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最強もふもふ  作者: 木常
最凶軍団サクッと誕生編
1/16

001 その剣に飛び乗れ!

 この世界はいつからこんな風だったのか…


 相手を殺すと、その能力を全て奪える世界…


 殺した相手が魔核を持っていた場合に、その魔核に刻まれた能力が全て手に入る。


 普通の人間や動物は魔核を持っていないから、殺したところで相手の能力は奪えない。


 でも、もしそいつが魔物を殺していれば、その人間や動物は魔物から奪った魔核を持っているので、そいつを殺せば元々の魔物の能力も、その人間や動物の能力もまとめて自動的に手に入る。

 殺した相手を解体して取り出す必要はない。殺せば、魔核は勝手に死体から飛び出して殺した相手に入っていくのだ。


 そうやって、殺せば殺すほどたくさんの能力が濃縮され、強い魔核になっていく。それはまるで小さな湧き水が沢になり集まって小川となり、やがて悠久の大河へとなっていくように。


 殺し殺される事が必然となった世界、俺はその頂点に昇り詰めた。



 最初はただ死にたくないだけだった。 弱かった俺は死にたくないから必死に隠れていた。隠れて隠れて、逃げきれなくなった時には物陰から卑怯な不意打ちで魔物や人間を殺した。自分が生き残る為だけに。


 俺はただ運がよかっただけの存在だった。もし最初の頃に出会った相手が不意打ちを察知するスキルを持っていたら、返り討ちに出来るくらいに強い奴だったら、それだけで俺は10代の頃に死んでいただろう。たまたま最初の頃に手を掛けた相手が弱かったという運の良いだけの存在だった。


 だんだん強くなってくると存在がどうしても目立ってくる、その後も、ただ運だった。毒霧攻撃が得意な毒トカゲを仕留めたおかげで剣聖のスキルを持つ達人に勝つ事が出来たり、暗殺スキルを持つアサシンを何とか返り討ちに出来たり。もちろん、そいつらのスキルは全て俺の物になっていった。


 剣聖スキルを手に入れたあたりから俺は積極的にダンジョンを攻略してダンジョンコアを手に入れたり、名の通った武人を襲ったりと積極的な行動を取るようになった。その結果、俺の名は良くも悪くも天下に響き、更なる強者を呼び寄せる事となり、その全てを撃退してきた。


 ある時は俺を魔王だと決めつけた勇者一行に狙われた事もあったが、もちろん全て返り討ちにしてやった。あいつらの持っていた物理攻撃無効や神聖回復魔法などはその後本当に役に立ったもんだ。あれが無ければ当時の世界最強の存在、始祖竜を倒すことは出来なかっただろう。


 40歳半ばの頃に手に入れた老化防止(成長抑制)スキルも50歳くらいでLV999になり、そこからはほぼ全く年を取らなくなった。今は数えるのも面倒くさくなって忘れてしまったが、500年近く生きたはずだ。ここ100年くらいは見た目も80歳くらいまで年老いているので楽しみも少ない。もう生き飽きた。


 思えば考えつく限りの事はやってきたなあ。50歳の頃は帝国を作り、贅沢の限りを尽くした。とびっきり上等の女を集められるだけ集めた。それに飽きると幸せそうな夫婦やカップルの女を奪う事を楽しみ、最強の城や武器を作らせ、新しいスキルや魔法の研究をさせて、終いには魔法生物や魔物もたくさん作り出した。


 しかし俺の所に攻めて来れるような力を持った敵もいないから、せっかく城や武器を作っても誰も攻めて来ない、戦う価値のある強い者もいない、すぐに飽きた俺は放浪の暮らしを始め、弱そうに見せかけて実は最強なんてものを楽しんだ時代もあった。50年もしないうちに飽きたが。


 後は何をしたっけ?スキルコレクターになって、まだ持っていないスキルはどんなに価値が無さそうなものでも探して探して、見付けたら殺して奪い、あるいは新しいスキルを研究させては作り出した。でも最近は少数の部下任せでほとんど何もしてなかったなあ。


 そして一か月前に一人洞窟を出て、この極北の地にやってきて、大地に横たわって死を待っている。命の続く限り最上級の隠ぺいスキルと探知阻害スキルをかけてあるから、俺を見付けられる者はいないだろう。


 俺がここで自然に死ねば、この最強のスキルと能力を受け継ぐ者は居なくなる。500年に渡る能力とスキルの集大成が塵となって消えてしまうのだ、こんなに痛快な事はない。明確に殺した相手が分かる場合は体内の魔石は殺した相手に移る。しかし、病死などの場合、魔石が病原体に移る事もなく消えてしまう事は数々の実験で明らかになっている。

