まさかの子作り直前に転生し、そのまま人間たちと戦うなんてね
魔王に転生したのは、何と、その、言いにくいけどセッ○スする直前だった。
「ぎゃー!」
「わー!」
しかも、相手は王妃に転生した海斗くん。
僕たちは、何とも最悪なタイミングで転生したらしい。
「てめー! 変態野郎! 陰キャキモオタの癖に何晒してんじゃー!」
「ごめんっ、ごめんなさいっ」
「つーか、神様とやらもなーんでこんなタイミングで転生させたー!」
「それは知らないよ!」
ひとまず僕たちは離れて、服を着た。
海斗くんは慣れない女性のドレスを着ないといけないから大変そう。
とりあえず前は隠す程度、それが余計にエロいというか、目のやり場に困る。
事前に神様から説明を受けたことと、この世界のファーストコンタクトがこんな感じだったので、わりとすんなりというか、混乱は少なかった。
「それで?」
海斗くんが言う。
「俺達は何すりゃ良いんだよ?」
「さっ、さあ?」
「さあじゃねーよ、お前考えろよ」
「わっ、わかったから枕投げないで!」
「ったく」
「た、多分だけど、人間と良い感じに戦えば良いんじゃないかな? 神様そんなこと言ってたと思う」
「抗争ってことか?」
「か、かな?」
ヤンキーらしい単語に、僕は恐る恐る頷く。
人間と戦う。
いまいち実感がない。
海斗くんは、面倒ごとは僕に丸投げするつもりなのか、部屋の中を興味津々で眺め始めた。
「一応、僕は魔王だからラスボスってことだよね、設定知らないから分からないけど、普通に僕だけでそれなりの人たちは倒せるのかな」
「へー、けっこう広いし、豪華だな。ラブホみてーだ」
「らぶっ!?」
「おっ、反応したな童貞」
「ううっ」
「ははははっ、まあ魔王なんだろお前、女くらい取っ替え引っ替え出来るんだ。良かったじゃねーか」
「いやいやいや」
そりゃーハーレムみたいで良いけど、それは僕にはハードル高いな。エロ漫画みたいなことやれるのかって考えると、やぶさかじゃないけどさ。
一通り笑った後、海斗くんが怪訝な顔をした。
「つーか元々の二人って何しようとしてたんだろうな?」
「魔王と王妃さま?」
「ああ」
「そりゃあ、もちろ」
その時、扉がドンドンドンと叩く音が。
僕らはビクッと驚く。
「魔王陛下っ、王妃さまっ、子作り中失礼いたしますっ」
子作り言うな! 後で知ったことだけど、元々の魔王と王妃には世継ぎがいなくて、そのせいで不仲だったらしい。
「大変にございますっ、人間共が攻めてきました!」
「うえっ!?」
「ほー、けっこう展開早いな」
「そんなこと言ってる場合!?」
「魔王なら楽ショーだろ?」
他人事みたいな海斗くん。
まあ、どうにしないといけないのは、僕なのだろう。
とほほ。
「大臣や、九大天全員揃っております!」
「何だよゲームみてーじゃん」
「そ、そうだね」
「ははははっ、人前に出るのそんなに恐いのかよ?」
「そりゃあ、引きこもりニート陰キャオタクだから」
「へっ、それなら俺もついてってやるよ」
「ほんと!?」
「ああ、まあ笑いに行くだけだがな」
「意地悪だなー」
僕はヤンキーに逆らえるハズもなく、渋々外に出た。
配下の悪魔さんの姿にビビりながら、廊下の隅で頭を下げるメイドダークエルフとか、サキュバスは目の保養にはなったけど、レイヤー臭が強い感じがする。
案内されたのは、もちろん玉座。
僕はオドオドしながら座り、その隣に用意されていた豪華な椅子に、海斗くんこと王妃が座る。
中央の大きな四角形の机、その左側に大臣達が。もちろん悪魔だとかダークエルフとか、様々な種族の魔物の方々。
