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帰り道を教えて  作者: 大川魚
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取り込まれる

 「とても貴重な情報をありがとうございます」

 男はるんるんとした表情でお礼をする。先ほどまで自分を襲おうと……いや、自分の体を奪おうとしていた相手に。

 「どういたしまして」

 相手は獲物を狙う目をしている。襲いかかる機会を待ち望んでいる。そんなこととは知らずに男は続ける。

 「この映像をもとに研究者たちに協力を仰いで君たちが無事に鏡の世界から出られるように尽力するよ。配信者としての俺はそれぐらいのことしかできないけれど」

 「そんな必要はないわ。だって、私は今から肉体を手に入れて無事に帰路につくのだから!」

 「ズルーイ、ヌケガケダー」

 またしてもがらりと空気が変わってしまった。インタビューがあったとは想像もつかないほどに鏡の世界の住人達が男に襲いかかってくる。寸でのところで、身を翻し男は捕まることはなかったが、鏡の世界の自由性は恐ろしくすぐにまた危機が訪れる。片言な喋りをする方から逃げる際にうっかり壁を背中にしてしまい、つまり鏡に背中をつけてしまった。

 「つーかまーえた」

 捕まってしまった。どういう原理になっているのか真後ろに居るであろう人から鏡越しに首根っこを捕まれている感覚。全身が金縛りにあったかの様に動かない。

 「アーア。ツカマッチャッタネ。オネエチャンヨカッタネ、カエレテ」

 それを機にもう一人は姿を消してしまった。どうやら他人が捕まえた獲物には手を出さないのだろう。そういうルールなのか?

 「これで、ようやく私も帰ることができる。恨まないでねあなた」

 ゆっくりと両腕、両足が鏡の世界に吸い込まれていく感覚。体から魂が剥ぎ取られていく感覚。ここにきてようやく恐怖が出てきた。怖い、怖い。自分も鏡の世界にとらわれてしまうのか。自分の体に別の人の魂が入り込み、自分として生きていくのか。

 「嫌だぁ!!捕まりたくない!!!誰かぁ」

 助けを求めたってここには誰もいない。ドローンのようなカメラがこの様子を見ているだけ。リアルタイムで配信されいるわけではないからどのみち誰も気づきはしない。

 身を捩ろうにも動かないのにそれでももがき続ける。既に顔以外の感覚はない。鏡の世界に取り込まれているのだろう。無慈悲にも涙、鼻水は垂れ流され、男の叫び声が響き渡る。

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