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月曜に初めて月曜に始まる  作者: 荻戸 凌丞
第二章 部活動中に頭に死球(物理)を受ける男
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第14話 価値

「別に変な感じには見えませんけど」


「お前は人間と接してまだ一か月だろ?悪意にさらされたこともないだろうし、悪人も見たことないだろ?だからだよ」


あの目、喋り方、態度。完全に異物を排除するときの人間の目だ。


「やけに物知り顔ですね」


「まあクラスメイトからあんな目で見られれば敏感になるんだよ」


「ああ、あの時の…ビンタ×土下座の」


「いや待て。だから俺にはそんな記憶はない。未遂だ。」


「はぁ…仮にあの人たちがそんな目をしていたとして、どうしてそんな目を?」


「それは簡単だ。あの部員数。試合に選ばれない人たちもいるだろう。で、これは聞いた話なんだけど元々秋田先輩は陸上部の中では浮いてたらしい。ストイックすぎてほかの部員とは合わないんだと…あとは簡単に想像できる。元々部から浮いていたエース。そのエースがケガして、もう走れない。そしたらある人間はこう思う。【ウケル】ってな。」



「ある人間って?」


「もともと秋田先輩を良く思ってない人たちだよ。人間、嫌いな奴が失敗すると心底喜ぶからなぁ」


「ああ、なるほど。あなたが二葉ちゃんに無視されたときに私が思う感情は【ウケル】だったんですね」


「その話自体掘り起こしたくないんで突っ込まない。あと人に嫌われるのが大嫌いな俺でも、お前に嫌われるくらいなら大して傷つかない。」


「ちょっとは傷つくんですね…」


「うん」


「素直…ですね」


ちょっと古傷が痛んじまった。もう一年以上たつのにまだ痛い。なんなんだこの傷、消費期限長すぎだろ。鮮度抜群ってか?


「で、どうするんですか?なんか助けに入ればうちの部員になってくれるんじゃないですか?」


そりゃ可能性はある。そもそも俺が余計なことしなければうちに入ってたんだし。


あとは部活が終わったあたりでこいつを勧誘に行かせればいい。今の陸上部には先輩が奉仕するほどの価値はないですって言えばいける気はする。こいつコミュ力高いみたいだし。


有ること無いこと言って人ひとりを集団からはがすのは簡単だ。所詮は高校生。自分の行動にいちいち責任なんてとらないし、そっちの方が健全だ。むしろ何でもかんでも自分の責任にするほうが社会に出てやっていけない。


成功は自分のおかげ。失敗は人のせい。人生なんて自分本位でなんぼだ。一回死んだ俺はそう思う。


先輩は今どんな思いでマネージャーをしているんだろう。

トップクラスの実力の者がその価値を失ったときの絶望なんて俺は知らない。知らないんだけど、実力があると思っていて実際はそんなことなかった絶望ならわかる。

似たようなもんだよ…な?

うん、そう思っとこう。


「全然違うと思いますけど」


俺がそう思っとけば俺の中で真実なの!


「女神、今日は先帰っていいぞ」


「いわれなくてもですよ」

そこは言われて帰れ



部活が終わってグラウンドには秋田先輩だけが残る。

おそらく片づけを押し付けられたのだろう。

散らばったコーンを拾い、俺は先輩に持っていく。


「お疲れ様さまっす」


「あんたは…また勧誘?あたしはマネージャーになるって決めたんだから邪魔しないでよね」


俺を一瞥しまたコーンを拾い上げる先輩。


おお怖い。年上の圧力には性別なんて関係ないな。完全に目の敵にされてる。

俺は顔を引きつりながら必死の愛想笑いを浮かべる。


「いやぁ、はは、邪魔だなんて…ただ、聞きたいことがあって」


「…」


無視して片づけをする先輩。

まあいい、続けよう。


「なんで、この部に残るんすか?」


ピクッ


お、反応したぞ


「その、今の陸上部って先輩にとって居心地悪いんじゃないかと思うんすけど…」


「…」


自分の立場が悪い状況で、なおかつそこから脱することにも大義名分が有るなら、俺はすぐに脱する。事実、あの出来事以降そうしてきた。

それを逃げている、そんなんじゃ成長しない、と言われたこともある。だがそんなのはあくまでも他人の無責任な意見だ。

別に成長するために生きているわけではない。生きるための手段の一つとして成長するのだ。

究極目的は楽しく生きることであって、そこだけは見失ってはいけない。

そう思って俺は高2から生きてきた。


だからこそ、部員から疎まれ辞める理由があるにも拘わらず辞めない、秋田先輩が

俺には理解できなかった。


「なんで、辞めないんですか?」


「…はぁ。それをあんたが言う?」


「え?」


「…あたしは!もともと辞めるつもりだったのよ!!それをあんたが…!」


先輩はキッと俺をにらむ。今日初めて先輩と目が合う。その目の奥からは憤怒の色が伺える。

部活勧誘のことだろうな。確かにやめる前に勧誘した俺もあれだった、が、辞めるって意思を覆すほど重大な出来事だったか?


「あ、あの時は」


「多分あたしがケガして、復帰も無理って聞いたから来たんでしょ?

どうせ走れないなら陸上部にいても仕方ないって思ったんでしょ?

そう、あたしもそう思ってた。確かに走れないあたしは陸上部にとってもいらない存在。

だけど!!それを!下級生のあんたが思ってると思ったら悔しくて!!悔しくて…」


勢いのあった口頭から一転、言葉が進むごとにしぼんでいく声。

徐々に先輩の首が下がっていく。

俺は前のループありきで動いていたから、先輩の言ったことは考えてなかった。

彼女の中の俺は、先輩が自分自身に思っていたことなのだろう。

だからこそ今、本物の俺が見れないのかもしれない。


「あたしの一年間はそんなものだったの?そんなに価値のなかったものなの?

もう陸上部はあたしに価値を見出さないの?そんなことない。あたしはまだ陸上部に貢献できる。まだあたしには価値がある…はず…なのよ」


完全に俯いて喋る先輩。

なんか、えらく人生観が歪んでるな。人のこと言えんけど。


「別に価値なんて誰も気にしちゃいませんよ。」


「あんたにはわからないわよ。部活を作る友達がいる、あんたには。

あたしには何もない。友達も、仲間も。唯一あったこの足も使い物にならなくなったわ。だから…」


あぁ、確かにこの人女子たちとつるむの下手そうだもんなぁ…

まともな嘘がつけなさそう。周りに合わせるのも苦手そうだし。

だが、今の言葉には訂正がある。まず、


「俺には友達なんかいませんよ。それに…」


友達なら俺がなりますよ。

モテるやつ、例えば東ならそういうのだろう。間違いなく。なんの恥ずかしげもなく。

だがそんなイケメンメンタル俺は持ってない。

クサすぎるし…、恥ずかしいわ。

そもそも俺は女子を友達認定でき、しない男。だからこのセリフはお蔵入り、と。


「それに?」


「いや、何でもないっす」


俺まで下を向いてしまう。


「あっそ、じゃあもう帰って!話すことなんてもうないんだから」


下を向いたまま叫ぶ先輩。叫んでいるはずなのに、どこか弱弱しい。


「はいはい、わかりましたよ」


持っていたコーンを倉庫に仕舞い、カバンをとる。

先輩との距離を縮めようと思ってもいたがどうなんだ?遠くなったとか?

いや、これは元々遠かったのに俺が知らなかったパターンなのか?

うへぇ、一歩進んで二歩下がっちゃったよ…






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