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「李さん一家」 何でもないラストの妙味

漫画家つげ義春さんは、昭和40年頃から雑誌「ガロ」などに次々と優れた作品を発表し始め、昭和41年の「沼」を皮切りに、それまでになかった素晴らしい名作を続々と世に送り出した。中でも昭和41年の作品で、私が最も好きなのが「チーコ」という作品だとすれば、昭和42年の作品はもうとても1つに絞れない。

この年に発表された作品数は7作で、ただでさえ寡作のつげ義春さんとしては多いが、それ以上に、「李さん一家」「海辺の叙景」そして「紅い花」と、名高い名作が3つもある。


ところで今回は、先ず「李さん一家」から取り上げようと思う。

なぜ「李さん一家」なのかというと、この作品は私にとっても忘れられない強い印象の残っている作品だからだ。


物語は、主人公が「まだコヤシの臭いの残る郊外のボロい一軒家」に引っ越して来たところからはじまる。


主人公の「僕」は、このボロ家がとても気に入ったようで、「トマトや胡瓜畑を作り、庭の木々には小鳥が遊びに来て、朝 目を覚ますと窓から朝顔のツルがそっと のぞいている」そんな生活を空想していた。

何と風雅な生活だろう。これは最近でも、こうした生活に憧れている方は沢山いらっしゃるのではないか、という気がする。


ところが、である。ある日、ギャングのカポネ時代に流行ったような縞模様のうす汚ないズボンを履いた男がわがボロ家の庭に迷い込んでくる。

この男が李さんであった。


何と彼は世にも稀な鳥語を話せる人間で、樹上の雀から明日の天気を教えてもらったりするのだ。

李さんによれば、子供の頃、鳥と話をしてみたいと純真な気持ちで話しかけたら通じたそうで、「僕」は彼のかもし出すムードにのまれてしまったのか、そんな李さんの大法螺に惑わされてしまったものなのか、一家4人がいつの間にか2階の6畳に住みついてしまったのだ。


李さんには定職がなくおまけに怠け者なので、生活は相当に苦しいらしい。

目と口が大きい色ぐろのグラマーな奥さんは、李さんがどこからか金の工面をしてくるまで空腹のままで平気でいて、僕が作った胡瓜を無断でもいでいき、それは次第にエスカレートしていく。


2人の子供は薄気味の悪いほど静かで、さらに奥さんは子供の面倒もあまり見ず、女のやるべき仕事は何もしない。


さて、こんな奇妙な一家が自宅の2階に住み着いたらどんな気持ちだろう。

これはたまらないと誰もが思うだろう。

しかし、この「僕」は、何も言えずに受け入れている。

出て行けとも言わない。


そしてある日のこと、僕が外出から戻ってみると李さんと奥さんが裏庭の片隅で僕が作ったドラム缶の五右衛門風呂をたいていた。

李さんは言う。

「家内は千葉県の出身でカジメ採りをやっていた、だから2分間も呼吸を止めてもぐれるのです」と。


奥さんは裸で入浴中で、実演をして見せてくれるのだが、2分後に顔を出すとそのままぐにゃりとのびてしまう。

李さんは「大変です!のぼせてしまったのです」と大慌てだが、奥さんは何しろグラマーなので、上半身を引き上げるのが精一杯、僕は下半身を受け持つことになるが……。


さて、ここからである。

タイトルにもあるが、つげ義春さんの作品はラストに特別な味わいがあるものが沢山ある。

この作品もそのひとつで、是非現代の読者様たちにもこのラストを体験してみていただきたいものです。


ラストのページのひとコマ前は、

「僕の風雅な生活を侵害した この奇妙な一家がそれから何処へ行ったかというと」


何処へ行ったと思います? 皆さま?

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