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十二話





 しばらくしたら涙は止まったが、まだ手の震えが残っている。


「おい、これどうしたらいいんだ」

「すいません…」

「俺今お前に謝れって言ったか?」

「いえ………」


 前世やべぇ。こんな風になるのか。

 しかし俺がするべきことは一つだ。


「よし、高橋、帰るか」

「え!?」

「何で『え!?』だよ。もう話終わったんだろ?」

「違います!さっきは先生の様子を見て止めたんです!」


 あ、ゴメンゴメン。

 えー?じゃあまた俺自動的に泣いちゃうヤツか?ちょっとヤだなー。これ以上の羞恥プレイは勘弁だぞ。

 じゃあもうこれメールとかでやりとりしねぇ?

 でも今高橋にそれを言ったら無神経だとマジドン引きされるかマジギレされそうなので、我慢した。


「あ、じゃあさっき続き、松永の前世の名前ワードだけやめようか。たぶん俺が反応したのあれなんだわ」

「はい………」


 それを言ったら、何故か高橋が複雑そうな顔をした。

 なんか分からんが、高橋は松永に前世のどっかでライバル意識を持ってるかもしれない。

 まぁ、あっちの方が前世で俺と関わってたのが古いからかな?


「ええと………どこまで話したかな…そう、僕は当時のマック先生から先生が将軍に引っ張られていった後の孤児院の運営を任されたんですが、それよりも前………

 松永さんは、軍人時代のマック先生…マックさんを将軍に奪われようとした時に、マックさんに『一緒に逃げよう』と言ったのに、マックさん自身から『自分を想ってくれるなら自分よりも国を選べ。その将軍にお前はついてけ』って任せたらしいんです。それが松永さんが今の時代で先生に異常な執着をする原因だと思います」

「うへぇ。前世のおれひでぇな。完全自己満じゃねぇか。うぜぇドラマのヒロインみてぇ」

「そうなんです。先生そういう風に相手の気持ちを考えずに託しっぱなところがあります。俺にもそうでした」

「お?お前今自分のこと『俺』って言った?」

「あ。」

「もういいよ別に。これから自分のこと俺って言えよ」

「いやちょっと………」

「優等生ぶんなくていいから」

「少なくとも先生の前では丁寧な口調でいたいので」

「なんか気を使わせてすまんな」

「いえ………」


 あー、でもこれで大体分かったわ。

 なるほどな。俺は前世で2人の男に、

 事実上の『私をことを想ってくれるならこれヨロ☆』という、いわば小悪魔アクションしちゃったわけね。

 なんだよそれ。キャバ嬢が客にバック買わせるあれじゃねーか。

 しかも俺に対する気持ちが『慕ってた先生』ポジだった高橋はまだしも、

『恋人』ポジだった松永は、しかも恋人おれを奪った将軍とずっと関わって行かなきゃいけなかったら、そりゃたしかにトラウマもんになるよな………


 《俺を想うなら国を選べ、俺を奪った将軍についてけ》って、俺どう見ても鬼じゃねーか………

 そりゃ松永狂うわ………


 で、これ、どうしたらいいんだ?

 松永、お前をどうしたら救える?





















 アドルフ大将の国葬から2週間後、俺は王城にあった。

 王の御前にて、王直轄暗部の者からのレポートを受け取っていた。



 《一連の事案に関する報告書》



 おそらくこの内容が詳細であればあるほど、

 あの御方は意図的にそれを調べられるようにしている。

 あの御方が本気になればどこまでも隠蔽は可能だ。

 だから、この内容はあの御方から《見せられているもの》と思った方がいい。


[7年前より対象A、国境ソマルカ地方ダオ村『聖クラス教会』(以下K教会)に接触開始]

[1ヶ月~3ヶ月に1度の頻度にてK教会に宿泊]

[主目的は寄付行動。内実はK教会神父との接触目的]

[K教会神父M(以下対象M)は戦病死扱いとなっている元陸軍西部作戦本部所属少尉マクスウェル・チェスター(K教会では『マック』と名乗る)]

[対象A、K教会に多額の寄付行動。K教会への宿泊の主目的]

[対象M、対象Aからの寄付金のほとんどに使用形跡なし。食事に困らなくなる程度の使用。残額は教会内に現在も留保の可能性あり]

[3年前より対象Aから対象Mへの電信連絡増]

[1年前、複数の冒険者グループによるK教会への襲撃事案発生。半分の実行グループは地元警備隊に検挙される。半分の実行グループは裏ギルドに依頼受領書は残るものの全員行方不明。冒険者裏ギルドへの依頼はその後の内容から鑑み対象A筋からの迂回依頼と思われる]

[K教会襲撃事案発生の翌日対象M、対象Aに電信連絡]

[K教会襲撃事案より一週間後対象MはK教会を出立。4日後対象A別邸に到着]

[対象A、対象Mとの養子縁組申請。同時期遺言書に追記『対象Aと対象Mを同墓内に埋葬する事』]

[対象M、別邸から自発的外出形跡なし]

[数回の外出はいずれも対象Aが対象Mを連れ立ち外出。別邸周辺の散策程度]

[別邸内での対象Mの状況:自室内にて日中読書もしくは決まった場所に座り窓の外を見る。性質は良好。常に微笑んでおり顔色良く使用人とも時折言葉を交わす。使用人との関係は極めて良好。使用人に声を荒らげたり取り乱すことなし。対象Mへの虐待等の形跡なし]

[本日より2ヶ月前の◎月◎日対象A対象Mの死亡事案発生。対象A対象Mを連れ立ち外出。別邸敷地はずれの崖にて対象Aと対象Mしばらく会話。直後対象M、対象Aにしがみつき、そのまま転落]

[対象A、K教会に最後の寄付行動を使用人に事前依頼判明。結果的に対象Mの弔慰金となる。K教会より寄付金即時返却]

[備考①対象A、3年前より難病発症]

[備考②対象A、1年前に王立医師団最高位マンデル医師より余命宣告。余命期限はおよそ1年~最大2年。多くは1年以内に死亡とのこと]

[備考③対象Aの病状はすべて対象Aの希望により秘匿される]

[以上]








 これを見せた王の意図するところが私には分かる。


 10年前に彼をあの御方から逃がしたのが誰であるか。

 なるべくあの御方から隠そうとしたのが誰であるか。

 そして、あのお方につけた暗部を通じて、その後の彼の同行を補足し続けた理由。

『王族はマクスウェル元少尉を見捨てていなかった、状況によっては保護しようとしていた』というアピール。

 この背景にあるのは、私への畏れ。

 軍神亡き後、私が国から去らないように。

 私が今この国を去れば、この国は終わる。それは誰が見ても理解できる事実。

 だから国王は今私にこうして接触している。

 国王の持つすべての情報を開示することで、私に誠意を見せ、言外に『この国を見捨てるな』と頭を下げている。




 こんなものが。











 ─しかし私は私の託された事を果たすだけだ。


 これまでも。

 これからも。

 あの御方がいた時も。

 あの御方が死した後も。

 私にできること。

 私に残されたこと。


 彼との絆は、

 彼から託されたものを果たすこと。



















 アドルフ大将国葬より2年後、王命によりチェスター伯爵家伯爵夫人オリヴィエ、

 遠縁より養子を招く。これによりチェスター伯爵家再興す。

 チェスター伯爵家の後ろ盾となったのは国家英雄である《金狼》ジェイムズ・ポートランド陸軍省名誉長官兼宰相補佐。









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