第4話!初めての依頼!
「薬草ってどれ!!」
私たちは今、怪我に効く薬草を探して森の中を歩き回っている。
「女神様も探してくださいよ〜」
「ごめんなさい、そういうのはこの状態だと難しくて」
どうしてこうなったのか、それは冒険者ギルドから頼まれた依頼にある。
「薬草採取、ですか?」
「はい、数日後にシャマルからここファルクスに軍が送られてくるのです。
そのために薬草を買っておいたのですが...」
「何かあったんですか?」
「実は荷物を運ぶキャラバンが向こうを出発したという知らせは届いたきり、ファルクスに来ないのです。
そろそろ来てもおかしく無いので、何かあったのではと...」
「それと薬草採取が何の関係が?」
「もしキャラバンが事故にあったか、もしくは何者かに襲われたか。
いずれにせよ薬草が用意できないと非常にまずいので、今複数の冒険者に薬草採取を頼んでいるのです。
それと薬草採取のついでにファルクス周辺に異常が無いか見回りも兼ねていまして
もちろん、その分報酬も励みます。
サチさんのような方に手伝っていただければとても助かるのですが...」
なんだかいいように利用されてるような気もするけど...
「なるほど、わかりました。
そんなに頼まれては断るわけにはいきませんね、その依頼受けましょう!」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
「くっそー!何で引き受けた!私!」
ファルクスの街からこの森までかなりの距離を歩いた挙句全く薬草が見つからないどころか、他の冒険者も見当たらない。
「女神様〜、この辺りの薬草はすでに取り尽くされているのでしょうか?」
「かもしれませんね、場所を変えた方がいいかもしれません
あっ!後ろです!」
「へ?」
女神様に言われて後ろを振り向くと
何者かが棍棒のような物で殴りかかってきた。
「!?」
咄嗟に杖でガードしたが反動で尻餅をついてしまった。
「だ!だれ!?」
顔を上げて自分を攻撃した者を視認する。
そこにはまるで鬼のような醜い姿の人型の化け物がいた。
それは下卑た笑いを浮かべこちらを見ている。
「ひっ!」
私はあまりの恐怖にその場から逃げ出そうとする。
「逃げてはいけません!ゴブリンは狡猾で残忍な生き物です、それが一匹で狙ってくるなんて。
おそらく罠です、下手に動かずこの場で確実に仕留めるのです!」
「でも、どうやって!?」
「魔法を使うのです。
イメージして、力を溜めて。
あなたなら出来ます!」
いきなり魔法とか言われても!?
「はっ、はっ、はっ、」
イメージ...魔法.....
そうやってる間にもゴブリンはこちらに近づいてくる。
「はあっ!はあっ!」
力を溜めて?なにそれ!?
パニックのせいで思考がまとまらない。
そうこうしているうちにゴブリンが手に持った棍棒を構える。
「...!っ....!」
なんか出ろ!
そう思いながらガムシャラに杖を振り回す。
「落ち着いて!そのままでは...」
「ッー!!」
ゴブリンが雄叫びを上げながら棍棒を振りおろす。
「きゃあっ!!」
間一髪で避け、そのまま走って逃げる。
「ーー!ーー!」
女神様が何か言っているが上手く聞き取れない。
心臓の音がうるさい。
無我夢中で走っていると足に何かが引っかった。
すると右の方から縄で周りの木に吊られた丸太が振り子の勢いで向かってきた。
私は上体を逸らし転がるようにして間一髪避け、そのまま方向を変えて逃げた。
すると目の前に一つの洞穴が見えてきた。
女神様のいう罠かもしれない、そう思ったがあのゴブリンがすぐ後ろに迫っきているのでは無いかという恐怖のせいで何も考えずに入っていってしまった。
洞窟の中は真っ暗で何も見えず事あるごとに躓きこけてしまいそうになる。
少し進んだ時異常に気づいたがすでに遅かった。
バキィッ!!
「わっ!」
足元が突然崩れて穴に滑り落ちてしまった。
ズザザザザッ!
滑り台のように穴を滑り落ちていく。
ドサッ!
「痛い....」
どうやら人が通れるくらいの穴を柔い木で隠して落とし穴にしていたようだ。
あたりは暗く何も見えないがそれなりの空間に出てしまったようだ。
「何...?この匂い...?」
今まで嗅いだことのないようなえげつない匂いが漂っている。
何かが腐ったような匂いや汚物の匂いが混ざり合い袖で鼻を覆っても全く防ぐことができない。
「うっ..!おえっ」
ビチャビチャビチャ
あまりの匂いに吐いてしまった。
「ーーっ!おえっ!」
自分の吐瀉物の匂いも混ざりさらに気持ち悪くなる。
気がつけばもう何も出なくなるくらい吐いていた。
こんな所にいては気がおかしくなってしまう。
それにもしかしたらここはゴブリンの巣かもしれない。
「けほっ、けほっ、...早く出ないと.....」
杖をつきながら何も見えない暗闇を歩き出す。
「あっ!」
何かに躓き転けてしまった。
その時
「痛っ!」
手をついた先に何かがあったようでそれが刺さってしまった。
手を見ると何か尖った石のようなものが刺さっている。
少し痛むがそれを抜くと何か違和感がある。
石にしては妙な色?
