぞ。


「どうだろう。今後、騎士団の訓練に参加してみては」


 ほら来た。これは間違いなく、訓練参加を足がかりに騎士団へ勧誘される流れだ。


「暴発とはいえ、その幼さで魔術剣を発動させるほどの逸材だ。そのような者が我がアゼレア聖騎士団に属するとなれば、仲間たちの士気も上がるだろう」


 いやいや、騎士たちの士気は上がるかもしれないが、俺は騎士団に所属するつもりは毛頭ない。


「……お誘いいただき光栄です。ですが、僕には魔術の勉強がありまして」

「それは半日だけだろう。わずかな時間でもいいのだ。参加してみてくれまいか」


 丁重に断ろうとするも、凛とした声でそう言われてしまった。


 これは非常にまずい。このままだと、執筆の時間がなくなる。


 ……だが、ミゲル兄さんもいる手前、おいそれと断ることもできない。

 俺は、ちらりと兄の顔を見る。


 ―― 騎士団長殿がああ仰ってるんだ! 空気を読め!


 兄は直立していたものの、目が明らかにそう語っていた。

 ……仕方ない。ここは正直に話すか。


「実は僕、小説家になるための勉強をしていて」

「ショウセツカ?」


 ダメ元でそう打ち明けるも、グランツ騎士団長をはじめ、騎士たちはそろって首をひねる。

 はは、やっぱりわからないですよねー。


「その、羊皮紙に物語を書いて……」


 そんな彼らに、俺は小説について必死に説明する。


「……ふむ。修道院の写字生(しゃじせい)のようなものか? まぁ、子どもの夢にしては地味だが」


 ……写字生。久しぶりに聞いた気がする。

 元の世界でいうところの中世ヨーロッパで、本の書き写しを生業にしていた人たちのことだ。


 この世界には物語はないが、本そのものは存在しているし。写字生という仕事も存在するのだろう。


「本を書くという点では、似たようなものです。なので、騎士団の訓練は二日に一回でお願いできないでしょうか」

「……わかった。父君にも、そう伝えておこう」


 そう言い残すと、騎士団長は満足げな顔で去っていった。

 ……ふう。これで兄の顔に泥を塗らずに済んだ。


 俺は大きく息を吐く。


 しかし、剣術の型を見せてもらうだけのはずが、まさか騎士団に勧誘されてしまうとは。

 こんなことになるのなら、もったいぶらずにベールを頼ればよかった。


 ……いや、それこそ『さすが俺の血だ! 素質がある!』なんて言って、騎士団に推薦されるのがオチだったか。


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