そして、左側には九大天という、神様からも説明を受けた、最強軍団だって。
「ゲルドラードの覇王、ここに。魔王しゃま、本日も雄々しいお姿、私感激です」
序列一位"ゲルドラードの覇王"。
青いショートカットの、ロリっ子。頭に角を生やした、超可愛い美少女。
「ほっほっ、魔王さま賢王でございます。策なら出来ております」
序列二位"賢王"サルトナ。
白い髭を生やしたお爺さん。でも、瞳は真っ黒でおっかない。
「武王、ここに」
序列三位"武王"ガルンド。
巨漢で、一本の大きな角が頭に生えて、肌は赤色。鬼みたいだ。
「炎王でございます魔王さま。いやー、本日もお暑うございますなぁ」
序列四位"炎王"ヅォートラルンガ
炎のそのもの。だけど、良く見ると人の顔みたいなものが。
「魔王さま、腐蝕王ここに。今日もウサギと戯れようとしたら、溶けてしまいました。悲しいです」
序列五位"腐蝕王"座癌。
包帯でぐるぐる巻きにされた体で、実態はわからないけど、声がやたら可愛い。
「魔王さま、風はここですよー。いやー、凄く暴れたいですね!」
序列六位"風のレク"。
軽薄そうな感じの背中に羽の生えた男の人。
「サナーラ、参上しました」
序列七位"人馬のサナーラ"。
鎧を着た女騎士風の、金髪碧眼の巨乳のお姉さんだけど、下半身は馬。
「血が、血が、欲しいぃぃぃぃ!」
序列八位"血のガガーランド"。
オークみたいな巨漢で、武王の人より大きい。マジで恐い。
「氷のカドレです。魔王さま。研究したいので早く終わらせたいです」
序列九位"氷のカドレ"。
魔女っぽいとんがり帽子を被ったダークエルフ。オッパイが大きい。
一癖も二癖もあるような方々。えー、魔王より強そうじゃない?
大臣で一番偉い人が、状況の説明。
どうやら人間が魔王討伐軍を結成して進軍中らしい。
しかし、こっちは後手になってたのでその対応をどうするか、激論の最中らしい。
さらに、大臣側と九大天側で意見がまっぷたつになってる。
大臣側は講和。
九大天側は徹底抗戦。
どっちにするかの採決を、魔王である僕に求めているらしい。
視線が僕に集まる
僕はすっかり緊張して、どうすべきか、何て言えば良いか分からなくなっていた。
どーしたものか、僕にはわからない。
海斗くんにはわかるようだ。
「こいつが一人でボコりに行くから、オメーらは軍団整えとけ」
全員、ポカンとした。
もちろん僕も。
例え事実は違っても、一応表向きには僕らは夫婦。
その夫に、超危険な状況に追い込ませるとかなんなのだろうか。
真っ先に声をあげたのは、ゲルドラードの覇王。
「それは妙案でしゅっ、魔王さまが直々に動いてくだされば、軍団の士気も高まりましゅ!」
「魔王さまならむしろ撃退するでしょうな、その間に十分兵站の用意は完了するでしょう。そうして人間の領土に攻め入れると」
ゲルドラードの覇王と賢王サルトナが同意した。
すると、他の九大天の人々、大臣達も同意し、そのまま決まってしまった。
あれ、僕の意見は?
僕魔王なんだけど?
「よっしゃ、手早く蹴散らしてこい!」
海斗くんが歯を出して無邪気に笑った。
美人顔でされると、童貞はコロッて言うことを聞いちゃうんだ。
というか、僕がやられちゃうって発想はないんだろうか?
そのことを考えたのは、魔法で人間の軍団のところにワープする直前だった。
最初からハチャメチャだったなー、思い出すだけで笑っちゃうよ。
そういえば次回もハチャメチャだったね、まー初めて魔法使うし、初めてってそんなもんだよな。