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13.新たな問題


 そんな出来事の翌日。シェリアとヨハンが俺の部屋にやってきていた。


「……まったく、昨日はどうなるかと思ったぜ」


「もとはと言えば、ヨハンが後先考えずに突っ込んでいったからだろ」

「う……それは、悪かったって思ってるけど」


「まぁまぁ、二人ともケンカしないの。無事に逃げ切れたんだし、よかったじゃない」


 いがみ合う俺とヨハンをたしなめるように、シェリアが笑顔で言う。


 その頭には、昨日俺がプレゼントした髪留めがあった。さっそくつけてくれているようで、嬉しい限りだ。


「朝練で聞いたけど、昨日の騒動、騎士団でもかなり話題になってたぜ。魔術が使われた痕跡があるって」


「え、そうなのか?」


 続くヨハンの言葉に、俺は背中が寒くなる。魔術の痕跡って残るもんなのか。


「ま、まぁ……俺みたいな子どもが魔術を使うなんて思わないだろうし、そのうち忘れられるよ」


「はぁ……やっぱりライフ君だったんですね」


 そんなことを口にした時、窓の外から声がした。

 思わず視線を向けると、杖に乗ったルミア先生が窓枠を乗り越えて室内に入ってきた。


「ルミア先生……いつからそこに?」

「ヨハンが後先考えずに突っ込んでいったからだろ……というところからです」


 ほとんど全部聞かれていた。


「子どもが魔術を使った可能性がある……と、騎士団から報告を受けまして。その調査をしていたのですが」


 杖から床へふわりと降り立つと、ルミア先生はその鳶色の瞳で俺を睨みつけてくる。


「えっとその、これには理由が」


「皆さんの会話で、だいたい察しがつきました。ライフ君はまだ修行中の身なのですから、私の目の届かないところでむやみに魔術を使ってはいけません。めっ」


「あいてっ」


 次の瞬間、こつん、と杖の先で頭を叩かれた。

 なんともいえない、絶妙な痛さだった。


「ごめんなさい。これで許してください」

 俺は謝ったあと、深々と頭を下げながら一枚の羊皮紙を差し出す。


「これは……もしかして、続きが書けたのですか」


 ひと目見て、それが俺の小説だとわかったのだろう。ルミア先生の目が輝いた。


 ……本来、友人たちに来てもらったのは昨日の話をぶり返すためじゃなく、小説の続きを読んでもらうためだ。

 この際だし、先生にも読んでもらおう。


「一番に先生に見せようと思って。よかったらどうぞ」

「し、仕方ないですね。初めてのことですし、今回だけは大目に見ましょう」


 ルミア先生は明らかに声を弾ませながら言って、羊皮紙を手に取る。それから食い入るように読み始めた。


「先生の次、わたしが読んでもいい?」

「もちろん」


 待ちきれないといった様子のシェリアにそう伝え、俺は自分のベッドに腰を下ろした。


「……」


 楽しげな女性二人に対して、ヨハンは興味なさげに壁に寄りかかっていた。


 それでも、その視線だけは羊皮紙に向いている。仕方のないやつだな。あとで読ませてやるよ。


 ◇


 やがて俺の小説を読み終わったシェリアは、笑顔で何度もうなずいていた。


「この風の魔術師に倒されたゴロツキって、昨日ライフが倒しちゃった人?」

「そう。登場してもらった」


「あはは、よく書けてるよ。仲間も増えてきたし、これからが楽しみだね」


 小説の中では、主人公の魔術師に聖女と騎士の仲間ができたところだ。

 聖女の使う魔術の描写は、先日シェリアから受けた回復魔術を参考にしている。


 ……ちなみに、聖女の見た目も成長したシェリアをイメージして書いたのだが、さすがに気づいていないようだ。


「……今回も面白かったです。続きを楽しみにしていますね」

「うんうん。ライフ、頑張って書いてね」


 ルミア先生とシェリアは口々にそう言ってくれる。

 お世辞ではなく、本心からそう言ってくれているのが伝わってきて、俺はあったかい気持ちになる。


 ……この感覚、本当に久しぶりだ。

 それこそ、この二人の読者のために、小説を書き続けよう……そう思えるくらいに。


「いや、ちょっと待てよ。全然ダメだぞ」


 俺の心が満たされた、その時。シェリアから羊皮紙を受け取って読んでいたヨハンが、いぶかしげな声を出した。


「全然ダメって、どういうことだよ」

「ここだよ。元騎士だったら、こんな雑な動きはしないって」

「え?」


 いらだちを隠さずに問うと、ヨハンは小説の一部を指し示す。

 主人公の仲間の元騎士が、複数の魔物と戦っているシーンだった。


「この剣を振る動き、適当すぎるぞ。一撃で倒した……って書いてるけど、こんな立ち回りじゃ攻撃する前に囲まれて、八つ裂きにされるだけだぜ。お前、本物の騎士の動きを見たことないだろ」


 そこまで言われて、俺はハッとなる。


「あああ……そうか……!」


 ……勢いで騎士を出したけど、これもまたこの世界においては、リアリティが足りないらしい。俺は頭を抱える。


 最近になって、元騎士であるベールから剣術を習ってはいるが……それはあくまで基礎だ。実際に父が剣を振るうところを見たことはない。


 ここは異世界だし、騎士団は身近なものとはいえ……そう簡単に剣技が見られるものでもないだろう。どうするか。


 しばし考えて、俺はあることを思いついた。


「……そうだ。ヨハン、騎士団の訓練、見学に行っていいか?」

「え!?」


「ヨハンは少年騎士団に所属してるし、騎士団の詰め所にも入れるだろ?」

「そ、そりゃあ、入れるけど……本気なのか?」


「もちろんだよ。お願いできないか?」

「わ、わかった……先輩たちに相談してみるよ」


 俺の剣幕に気圧されたのか、ヨハンはうなずいてくれた。


 騎士団には俺の兄も所属しているし、正直あまり近づきたくはないのだが……リアリティのある小説を書くためだ。ここは頑張らないといけない。



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