暗闇に目が慣れ始めたせいでそれが何か認識してしまう。
「っ!?」
思わずそれを投げ捨ててしまった。
それは人間の歯だった。
見なくていいのに自分が何に躓いたか見てしまう。
そこには肉が削がれ骨がみえている人間の手があった。
その瞬間この部屋に漂う異様な匂いの正体が分かった。
暗闇に慣れた目で周囲を見ると人の死体や馬などの動物の死体が放置されている。
ここはゴブリンの巣、さらにそのゴミ捨て場であるのだろう。
罠にはめて殺した人間を捨てる場所
恐ろしく残酷な生き物の住まう場所
この場にいては自分もこの人たちのようになってしまう。
早くここから逃げないと
ヒタッ、ヒタッ、
「ゲヒッ!ゲヒヒッ!」
「!?」
ゴブリンの笑い声が聞こえる。
足音からこちらに近づいてきているようだ。
ヒタッヒタッヒタッヒタッ
足音が増えた
囲まれた
「ゲヒヒヒヒ!」
殺される!ここに転がっている死体のように!
顔を潰され、肉はもがれ、内臓はぶちまけられているこの死体のように!
「あっ、あっ、」
逃げたいのに腰が抜けて立ち上がれない。
悲鳴をあげたいのに声が出ない。
股の所に温かいものが広がる。
ゴブリンの一匹が近づき斧を振りかぶった瞬間
「でええい!」
叫び声と共に目の前のゴブリンの首が刎ねられる。
倒れたゴブリンの先には剣を持った人がいる。
「お?お前生きてるか?立てるか?」
と、その人はこちらに歩み寄り手を差し出してきた。
私は突然のことに混乱し動けずにいた、すると
「ちょっとローズ!勝手に行かないでってば!」
奥の方から松明を持った人が走って向かってくる。
「おお、ブルー、シエラ
どうやら生存者のようだ、ちょっと見ていてくれないか」
「生存者って、あら、ほんとだ。
ちょっとあんた大丈夫?怪我はない?」
ブルーと呼ばれた杖を持った女の子がこちらに近付いてきて様子を探るように見てくる。
「うん、大丈夫そうね。
シエラ、この子一人じゃ動けないようだから肩貸してあげて」
「はい、わかりました」
シエラと呼ばれた白い服に身を包んだ清楚な女性が肩を貸してくれた。
「もう大丈夫ですからね、安心してください」
「は、はい...」
助けが来たことを理解し緊張がほぐれたおかげで話せるようになった。
「さあ、残りさっさと片付けるぞ!」
そういうとローズと呼ばれた女戦士は向かってきたゴブリンの群れを華麗にバッタバッタと薙ぎ倒していった。
「はあ、相変わらず一人で突っ込んで、乱暴なんだから」
ブルーはそう言いながらもどこか信頼しているのか特に手伝ったりはしない。
「おらっ!これでラスト!」
ローズはこの場に集まっていたゴブリンを全て倒してしまった。
「ふぅ、これで調べ物ができるな...
まて!何か来るぞ!」
ローズの一声で全員に緊張が走る。
すると、ローズ達がやってきた場所とは別の通路から何か巨大なものが現れた。
それは2メートルは超える巨体をもち、醜く肥り、豚のような顔をした化け物だった。
「オークか...楽勝だな」
「簡単に言うな」
ローズとブルーが構える。
「大丈夫ですよ、あの二人に任せておけば」
ブルーは魔法を使ったのか、突然持っている杖の先に光の玉を出してそれを上に飛ばした。
突然の光にオークは目を逸らす。
その隙にローズがオークに近づき腹に一撃をいれる。
「グゴァァァ!」
腹を切られたオークは抵抗し手に持った巨大な棍棒を振り回す。
ローズはオークから距離を取る、
そしてブルーは空中に火の玉を3個ほど出しそれをオークに向かって飛ばす。
命中した火の玉はオークを包み込んでダメージを与えた。
怒り狂ったオークはガムシャラに棍棒を振り回しそして目の前のローズに目掛けて棍棒を振り下ろす
ローズはそれを待っていたかのようにかわし、逆に棍棒を利用し踏み台にしてオークの顔面に剣を突き立てた。
オークは大きな音を立てて崩れ落ちた。
「ふぅ!いっちょあがり!」
「余韻に浸ってる場合じゃないわよ。
この広さじゃ他にもいるかもしれないわ、早く調べ物して帰りましょう」
「それでは、私はこの方を連れて先に外に出ていますね」
こうして私はシエラに連れられて洞窟の外に出ることができた。
シエラに介抱されているとしばらくして二人が出てきた。
「まあ、予想通りキャラバンはこいつらにやられてた。
護衛も何人かいたようだが全滅だ」
「やっぱり、あの魔王の仲間のせいでこの辺の魔物が活性化しているのは間違いないわ」
「なあ、そっちの嬢ちゃんはなにかしってること....って泣いてんのか?」
「えっ?...あれっ...?」
ローズに言われて気づいたが涙が出ている。
助かったことの安心からか涙が止まらない。
「うっ、ひぐっ、ううっ、」
涙が止まらない、気持ちが落ち着かずに泣き続けた。
結局この後三人に泣き止むまで慰めてもらった。
こうして、私の異世界に来てはじめての冒険は散々な事になって終わった。