 部下の一人を蟻塚に蹴り倒して蟻に殺させた実験でも蟻に魔石が移る事はなかった。しかし一匹の毒毛虫に殺させた場合は毛虫に魔石が入っていったから、殺した者の大きさではなく数が関係しているのかもしれない。まあ、死にゆく俺にはどうでもいい事だが。


 しかしなかなか死ねない。


 もう一か月は飲み食いもせずに全てが凍り付く大地に横たわっているのだが、一向に死ぬ気配がない。世界最高レベルの忍耐力や退屈耐性などを持っていなかったら気が狂っていたかもしれんな。


 そんな時、新たな考えが浮かんできた。


 ああ、そうか、俺もバカだな、自然に死ぬのを待たなくても、自殺すればいいのか。結果は同じだしな。


 俺は腰につけてある世界一の剣『神降し』を抜こうとしたが、いつの間にか右手が凍傷で壊死していたらしい、氷点下なので腐ってはいなかったが、死んでいては剣も取れない。 これは気付かなかったな。 いつからなんだろう?


 仕方がないので、魔力を発動して、剣を鞘から引き抜く。 これは上手く出来た。 そのまま剣を心臓の上に持っていって、ゆっくり刺していく。


 この剣がもし後世誰かに発見されれば騒ぎになるかもしれない、誰にも発見されずに永久にこの氷の大地に刺さったままというのも面白いなあ、俺は一人で楽しくなって笑い声を上げようとしたが、肺がほとんど機能していないので笑い声も出なかった。


 ほぼ無敵の身体ではあるが、さすがに心臓が血液を循環させて生きている事には変わらない、心臓や脳を壊せば、間違いなく俺は死ぬ。 念のため自動治癒などのスキルは全て切ってある。 右腕が死んで氷になっているのが何よりの証拠だ。


 いよいよ剣を突き立てようとした時、俺の下で何かが動いた。 剣が抜けていく動きに怯えて出てきた様子だ。 ずっと切っていた気配探知のスキルを立ち上げてみた、まだ幼い子ギツネのようだ。


 ああ、そういえば、何日か前に、大きな熊にキツネが襲われてたっけ。あの時のキツネの子だな、きっと。 熊相手にキツネが逃げずに戦うなんて珍しいと思ったが、子を守る為だったのか。


 きっと子ギツネも母親を殺された後、この死体みたいに朽ちかけている俺の、僅かな体温を求めて身体の下に潜り込んでいたんだろう。


 あの熊が、そのまま俺を襲ってくれれば俺も悩む事なく簡単に死ねたんだが、目が合ったのがいけなかったな。 殺したキツネを咥えたまま脱兎のごとく逃げ出しやがった。普通に見ていただけなのに臆病者め。俺は一人笑ったつもりだったが、そこで気付いたが口の筋肉も動かないようだ。


 熊やキツネの事なんて どうでもいい事だから忘れていたが、こいつが最期のタイミングで現れたのも何かの縁だ、俺は面白い事を思いついた。 俺の適当な人生が、こんな適当な思い付きで幕を閉じるのは痛快至極だ。


 俺は子ギツネに念話を飛ばす。まだ子供だからなのか、混乱しているからなのか、怯えているからなのかは分からないが、上手く意思疎通が出来ない。 仕方がないので俺はただ命令した。 その間、剣はずっと俺の心臓から0.1mmのところまで刺さって止まったままだ。


 「この剣の上に飛び乗れ!!!!」


 俺は強い口調で命じた。 この小さい生き物がそこまで飛び上がる事が出来るかどうかなんて関係ない。 絶対にやり遂げる、出来なければ一族郎党殺される、そういう俺の全盛期の迫力で、ただ子ギツネの脳に直接言葉を叩きつけた。


 出来たかどうかは確かめようがない。 何故なら、俺の意識は次の瞬間に消えたから。




最強の男の本拠地だった城にて


部下A「お館様…最後までお供させて頂きたかった…伝言もなく書置きすら残さず…。」

部下B「お館様は自分の最期を悟っておられるのであろう。お主に50年ほど前にそう語ったというではないか。」

部下A「確かに、誰にも告げず誰も知らぬ場所で誰にもスキルを渡さずにひっそりと死ぬのも良い等と語っていた事はある。私と他数人の幹部しか聞いておらぬが。」

部下B「であれば、お館様の居場所を探すのは不可能じゃな。あのお方が本気で隠れようと思ったら、探し出せる者などおらんだろう。」

部下C「どうせお隠れになるなら私が最後の手助けをさせて頂いて、お館様のスキルを継承させて頂きたかったなあ。」


ザシュッ   ドスッ


瞬間、部下Cの左胸に大きな穴が穿たれ、首は胴体から離れ宙を舞った。


部下A「冗談だとしても、お館様を手に掛ける話など万死に値する」

部下B「お館様への全身全霊の忠誠の無き部下は幹部と言えども死あるのみ」

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