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14.アゼレア聖騎士団


 この街には、アゼレア聖騎士団という組織が存在する。


 街とその周辺の治安維持が目的で、数ヶ月に一度、街周辺や森へ魔物の討伐に赴くことがある。


 それ以外は街中で警護の仕事をしているか、詰め所での訓練に明け暮れている。


 一応、宗主国(そうしゅこく)である聖王国の名を冠してはいるものの……片田舎の騎士団なんてその程度のものなのだろう。


 ……まぁ、本来は魔術師と並んであこがれの職業だし、中には使命感に燃える者もわずかながら存在する。


 そんな数少ない人間の一人が……俺の兄にしてグランフォード家の次男・ミゲルだった。


「……久しぶり、ミゲル兄さん」

「ようライフ! 来たのか!」


 訓練見学の許可をもらった俺は、その日のうちに騎士団の詰め所に顔を出したのだが……出迎えてくれたのは、そのミゲルだ。


「お前が見学に来るなんて、どういう風の吹き回しだ!? 珍しいこともあるもんだ! はっはっは!」


 俺の体をひょいと持ち上げ、ミゲル兄さんは嬉しそうな笑みを見せる。


 彼はルーナ母さんの息子で、青髪と青い瞳をしっかりと受け継いでいる。顔立ちも整っていて、はっきり言ってイケメンだ。


 持ち前の明るい性格もあって、圧倒的陽キャ。家族なので家で話すことももちろんあるが、正直、俺は苦手なタイプだ。


 ……長男のヴァンスはクール系なのに、どうして兄弟でここまで性格が違うんだろう。


「ヨハンからお前に剣術を見せるよう頼まれてな。ささ、こっちだぞ」


 俺がそんなことを考える中、ミゲル兄さんは俺の手を掴み、訓練所となっている中庭に連れて行こうとする。


「いや、俺は全体訓練を見学できれば、それでいいんだけど」


「そう言うな。次期師団長候補の俺が直々に剣技を見せてやると言ってるんだ。こんな機会はめったにないぞ! はっはっは!」


 そう伝えるも、彼は聞く耳持たず。

 力で敵うはずもなく、俺は強引に引っ張っていかれてしまった。


「……ロングソードはこうやって構えるんだ。両腕を上げて、剣先を相手の顔に向ける」


 やがて案内された中庭で、ミゲル兄さんは得意げに型を披露してくれる。


「甲冑はわきの下が弱点だから、剣先を下げてわきを防御する。当然相手も同じ姿勢を取ってくるから、その防御を崩しながら攻撃するわけだ。わきを狙えない場合、肘や膝の裏、股間も攻撃目標になる」


 あの見るからに重たそうな剣で股間を攻撃された場面を想像するだけで、背中に冷たいものが流れた。


「せっかくだし、騎士の剣を持ってみるか?」

「うわっ……!?」


 次に兄から差し出されたロングソードを受け取るも、子どもの腕力で持ち上がるものじゃなかった。


 鉄の塊なわけだし、重たいのも納得だった。


「ミゲル兄さん、せっかくだし、立ち回りを見せてよ。できたら、複数人を相手にした想定で」

「複数人? えらく具体的な注文だな……」


 続く俺の提案に、ミゲル兄さんは首をかしげながらも同意してくれた。

 中庭の隅に置かれていた丸太の人形をいくつも引っ張り出して、その中心で剣を構える。


「いいか。よーく見てろよ。まずはこうやって、なるべく背中を見せないように動いてだな……剣先は左に構えて、視線は常に正面に……」


 その動作の一つ一つを説明してくれながら、ミゲル兄さんは剣を振るう。さすがベールの血が入っているからか、軽やかな身のこなしだった。本物は迫力が違う。


 元の世界なら、一番に動画撮影するところだが……今の世界に録画機器などない。

 俺はその全てを小説に活かそうと、全力で記憶していた。


「……すっげ」


 その時、すぐ近くで声がした。

 見ると、ヨハンがその両手に洗濯物を抱えたまま、ミゲル兄さんの動きに見入っていた。


「……おっ。ヨハンか。洗濯当番、ごくろうさん」


 その存在に気づいたミゲル兄さんが手を止め、軽やかに手を振る。


「は、はい! ミゲル先輩も、お疲れ様です!」


 すると、ヨハンは上ずった声を返した。その瞳もキラキラと輝いている。


 ……ははぁ、さてはヨハンのやつ、ミゲル兄さんに憧れてるのか。


「……そうだ。最近、ライフも父さんから剣術を習ってるそうじゃないか。このあと、いっちょヨハンと手合わせしてみないか?」

「えっ、こいつと!?」


 次の瞬間、俺とヨハンの声が重なった。


「もちろん、木剣を使った模擬戦だけどな。可愛い弟のためなんだ。ヨハン、頼むよ」

「わ、わかりました」


 憧れの人からの頼みにはノーと言えないのだろう。ヨハンは渋々ながらうなずいた。


「よしよし、昼休みになったらすぐに始めよう。ライフも準備しておけよ!」


 ミゲル兄さんは満足げな顔で言い、丸太人形を片付け始めた。


 ……ところで、俺はヨハンとの模擬戦を承諾した覚えはないのだが。


 どうやら俺に選択肢はないようだった。


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