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これが一枚あれば大丈夫!

作者: はやはや

異常気象が異常になりすぎたら……

「今日の午前中は猛暑日ですが、昼前から降る雨の後は、真冬日の気温まで一気に下がる見込みです。調節できる服を数枚持参してお出かけください」


 画面の向こうでお天気キャスターが笑顔で話している。


 30XY年。地球の気候は、どえらいことになっていた。四季があった日本もそんなものは遠い昔になくなり今では一日の中に春夏秋冬がある。

 春と秋みたいな穏やかな気候の一日もあれば、今日みたいに夏と冬が一緒にやってくる日もあるし、梅雨みたいにじめじめしていたかと思えば一気に気温が下がり大雪になる日もある。

 人々はそんな気候に振り回されながらも、一日を快適に過ごす、というより生き延びるためにさまざまな衣類やアイテム(ストールやマフラー、耳当て、手袋、マスク)を毎日持ち歩くようになった。だから毎日大荷物だ。二泊三日の旅行に行くくらい。


「良太ぁ。一応折りたたみ傘と裏起毛のトレーナーとダウン持って行きなさいよ」

 キッチンで洗い物をしながらお母さんが言う。それに対し「わかったー」と返事をしてから僕は自分の部屋へと戻った。

 今日は月曜日。ただでさえ体操服や上履きの荷物が多い日なのに、折りたたみ傘にトレーナーとダウンというかさばる衣類が追加される。

 大きめのトートバッグにそれらを全部詰め込んだ。トートバッグははち切れそうだ。実際、登校中に荷物が多すぎて鞄がもげる人を何人か見たことがある。あの人達はあの後、一体どうしたんだろ?


「いってきまーす」と言って玄関のドアを開けると太陽がギラギラ照りつけていた。すでに気温三十度はある感じだ。

 それなのに、昼から雨が降って真冬日になるらしい。今は半袖Tシャツにデニムなのに、帰るときはTシャツの上にトレーナーを着て、さらにダウンを着ているのか。

 そんなことを思いながら通学路を歩く。周りにいる人を見ると、大人も学生も本来持つべきカバンやリュックサックの他に、ぱんぱんに膨らんだ手提げを持っていたりキャリーケースを引いている人もいる。その表情はみんなそろってげんなりしている。


 *


 予報通りに昼間に雨がざっと降り、気温は一気に急降下した。教室では午前は冷房だったのに午後からは暖房に切り替わった。

 みんな「寒い寒い」と言いながら帰り支度をしている。校門を出て歩きながら試しにはぁっと息を吐くと、白い息が出た。うん。真冬日に間違いない。

 裏起毛のトレーナーにダウンでちょうどいい感じ。一体、明日の天気はどうなるのやら。


 家に帰りお母さんが用意してくれていたおやつを食べた。「おやつを食べたら宿題をする」と約束をしているけれど、お母さんが仕事から帰ってくる一時間前になって慌てて宿題を始めている。これは内緒だ。

 それまでの一時間ちょっと僕は好きなことをする。ゲームをしたりタブレットで動画を見たり、録画しているお気に入りのアニメを見たり。


 今日はアニメを見たい気分だ。テレビの電源を入れると、ちょうど夕方の情報番組をやっていた。司会者の男性アナウンサーが希望に満ちた声で話している。


「一日も早く商品化かれて欲しいですよねぇ。高野さん」


 アナウンサーがコメンテーターに意見を求めている。高野と呼ばれたコメンテーターは女性で、賢そうな顔立ちをしていた。


「本当にそうですよね。今日みたいな日なんて本当に荷物が嵩張っちゃって……」


 僕はそのまま番組を見続けた。

 どうやらとある繊維メーカーがどんな気温でも対応できす素材を開発したらしい。暑い時は冷感素材の役割を果たし、寒い時は体温を逃さず保温する。

 何て素晴らしい素材! 僕は色めきたった。たぶん少女マンガに出てくる主人公みたいに、目に星がきらきらと輝いていたはずだ。


「ただ、繊維としての開発段階なので、衣料品に実用化されるまでは、もうしばらく時間がかかりそうですね〜」


 とアナウンサー。何だ。一ヶ月後とかに手に入るものじゃないんだ……僕はがっくり肩を落とす。


「でも、毎日の天候に振り回される今の状況を脱却する希望は見えましたね!」


 アナウンサーは希望を持たせるように言って話を締めくくった。あーあ。早くその繊維とやらが実用化されてほしいなぁ。そう思いながら僕はリモコンを操作し録画しておいたアニメを選んだ。

 ふと窓の外に目をやる。八月なのに窓の外ではしんしんと雪が降っていた。

読んでいただき、ありがとうございました。

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