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11.ライフの休日


 その翌日。俺は指定された時間に商店街の入口にやってきた。


「あ、ライフ、こっちこっちー」


 そこにはすでにシェリアとヨハンの姿があって、シェリアは俺の姿を見つけると、ぴょんぴょんと跳ねながら手を振ってくれる。


「ようやく来たか。来ないのかと思ったぜ」


 そう言って薄い笑みを浮かべるヨハンはホワイトシャツの上にベストを着て、ズボンを身に着けていた。


 一方のシェリアはそのウェーブがかった赤髪を白のリボンで結っていて、服装にも気合が入っている。


 ドレスとまではいかないけど、よそ行きの服という感じで、所々に入ったフリルが可愛らしさを際立たせていた。


 俺も多少は見た目に気を使ったつもりだが、二人に比べたら見劣りする。


 特に気にしていなかったが、服装についてもベールに相談してみるべきだったか。


「それじゃ、まずはどこに行く?」


「あー、適当に見て回って、気になる店があったら入ってみればいいんじゃないか?」

「そうだねー。そうしよっか」


 俺が思い悩んでいるうちに、シェリアとヨハンはそう決めてしまう。

 特に異論はないので、二人に続いて歩き出した。


 ……時折、三人で他愛のない話をしながら、商店街の中を進んでいく。

 この街には図書館もないので、当然本屋もない。


 それこそ本屋を見つけたら、俺は真っ先に飛び込む自信があった。

 そんなことを考えながら、左右に立ち並ぶ店を見る。


 どの店も文字ではなく、イラストが描かれた看板を掲げていた。

 あれは、文字より絵のほうが多くの人に伝わりやすいということを意味している。


 つまり、この街の……いや、国全体としての識字率はかなり低いのだろう。

 ……今後、自分の小説を売り出せたとして、一部の上流階級の人間にしか読んでもらえないのは悲しすぎる。


 せっかくなら、誰にでも分け隔てなく読んでもらいたいし。識字率向上のため、ゆくゆくは学校の設立も視野に入れないといけないのか……?


「ライフ……もしかして、また小説のこと考えてる?」


 遠くに並ぶ看板を眺めながら思案していると、隣を歩くシェリアが訊いてきた。


「え? あ、ごめん」

「謝る必要なんてないよ。ライフらしくていいね」


 思わず謝るも、シェリアはそう言って俺に笑顔を向けてくれる。

 その笑顔が可愛すぎて、つい視線をそらす。


 ……いくら許嫁とは言え、明らかに距離が近い。


「……どうかした?」

「い、いや、なんでもないよ」


 自分の顔が赤くなっていないか不安になりつつ、俺は改めて周囲の店に視線を送る。


 ……結局、昨日はシェリアへのプレゼントを決めきれなかった。


 ベールに色々と相談したものの、当日にシェリアの反応を見て決めろ……という、なんとも微妙なアドバイスをもらっただけだった。どうしたものかな。


「わ、見て見て。これかわいいよ」


 その時、シェリアが雑貨屋の前で足を止めた。


 店の出入り口に置かれた棚の上に、様々な動物をかたどった置物が並べられている。


 犬やネコといった見慣れたものから、タヌキとウマの中間のような、よくわからない動物の置物まで、様々なものが売られていた。


 そんな中から、シェリアが手に取ったのは……ネコとウサギを混ぜたような謎の生き物だった。


「シェリア、なにそれ」

「キャビットだよ。森の妖精って言われている動物で、めったに人前に姿を見せないの」


 ウサギのような長い耳に加え、ネコのような尻尾が三本生えていた。


 左右の瞳の色が違うけど、突然変異とかではなくこういう生き物なのだろうか。不思議だ。


「お嬢様、お目が高いです」


 その時、店主の女性が接客スマイルを浮かべてやってきた。

 シェリアの身なりから、単なる冷やかしではないと判断したのだろう。


 まてよ……これはベールの言う、男を上げるチャンスなのではないだろうか。

 そんなことを考えた時、ヨハンも同じように女性向けの小物を見ていることに気づいた。


 これはヨハンの奴も、シェリアに何か贈るつもりだな。ここは先手を打たないと。


「シェリア、それが欲しいのか?」

「うん。悩む時間がもったいないし、買っちゃおう」


 俺は自然を装って財布に手をやるも……シェリアはさっさと会計を済ませてしまった。


 ……男を上げるチャンスは、速攻で(つい)えてしまった。

 さすが商家の娘。即決力は血筋なのだろうか。


 それから雑貨屋をあとにし、再び商店街の中を進んでいると……ある看板が目についた。


 そこには水晶玉から煙が出ているような絵が描かれていた。どうやら魔道具専門店のようだ。


「ここ、入ってみてもいいかな」

「いいけど……魔道具は高いよ?」


「ちょっと見るだけだからさ」

「……見るだけってのは、あまり感心しないなぁ」


 足取り軽く店に向かう俺に対し、シェリアは口を尖らせる。

 職業柄、冷やかしをあまり良く思っていないのかもしれない。


 魔道具はこの世界のファンタジー要素を凝縮したようなものだし、それこそ小説のネタになるものばかりだ。


 店主から話を聞くだけでも十分に創作意欲を掻き立てられそうだけど……これは何か一つは買う必要がありそうだ。


 ……今度こそ、シェリアに何かプレゼントをするぞ。


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