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月曜に初めて月曜に始まる  作者: 荻戸 凌丞
第二章 部活動中に頭に死球(物理)を受ける男
15/25

第15話 土下座

創部期限を明日に控えた水曜日の朝。

今日明日、いや、実質あと一日で部員を一人入れなければ創部は成らない…やべぇ、無理じゃね?

若干諦めかけている俺の目の前にはのんきにアイスを食う女神が。


「…おまえなぁ…今日やることわかってるよなぁ?」


「わかってますよ!!秋田先輩とおしゃべりすればいいんですよね?」


「そうなんだけどさ、目的わかってる?」


「大丈夫ですって。だけど意外ですね。京一さんがこんなこと考えるなんて」


「まあ確かに意外かもなぁ。俺あんまり人に頭下げないし」


「いやそれは全く驚きはないんですけど」


「…あっそ。まあ放課後頼んだぞ」


「わっかりました!!」


決行は今日の放課後。場所は、第一グラウンド。




「で、話って何?うちらあんたなんか知らないんだけど」


「いや、あはは」


「てゆーかこいつ、昨日うちら覗いて奴じゃね?」


おおぅ、バレテーラ。

というかもう既に圧がすごい。なんでギャルっていうのはこうもオラオラ来るんだ?年上と3対1ってだけで怖いシチュエ⊸ションなのに、部室の裏というロケーションのせいでもっと怖い。思わず高2のころを思い出しちゃうぜ。今高1だけど。


「あの、そのですね、あ、尚江ありがとな」


尚江はうむ、とうなずいて戻る。

俺が尚江に呼んでもらったのは秋田先輩ではなく陸上部のリーダー格三人組だ。


なお女神には秋田先輩を引き離してもらっている。

まあ上手いことやるだろう。


「あのねぇ、うちら部活に出てんだよ?その時間どうしてくれるわけ?返せんのあんたに?」


たいして練習もせずに駄弁ってるくせに…」ボソッ


「ああんっ!!なんつった!?調子乗んなよ!?ガキが!?聞こえてんだよ!?」


「す、すいません…」

いや怖い怖い怖い。秋田先輩といい、陸部女子はなんでこうも怖いんだ。どんだけ威圧が必要な競技なんだよ。

くそ、ビビって謝ってしまった。余計なことは口に出さんとこ。


「あの、秋田先輩についてなんですけど」


「ん?あいつのこと?ああそういえば聞いたよ。秋田を新しい部活に誘った後輩がいたって。もしかしてあんた?」


「え、ええま、はい。」


「あいつ断ったんだってね。それ聞いたときはまじで切れそうだったよ。なんでまだうちらの部に残んだよ!ってね。けど残って正解だったよ。ねぇ。」

「そうそう」

「ウケルよね!」


俺としゃべっている、三人の中でも化粧のどぎついギャルが二人に同意を求める。

こいつがトップか…


「あの、それは何で…」


「だってさ、うちらの誘いを断ってまで馬鹿みたいに練習してたやつがその練習のせいでもう走れないんだよ?これが【ウケ】ないで何がウケルっていうのよ」

「そもそもそんなに才能ないからそんなになるまで練習しなきゃならなかったんだよ」

「ウケルよね!」



言うなぁこの人たち。

まあ言わんとすることはわかる。必死に頑張ってる人ってのはなんとなく滑稽に見える時がある。そして人はその人が成功した時、失敗した時、どちらにしても悪感情を向ける。なんであいつが、ずるをした、ほら失敗した、言ったとおりだ、などと。

わかる、わかってしまう。俺だって今その感情がゼロか聞かれたらゼロじゃない。

クラスのイケメンリア充が体育祭でこけた時はぶっちゃけ心のなかでにんまりしてる。

だけど、だけど、


「それを表に出すのは違うんじゃないですか」


「あ?」


「別にあんたらが秋田先輩をどう思うか自由だし仲良くしないのも自由だよ。だけどさ、実際に表だして秋田先輩に石を投げるのはダメっすよね?」


心底怖い。震えるのを我慢する。どうしたって攻撃性の強い人を相手にするのは嫌だ。

論理が通る通らないでなく、ムカつくかムカつかないかで俺を判断してくるからだ。

それにどんな報復が待っているかもわからない。

だが今は言うしかない。


「なに?うちらが何かしてるように見えた?」


ああ。傍から見ればわかりにくいけど注視すればよくわかる。

秋田先輩が持ってきたドリンクを無視したり、受け取った思えば汚がってみたり。

多分だけどすれ違いざまに悪態ついたり。やることが小学生レベルだ。

しかも


「ほかの部員の人も巻き込もうとしてましたよね?傍観してるのに留まってた人まであんたたちと同じところに落とそうとした。」


「へぇ…よく見てんじゃん。そりゃそうだよ。けどこれは親切だよ?ほかの人たちにも味わってほしいんだよ。自分を見下していたやつを見下すっていう快感をさぁ」


「見下す?」


「そうだよ。あんたは知らないと思うけどね。あいつはうちらを見下してたんだよ?自分は才能のないお前らとは違うってね!」


「それ、本人に聞いたんすか?」


「あいつはうちに…いや、いいよ。そういうのは雰囲気でわかるもんだろ?現にあんたもうちらに何かを感じてこうやってきたんだから。」


俺の場合実際に見たから来たんだけど…

とりあえず聞きたいことは聞けたし確信も持てた。

ここからは俺のターン

この場には俺含め4人しかいない。

向こうも意見は出し尽くしたみたいだしこっちの番だ。

ようやく、俺も本気が出せる。


「先輩たち…」


「なに?暴力に訴える?そんな事したらうちの彼氏がだま


ザッ!!


