十八話(完結)
誰もが罪を犯していいて
誰もがどこかで誰かを傷つけていて
誰もがどこかで加害者で
罪を数えても罪を見つめても
罪は消えない。
だから
これから新しい選択を。
「勇、僕の名前を覚えていてくれてありがとう」
「あー、よく分からんけど、反応があったということはそういうことだよな」
「うん、これが僕が救われたことの1つ。もう一つは、この前勇が思い出してくれたこと。」
松永は、そっと俺の両手を取って。
あの時みたいに、強く握りこんでくれた。
そしてその手を、俺の頬に摺り寄せる。
ああ、やっぱり。
夜のあの睦み合いじゃない時にされたのは初めてだったが、
胸にいつものあの感覚がいっぱいになる。
あ、やばい。気ぃ抜いたら泣きそうだわ。
おお、なんかめっちゃドキドキするんだけど…。
アノ時じゃなくてもこれヤバかったんだな。
「………もしかして、この前の時のこれか?」
「うん………」
「すまんけど、これ前から結構そうだったんだが」
「え!?なんで早く言ってくれないのかな!?」
「いや、なんか言い出しにくくて………」
「はぁー」
松永はわざとらしくため息を吐いた後、にっこり微笑み。
「勇。前世で僕の人生を散々振り回してくれた分、今から言う僕のわがまま聞いてくれる?」
「いいぞ。聞ける範囲内でなら」
「………………」
「おい、どうした」
その笑みが、だんだん凍りついていって。
「………ッ……………」
「いい。お前が話せるまで待ってるから」
「ッ………この………」
「うん」
松永はいつしか余裕のある微笑みを無くしていた。
松永の唇が震えてた。
「……この時代では、絶対に、僕を残して先に死なないで欲しい」
ああ、そうか。俺はたしかこいつを残してあの将軍と死んだんだったな。
えげつねえ、前世の俺。マジ鬼畜。
どんな背景があったらそんなことになるんだ?
将軍の無理心中とか?
まぁストーカーならやりかねないけどな。
でも松永はそういうこと絶対にしない。
そこは断言できる。
こいつは俺にそれをする位なら自分が1秒待たずに死ぬようなヤツだ。
そういうヤツを残して先に死んだ前世の俺、完全アウト。
「分かった。絶対にお前より先に死なない。ごめんな。前世でお前には本当に辛い思いさせたんだな」
「僕は……ッ」
「うん。分かってる。お前は謝って欲しいわけじゃない、だろ?」
そうだよな。
もしも俺がお前の立場なら、謝って欲しくはないもんな。
欲しい言葉や伝えたい言葉はそっちじゃないと思うから。
欲しい言葉や伝えたい言葉?
あ。
「そうそう。お前に伝えなきゃいけないことがあったんだ」
「………何?」
「これな」
俺は今も松永にあたたかくもしっかりがっちり握りこまれた自分の両手を示しながら
「たぶんな。前世の俺も、本当はお前と離れたくなかったんだと思う。そーゆー感覚になるんだよこれ」
「………うん…」
「ああ、泣くな。だから、何が言いたいかってーと」
「…………………」
「俺達、今の時代は前よりももっと幸せになろうな」
俺ははじめて、震える背中を自分から抱きしめてやった。
俺の為に、たくさんの事を耐えてきた背中。
「ありがとう、誠。ささやかな御礼と言ってはなんだが一生付きまとってやるよ」
俺の首筋に押し付けられた髪の毛が大きく揺れた。
「………勇の方こそ、俺なんかと出会ってくれて、本当にありがとう……」
俺はクスリと苦笑する。
こいつ、今の、猫かぶるの忘れてるぞ。
「誠、帰ろうか。俺達の家に」
「うん」
礼拝堂を出る俺達の背中の神像が、
そしてその神像の傍らにいるかもしれない人が、
俺達をそっと包んでくれている気がした。
ああ、今度からはここに来る時は誠と一緒に来ないとな。
高橋が言ってた光の玉。
『お前が選択するべき道を今度は間違うな』
か。
俺は今いい選択が出来ただろうか?
