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帰り道を教えて  作者: 大川魚
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遠い記憶

 呼び止められるとは思ってもいなかった女はどうしたらよいのか困ってしまった。帰る場所など自分にはなく、鏡の世界こそが唯一の居場所だった女は過去にも彼のように取り込まれそうになる人を助けたことがある。決してお礼など言われることはなく、帰る場所に帰っていった。それが当たり前だった。それにこのように自分を必要とする呼び掛けなど、受けたことはない……

 「私を必要としてくれたことなど……一度も……この記憶は……」


 遠い記憶。一人娘は苛烈なまでに教育熱心な父親と教育には一切口を挟まず淑女であることを叩き込む母親のもとで心折れることなく生きていた。10歳になった年に妹が生まれた。妹は父親の家系の血を強く引き継いだらしく生まれつきの天才であった。両親の態度ががらりと変わってしまった。妹に対して導くように教育する父親、好きなものを身に付けるように委ねる母親になっていた。興味関心が完全に妹に向かい、長女は見向きもされなくなった。厳しさのストレスはなくなったが同居人としての扱い。それでも長女はくじけなかった。妹だけが唯一自分になついてくれていたからだ。両親の目が届かない時に限ったが……

 月日は流れ、長女は18歳に、妹は8歳になった。高校卒業を機に実家を出ることにした長女は独り暮らしを開始した。両親は必要最低限のことと、金銭面のことだけは対応してくれたがあとは放任主義を徹底した。小学生に上がった妹は両親の目をかわすのも困難となり、姉との密会ができず内心では悲しい思いをしていた。そうして長女が20歳になる年に今まで一度も連絡をしてこなかった両親から帰省するようにと一報を受けた。無難に大学生活を送っていた長女は言われるがままに帰省した。そこには妹の姿はなく。

 「お帰り。最近調子はどうだ。ちゃんとご飯は食べているのか」

 「素敵な殿方は見つけたのかしら」

 確かに両親の顔をしているのだが、誰だ。とツッコミをいれたくなるくらいには手のひらを返して自分に接してくる両親がいた。

 どうやら妹は反抗期に突入しており、家出をしてしまったそうだ。何処に居るのかは両親共に把握しているらしく、長女であればひとまず自宅に連れて帰れるのではないかと考えたそうだ。都合のいいように利用されているのだと自覚はしているものの、自分を頼ってくれたことが嬉しく、何より唯一の私の妹のことが心配となり協力することとなった。

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