体をよこしなさい
目の前で繰り広げられている口喧嘩の原因はまさしく自分であるというのに、男は臆することなく声をかける。
「お取り込み中申し訳ないのですが、是非ともインタビューをさせてはいただけないでしょうか!」
静まり返る空間。突拍子のない台詞から場の空気をがらりと変えてしまった。口喧嘩をしあっていた二人は静かに男の方を見つめる。
「面白い男ね。いいわよ、答えられることならなんでも答えてあげるわ」
一人は閃いたかのように興味を男に変えた。今すぐに取って食おうとするわけではなくさも女優の如くインタビューを受ける体勢を取っている。もう一人は興味をなくしたらしくそっぽを向いてしまった。見た目はそうでもないのにまるで子供のように。
「まずは、君たちはどう言った存在なんですか。幽霊ですか」
超がつくほど純粋な表情と声色で男が質問するものだからうっかり鼻で笑ってしまった。
「幽霊……か。魂だけの存在だからある意味正解なのかもね。だけど、私たちの体、肉体は現実世界で生き続けているわ」
一瞬恨めしそうな顔を見せるもすぐに表情を変え、フランクな状態になる。
「まぁ今さらそんな器に興味はないわ。どんな器だったのかなんて忘れたし。今はとりあえずなんでもいいのよ。ただ帰りたいだけ」
「ということはですね。あなたはここで以前に体を奪われてしまった、つまり鏡の世界の住人と入れ替わってしまったということでしょうか」
ここにきて貴重な情報を手に入れることができそうだ。今回の配信の目的は鏡の世界の噂を確認すること。噂は本当であったこと、鏡の世界の住人ももとは人間だったこと……情報がたくさん。このインタビューが無事にカメラに映っていることを願うのみ。
「そうよ。面白半分でみんなでここに来たの。だけど、みんな、私のことなんて助けもせず我先に逃げていった。よりによって好きだった男に助けを求めたその手を振り払われてしまったわ。もうその瞬間全てがどうでもよくなった」
本当の話しかどうかはわからないが想像はつく。きっと一般的に陽キャといわれるグループで肝試しにここへ来たのだろう、そして当時好きだった男はクズ男だったと……