サクリファイス
長女を乗せる自家用車は暗闇のなかを走り、明かりも灯っていない不気味な遊園地に到着した。ここは、昨年閉園した遊園地。娯楽など許してこなかった両親のもとで生活をしていたからもちろん遊園地には初めてきた。
「こんなところに妹が居るの?」
さすがに様子がおかしいことに気づく。両親はなにも言わずに目的地まで歩く。悪魔に魂でも売り渡したかのうように目的のためならば手段を選ばないと言わんばかりに。一言も喋らない両親からは既に負のオーラが漂っている。
鏡の世界という迷路に到着した。妹はここに居るという。絶対におかしい、これは罠だ。だけど、もう引き返せないと悟った長女はおとなしく着いていく。鏡張りの道を懐中電灯を頼りに進んでいくとドアがあった。ドアを開けると中は複数の鏡が反射しあうように張り巡らされた部屋になっていた。
「迎えにきたぞ!」
「怖かったでしょう?もう大丈夫よ」
両親は叫び始めた。まるでここに妹がいるかのように。一瞬の静寂の中、目の端をなにかが掠めた。振り向いてみると誰も居ないが正面を向き直るとそこには青年の姿が鏡に映っている。見たこともない青年……
「お父さん、お母さん……次こそ迎えにきてくれたの?生け贄は見つかったの?」
見た目こそ青年であるが喋り方は少女のよう。中身はまるで別人だ。
「ああ、待たせて悪かった」
「これでもう帰れるわ」
両親の対応、青年の喋り方から鏡の中に居るのは妹なのだと理解した。そして、自分が生け贄なのだと……
「アア、オネーチャン。戻ってきてくれたの。ワタシのモトニ。わたしずっとマッテイタワ」
じわじわと近づいてくる妹が両手を広げて長女を呼び寄せている。今の妹は心のそこから自分を待っていたのだろうとわかるがそれは長女としての自分ではなく、生け贄としての自分。両親も妹をこの鏡の世界から救い出すために、最初から生け贄をつれてきた……
「両親からは必要とされず……最愛なる妹もおかしくなってしまった。私には帰る場所などなかったのね。それでも妹が生け贄としての私を必要としてくれているのなら……」
父親の皮をかぶった悪魔に背中を押されたことをきっかけに、長女は自ら妹が居る鏡に寄り添った……