15.模擬戦
やがて迎えた昼休み。俺とヨハンは木剣を手に、中庭で向かい合う。
「へぇ、ミゲルの弟か。剣の腕前はどうなんだ?」
「未知数だな。だが、さすがにヨハンが勝つんじゃないか?」
「いや、あのベールさんの息子だぞ。ミゲルやヴァンスさんを見る限り、才能はあるはずだ」
「よーし、なら、ヨハンの勝ちに明日の昼飯を賭けよう」
……ちょうど休憩時間ということもあって、何人もの騎士たちが俺たちを見守っていた。
リアリティのある小説を書くためには、実際に攻撃を受けたほうが学べることも多いかも……なんて考えもしたが、これはこれで緊張する。
「それでは、始め!」
やがてミゲル兄さんの号令で、模擬戦が始まる。
「てりゃあっ!」
それと同時に、ヨハンが一気に距離を詰めてくる。
それこそ、ミゲル兄さんに良いところを見せようとしているのだろう。
その構えは、剣先を俺の顔に向けた基本形だった。
すかさず俺はわきを締め、弱点部位を守る。そしてサイドステップで初撃をかわすと、攻撃を空振ったヨハンは大きくバランスを崩す。
すぐさま突きを繰り出すも、ヨハンはすぐに体勢復帰して、木剣で俺の攻撃を防ぐ。
そのまま流れるように反撃してきたので、バックステップで距離を取る。
「ライフ……お前、思ったよりすばしっこいな」
苦々しい表情をしながら、ヨハンがつぶやく。
……この移動方法は、ベールからさんざん叩き込まれたものだ。
いくら強力な一撃でも、当たらなければどうということはない……というのが、ベールの言い分だ。
際限なく動き回り、可能ならば背後に回り込んで背中から一刀両断する……そんな戦い方を得意としていたらしい。
……それにしても、ミゲル兄さんからあらかじめ色々な動きを見せてもらっていてよかった。
あの動きを真似ているだけで、体が軽くなっているような気さえする。
「なぁ……あの動き、ミゲルのそれと同じだよな」
「おいおい。いつの間に教え込んだんだ?」
その時、見学していた騎士たちからそんな声が飛ぶ。
「え? いや……さっき、少し見せただけなんだけど。おかしいな……」
話を振られたミゲル兄さんも、困惑した様子で首をかしげていた。
……よくわからないが、俺には剣術の才能もあったのだろうか。
まぁ……元々騎士の血筋のようだし、あっても不思議はないのだが。
「ショウセツカなんてわけわかんねぇもん目指してるくせに、なんで剣術までできるんだよ!」
その時、ヨハンが叫びながら突っ込んできた。
さっきからちょこまかと動き回る俺に、業を煮やしたといったところだろう。
「小説家志望なのは関係ないだろ!」
若干の怒りを覚えつつも、俺は猛烈な勢いで突っ込んでくるヨハンの一撃をいなす。
「てやあっ!」
そして彼の動きが止まった一瞬の隙を突いて、思いっきり剣を振り下ろす。
……次の瞬間、猛烈な風が吹いた。
「う、うわあああっ!?」
それはまるで竜巻のようにうねり、ヨハンを数メートル向こうへ吹き飛ばす。
「あ……」
……しまった。無意識に風の刃を剣撃に乗せていた。
これも無詠唱魔術の練習をしまくった弊害なのだろうか。
「ヨ、ヨハン、ごめん!」
俺は全力で謝りながら、地面に座り込んだままのヨハンのもとへと駆け寄る。
彼は驚きのあまり、目が虚ろだった。その全身は土にまみれ、風の刃のせいか、服はボロボロ。とっさに防御に使ったらしい木剣は、柄から上が粉々になっていた。
「ヨハン、大丈夫か!? 本当にごめん!」
「う、うん……」
その肩をゆすると、彼はかすかに返事をした。その瞳に涙が浮かんでいるようにも見える。
「……今のはまさか、魔術剣か?」
その時、威圧感のある声が周囲に響いた。