プロローグ 子作りをしなければならないけど、その気はない!
わりとほのぼの&ギャグ寄りの作品です
「綺麗だよ、愛してる海斗くん」
「マジやめろ殺すぞコラ!」
「痛いっ、目は痛いっ、そこは殴らないで!」
「どーせまた大臣のジジイ共だろ!」
「いや、今回はメイドのダークエルフさん達が」
「アイツ等か~~」
海斗くんが腕を組んで、歯ぎしりする。
彼、今は彼女、うわぁ面倒。もう彼でいいや。
見た目は褐色の肌、背中にコウモリみたいな羽の生えた黒髪ロング。細身だけど巨乳(推定Jカップ)で巨尻(推定90cm)の超エロい美女。
例えるとサンキュバス系、うん、シコネタに使える。けど、中身はヤンキーの海斗くん。
僕は長身で筋骨粒々の、頭に角を生やした姿。だけど、中身はただの陰キャオタクの引きこもり。威厳なんて何もない。
肩を落として溜め息。
「仕方ないよ、僕達は次の魔王になる世継ぎを作らないといけないわけで」
「けっ、男とパコるなんて出来ねぇよ、俺はゲイじゃねえからな。その点、お前はいいよな、魔王なんだからな!」
「海斗くんは王妃様って、やっぱり変だよね」
「逆ならまだ良かった」
「え?」
そ、それはちょっと。
失言に気付いた海斗くんは、僕の引いてる顔にパンチをする。
けど、ペチって音と少し痛い程度のダメージ。
元の世界ならそれこそ一発でKOだ。
海斗くんは顔をしかめて殴った手を見る。
「マジで硬てぇ、何なんだよホント」
「だっ、大丈夫?」
「勘違いすんな、この程度平気だよ。オメーは外野を黙らせる作戦考えとけ、その方が上手くいくんだからな」
「・・・・ツンデレ?」
「ああっ!?」
「ごめんなさいっごめんなさいっごめんなさいっ」
またポカポカ殴られる。でも、痛くない。
僕達がいるのは、元々いた世界とな異なる別の世界。
神様の手違いが重なって、何と人類の敵と呼ばれる魔王と、その妻にそれぞれ転生してしまったんだ。
よりによってそっち!?
って思ったけど、神様いわく人間が団結する為の必要悪なんだって。だから神様がこっそり管理しているらしい。
それでなんだけど、僕達がこっちに来るには、元の世界で死なないといけないんだけど、死因はその。
海斗くんが殴る手を止めて、叫ぶ。
「あーっ、それもこれも、あの時バナナの皮に滑って死んだからだー!」
・・・・はい、その通り。
僕と海斗くんは、二人揃ってバナナの皮で滑って死にました。
「向こうの世界に蘇れるって神様も言ってくれたけど、死因がそれじゃ無理だよね」
「あったりめーだっ、俺達お笑い芸人じゃねーからな!」
「そしたらこの世界で頑張るしかないよ」
「だからってそれがパコるって終わってるわー!」
海斗くんの怒声が響いた。
寝室の外の扉。
メイドのダークエルフ達が聞き耳を立てている。
「あーもうっ、何言ってるのか全然わからないのですわっ。時々変な言葉使うよねあのお二人」
「古代語で愛を伝えているのかもな」
「きゃーっ、それって凄くロマンチックね! サメリすっごーく聞きたーい!」
「しかし、今夜もお世継ぎを作ろうとしていないな。玉の輿も本当に狙えるかもなゾンファ」
「フフン、その点は抜かりないですわよ。そういうゴースンこそどうなのかしら?」
「さあ、な」
「またまた隠しちゃって、サメリはね~、魔王様と一夜を共にしたから~、もうほとんど側室よね~」
「ただ酒の飲み過ぎて魔王の寝具で寝てただけだろ」
「そうですわっ、戯言はおっしゃらないように!」
「それはテメーらだ!」
ドタンッ。
と、扉が勢いよく開いて、海斗くんが廊下で転がっている三人に言った。
「魔王様との楽しい一時を邪魔しようとは、これはよほどキツーイお仕置きをしてあげるべきかしら!?」
一応、王妃らしい言葉遣いで脅迫。
三人はガタガタ震えて、
「ごめんなさーい!」
と、逃げてしまう。
それを海斗くんは、ドレスのスカートを持ち上げて追いかける。
「あはは」
僕は面白くて笑っていると、僕の影から一人、幼い女の子が膝をついて現れた。
「魔王陛下。出すぎたこことは思いまするが、大事になる前に私がお止めしましょうか?」
散切りボブの金髪をすっぽり隠す黒い頭巾を被り、丈の大きいローブを着ている。
隠密兼護衛のみはく。鬼一族で、立派な角があるんだけど、本人は恥ずかしいのか魔法で隠してる。通称みっちゃん。
「ああ、お願いするよみっちゃん」
「はっ、ありがたき幸せにござるっ」
「ははは、そんなに畏まらないで。戻ったら皆でお菓子でも食べようか、みっちゃんの好物焼き栗にしようね」
「それは大変良きでござるっ! はっ、失礼いたしましたでござるっ! かっ、かくなる上はっ」
「ダメダメダメ、また前みたいに切腹されちゃ困るからね。優秀な護衛がいてこそ、僕は安心してられるから」
僕の言葉にみっちゃんは感極まったように、魔王陛下~って泣く。
いやー、最初に会ったときとかなり変わったよな~。かなり忙しい子になっちゃったよ。
「じゃあみっちゃん、よろしく頼むね」
「承知っ!」
みっちゃんは僕の影に隠れて消えた。
いつも思うけど、影の向こうってどうなってるんだろう。
気になる。
気になるけど、思い出した。
「そういえば今日って勇者が攻めてくる日だよね。面倒臭いな、弱いくせにでしゃばるんだから」
僕は部屋を出る。
魔法を使って勇者の元にワープ。
みっちゃんに言った約束を守らないと。
皆でお菓子を食べる。
その為に僕は勇者を倒しに向かった。
この物語、と言っても日々の出来事を綴った日記のようなものだ。
楽しく、明るく、平和に。
そんな魔王ライフを送れるようになるまで、つまり転生したての頃は、それなりに大変だったんだ。
次回はそこから始めよう。
最後まで読んでいただきありがとうございました‼けっこう楽しく読めたと思います。応援していただけると励みになります。よろしくお願いします!