「お願いします。部をやめるか。秋田先輩に普通に接してください」


俺は地べたに膝をつき頭を下げる。

日本古来の謝罪パフォーマンス。DOGETHE。その威力は絶大であり、相手は思わず【お、おう】となる。どんな感情でも沈められる俺の最強必殺技。

人によってはパフォーマンスどころでない屈辱かもしれないが俺は違う。

目的のためならば頭を下げられる男。うわ、俺男の中の男だよ


「あ、あんた、マジか…」


思った以上に引いてるな。もしかして初めて見るのか?土下座。

ふん、人生経験の浅いやつめ。

引いている、すなわち俺にビビっている。そう解釈しとこう。今のうちに畳みかける。


「秋田先輩は今まで自分の実力だけで居場所を勝ち取ってた。

そしてその場所が不慮の事故で無くなって、もともと辞めようとしてたんです。だけど、思い留まって、マネージャーとして頑張ろうとしているんです」


「だから?それがなんだよ!」


「あんた達が先輩を嫌いなのはよくわかりました。別に助けろなんて言いません。仲良くしろとも言いません。ただ、ただ放っておいてやってください。お願いします!!」


そうすれば、マネージャーに徹している先輩をよく思う人も増えるだろう。

その人たちこそ、秋田先輩に、【価値】を見出してくれている人たちだ。


…本当は秋田先輩をうちの部に入れたかったが仕方ない。他のやつを死ぬ気で探すか…

嫌だなぁ。見つかるかなぁ、あと1日で。


「あ、あんたなんでそこまで秋田のことを…」


あの人の人生観は今の俺と全く違った。

俺は、俺が良ければそれでいいしその判断基準も俺自身だ。

だけど。先輩は違う。その基準はあくまでも他者の目。

俺からすれば大変だなとも思う。

だけど、10数年生きてきた中で形成されたのがその人の生き方であり俺にそれを否定する権利はない。

だけど、それでも、自分の信じてきたものが壊れた絶望だけは誰でも辛いし、それを味わった先輩の力にはなりたいと思った。

「なんとなく気持ちがわかったんです。秋田先輩の」


「は、はぁ?キモ…」

「ストーカーなんじゃない?昨日も見に来てたし」

「う、ウケる…」


あれ?土下座からのいい言葉できれいに締まるかと思ったんだけど、なんか俺にヘイト向いてきてない?それは勘弁してほしいんだけど。

あと二人目のガングロ!俺はストーカーじゃない!?ただ秋田先輩のことが知りたくていろいろ探ってたんだ!ん?これストーカーか?え、俺やばいの?


「あ、あたしらは、やられたをやり返してるだけだから!だからあたしたちは悪くない!!」


どんな方程式がこの人たちの中に構築されているかはわからない。しかし相手が自分の理論をぶつけてくるなら俺も俺の理論をぶつけるだけ、何だが…思ったより意固地だな。

なんにもしないっていう口約束でも結べれば御の字だと思ったけどそれすら無理か。これは土下座を超えるあれを繰り出すしかないのか?嫌でもさすがに躊躇す


「もうやめて」


「え?」


声に反応し首を上げる。

そこにはジャージ姿の秋田先輩。そして横には尚江が。


「もう、立ってってば」


「は、はい。」


言われるがままに立つ。

あれおかしいな?おれは女神に近づかせないでほしいって頼んだんだけど


「あたし、陸上部辞める」


はぁ?なんで?!もしかして今の会話全部聞かれてた?

いやまあ確かに自分をいじめてくる宣言をしてくるやつのいる部活なんて嫌だろうけど。

あんだけ価値が価値が、って言ってたじゃん!!


「あんたらもそれを望んでたんでしょ?」


「はあ?」


「知ってるのよ。あんたが一年のころはまじめに練習してたってことくらい。一緒の部活だったんだし」


「はぁ?!」


ん?なんのことなんだ?


「別に興味はなかったけど、それでも練習は一緒にやってたんだからそれでもわかる。」


「あ、あんたうちのことなんか全然眼中になかったじゃん!!あんたはうちを見てなかったじゃん!!」


「そんなことないわよ」


「いいや!!うちが必死にあんたと競って!少しずつ実力が縮まっていったのに、それでもあんたはうちを相手にしなかったじゃん!!」


「競ってた覚えはないし、正直あんたに負けるとは思ったこともないわ」


「ッツ!!」


こ、この人も言うなぁー。ある程度やられてもおかしくないのかも。

げ、もしかして俺この人がいい人だって勘違いしてたのか?


「けど、それでも、必死に練習するあなたを見てあたしはもっと練習しなきゃって思ってた。だってそうしないと、あたしには価値がなくなっちゃうから。」


「い、意味が分かんないんだよ!!あんたのせいでうちは!!うちは!!」


「うん。だからあたしはやめるのよ。この部であたしを必要とする人はもういない」


「ふ、ふざけんじゃないよ!!まだ足りない!うちがあんたに味わされた屈辱はまだ!!」


「悪いわね。あたしには、あたしを必要とする人が二人もいるのよ」


そう言ってこちらを向く秋田先輩。

俺と目を合わせ、少しだけ、ほんの少しだけ口角が上がる。

4月26日水曜日、俺を置いて、先輩の陸上部退部が決まった。








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