ああ、これは「今」じゃないんだ。
「今から」なんだと思うわ。
悲しみの過去は変えられないけど、
これから、たくさんのいい選択をしていかないとな。
俺も、誠も。みんなも。
イースランド国・西部。
「本日より西部作戦本部に着任いたしました、ジェイムズ・ポートランド中尉及びマクスウェル・チェスター少尉であります。何卒よろしくお願い致します」
遠目からではなくすぐ目の前にあの軍神アドルフがいる。
アドルフ少将といえばそれと言われる、いつもその顔ばせに湛えておられる慈父のようなあたたかな微笑み。
その微笑みが、いま今俺達に向けられている。
「よく来てくれた。ここは王都から遠かっただろう。まずは休みなさい」
軍神アドルフ少将は、作戦本部に着いたばかりの2名の配下を労ってくださった。
ある日、俺は夜半にアドルフ少将の私室に呼び出された。
通常は司令長官室に呼び出されるものなので、個人的指導と思われる。
「失礼いたします。ジェイムズ・ポートランド中尉であります」
「ああ、よく来てくれた。遅くにすまない。そこに掛けなさい」
アドルフ少将は微笑みをさらに深くして言われた。
「ポートランド中尉、率直に話そう。私はお前を実の息子のように思っている」
「は…!」
「お前には天賦の才がある。まだ眠っているが私には見える。お前は私の過去の私自身だ」
動悸が止まらない。胸が熱く燃え上がる。
俺は………軍神に選ばれた!
「………ありがとうございます………!あまりにもったいなきお言葉です………!」
「私は嘘は言わない。ポートランド、これからお前に私が持つすべての技術と経験と知識を教えていく。お前にのみだ。他の者はとてもついてこれぬだろうからな。覚悟はあるか?」
「は………!!光栄であります!!」
「私の言葉を受け入れるならここで師弟の誓いを」
俺に迷いはなかった。
帯剣でお互いに心臓に近い左手首を切り、そこから流れる血を入れた酒をお互いに飲み干す。これは『命ある限りこの誓いを守り通す』ことを意味する。そして同時に『この誓いを破る事は死と同義』でもある。
師弟の絆は絶対であり、師の言葉は上官命令よりもはるかに重い。俺は軍神アドルフ少将に選ばれた唯一の弟子となったのだ。
「では、ジェイムズ。お前にお前の師父である私からの最初の言葉を与える」
「はい!」
「お前の宝をお前の命を懸けて守れ」
(終)
あとがき
この物語は、過去・現在・未来の円環になっています。
怪しいことを言うと思われるかもしれませんが、
前世と今世の関係というものは実はそうなっています。
ロー(高橋)がそれまでの生き方を変えマクスウェル(新倉)を守ろうと思った事で
ローがマクスウェルへの襲撃を止めに入る事が出来たことで襲撃が未遂に終わり、
マクスウェルは教会と子供達を最後まで守れた上で安心してローへ託せたので、マクスウェルはアドルフを許せ、
(ローが襲撃を知らせなければ子供達が犠牲になっていて、結果激怒したマクスウェルはアドルフを殺していた)
マクスウェルがアドルフを許しアドルフを抱いて死んだことで、アドルフは死の間際にして人生の悲観から救われ
それによってアドルフ(南)は自分が虐待していた新倉を次の時代では虐待から助ける側に回った(それによって幼い新倉を人生への悲観思想から救った)。
それによって勇の人生が悲観から卒業できて前向きになり、前向きな勇がこの時代の松永を自分から受け入れていくことで、
そのままだと前世のトラウマから独占欲の暴走で第2のアドルフになりかけてた松永を救い、
それを孤児院の教会で見ていた南の霊意識が過去のアドルフに流れこみ、過去のアドルフの判断が変わる。
このように、一人の判断によって、多くの人の過去と未来が良くも悪くも影響を与え合う。
これが転生輪廻の実態になります。
前世で何をしたかで今世に影響があり、
それをただ継ぐのか、それとも今度はどういう判断をするのか。
これによって未来が変わるのはもちろん、前世でさえも変わります。
作者が見た転生輪廻の姿でした。
作中には作者自身の実体験を一部入れております。
最後までお読みいただき、まことにありがとうございました。




