009 その名はカス
立ちはだかる人間の形のスカ(変な髪型)と背後にちょこんと座る俺達の方を見て、皇帝は目を真ん丸に見開いて、震え始めた。
「この威圧感は・・・いや、龍殺しはもう寿命だと聞くが・・・しかしこのオーラは間違いなく・・・手に持っている剣は、間違いなくあの時のエクスカリバー・・・しかし見た目が龍殺しとは全く違う・・・もしかしたら龍殺しを殺して奴の能力を・・・見た目は大きく違うが、龍殺しが生まれ変わった可能性も・・・いや、相手が龍殺しであろうがなかろうが、この威圧感は、我が帝国が束になっても敵わない・・・」
「ぐわふぁっふぁっふぁっふぁ、なかなかかかって来ぬな、周りの雑魚どもをよこしても無駄じゃぞ! お主が来ぬというのなら、こっちから行くぞ!!!!」
気の短いスカが、剣を構え、突進しようとしたまさにその時
「降参じゃああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
皇帝の声が、洞窟に響き渡ったのであった。
「何だとーーーーー!!!! 俺様の強さを瞬間で見抜いた眼力は認めてやるが、俺様のこの昂った気持ちはどうしてくれるーーーーーーーーーーー!!!!! 皇帝と名乗るくらいなら、せめて一戦交えてみようという気概もないのか!!!!!!!!!!!」
皇帝はガタガタと震えていたが、スカの洞窟を壊さんばかりに響き渡る大声に、逆に冷静になって首を傾げている。
(あれ? あの咆哮を浴びても思っていたよりも怖くない。。。何でだ? 未だに恐ろしいオーラで身の震えは収まらないのに・・・)
「ふんっ、俺様が強すぎるのが罪なのか、まあよい、とんだチキン野郎だが降伏を認めてやるか。」
その時、皇帝は立ちはだかるスカの足の間に見える小さいモフモフに初めて意識を向けた。 間違いない、このオーラはエクスカリバーを持つあの人間ではなくて後ろの小さい白い生き物が発しているものだ!!!!
皇帝は瞬間、椅子から立ち上がる素振りすら見せず残像すら残らないくらいの速さでスカに向って突進し、その身体を洞窟の壁に吹き飛ばし、叩きつけた。 普通の人間なら全身の骨が粉々に砕け散るくらいの衝撃であったが、もちろんスカなのでほぼ無傷だ。
「白く小さき偉大な方よ! このカスリン・メヘーラ・バジリスクを始め、バジリスク帝国の全ての兵士が貴方様に傅ずきます! 我が帝国の皇帝になってくれなどと小さい事は申しません、我が種族全てを駒のようにお使い下さい! 必ずや、お役に立ってみせます!」
皇帝はスカを吹き飛ばしてすぐにスカの立っていた位置に額突き、両手の爪を地面にそろえて置き、竜の宣誓のポーズを取りながら、そう言った。
「てめえ! 降参する振りして不意打ちとは!! そう来なくっちゃ、だな、嬉しいじゃねえかあ、望み通り、相手にしてやるから・・・・・・・・・・あれ?」
壁に叩きつけられたスカが嬉しそうな顔で起き上がりながらこちらに向って2歩歩いたところでシロの前で畏まる皇帝に気付いて足を止めた。
「ほう、シロ様の凄さを見抜いていたってワケか、そりゃ納得だ。 どうもあいつは俺様と近い強さを感じるからな。圧倒的な差があるとは思えねーからおかしいと思ったが、そういう事か。」
皇帝はスカの呟きは完全に無視して、俺の返答を待っている。 つーか、面倒くせー奴がまた増えちまったよ。 そういう運命なのかね。
「まず、カスリーンなんたらとか長くて面倒くさいから、お前は『カス』な。」
「え?????!!!!!!!!!!!」
スカよ、今、最近で一番いい笑顔を見せたのを俺は見逃さなかったぞ。
「んで、俺は基本的に一人で行動したいのだが、そこのアホな人間、正体は竜なんだが、こいつがしつこく付いてきて困っているくらいだ。 お前も兵隊も要らん。今まで通り、ここで帝国を育て、世界征服でも何でもやるがよい。」
スカ、一番悲しい顔をしたな。 コロコロ表情が変わって面白いぞ。
「我々の仕官を拒否なさると・・・・いや、これは我々に与えられた試練、いや使命!!!!」
こいつも泣きそうな顔になったり嬉しそうな顔になったり百面相仲間だな。
「勅命を拝命致しました! 我々はこの生命の全てをかけて、必ずや世界を征服してシロ様の元に献上させて頂きます!!! 名前もカス・メヘーラ・バジリスクに変えさせて頂きます!!!!」
「いや、別にカスリンなんたらのままでいいぞ。俺が面倒くさいからカスって呼ぶだけだから。」
「何と! 親しみを込めた愛称でしたか!!! 有難き幸せ!! いつの日か世界征服を成し遂げて、世界の皇帝になった貴方様とスカさんカスさんで諸国漫遊の旅に出てみたいものです!」
いや、俺はご老公様じゃないからな。 というかスカ、親しみを込めた愛称ってのはこいつが言っているだけだからな、そんなに目を輝かせるな。 こいつホモ?
「ちなみに、俺の名前はシロちゃんだ。 一応覚えておけ。」
その瞬間、俺と皇帝のやり取りを固唾を飲んで見守っていた周辺の大臣やら将軍やら参謀と思われる地竜達がずっこける音が聞こえた。 失礼な奴等だなあ。
「よし、戦いは出来なかったが、強い奴に会うという目的は果たせたから帰るぞ、スカ。」
「よっしゃあ、次の強い奴のところに行くんですね? シロ様」
なんか、俺が生まれ変わってから最初にやっている事って、ただの道場破りなんじゃね?って思えて来たぞ、今のスカの台詞で。 まあ、その通りか。 建前は生まれたてで世間を知らない子ぎつねの社会見学なんだけどなあ。
「まあ、他に特に目的もないからなあ、そうなるだろうな。 ところでスカ、帰りは広い通路だし戦闘もないだろうから竜の姿に戻って、こいつらに見せてやれ。 一応。」
「はいっ、分かりやした!!!!!!!」
言うが早いかスカは巨大な竜の姿に戻った。 大きさはそこの皇帝と同じくらいだから戦闘さえなければ通路を通る分には問題ないだろう。 しかし、スカはゴジラに羽が生えたような姿、皇帝たち地竜はカメみたいに平べったい姿、キティはヘビみたいに細長くて手足がある姿、竜ってのはいろんな見た目があるんだなあ。 きつねなんてどのきつねも外見は大して変わらんのに。
地上に出た俺達は、整列して最敬礼をしている兵達と皇帝カスが見守る中、空へ飛び立った。
次はスカみたいに山の上と出ているが、今度は単独峰か。 火山かな?