幼なじみと罵り合いをしたら何故か付き合うことになった件
……最悪だ。気分が悪い。
いつの間にか家に帰り、制服のままベッドに寝転がっていた。
僕のような陰キャにも幼馴染がいる。美人で明るく社交的。頭が良いだけでなく運動神経も抜群でクラスの中心、うちの高校のアイドルと言っていい。すらっとした高身長でスレンダーな体型である。本人は胸の大きさをコンプレックスに思っているようだが、なにも欠点たり得ない。
こんな素晴らしい幼馴染に好きな人がいるらしい。なにも不思議なことはないが割とショックは大きかったようだ。また回想させてもらおう。何度でも思い返せる気がする。
僕はいつも登下校を幼馴染と共にしている。今日は日直にあたってしまったので少し遅くなったが彼女の待つ教室へ向かった。
しかし、逃げるように帰ることになってしまった、一人で。
教室の中に人がたくさんいた? そんなのいつものことだ。彼女のもとには人が集まる。
教室の中にいたのが彼女を含め女子4人でキャピキャピしていたからか? いや、そんな場合もままあることだ。かなり気後れするものの、僕が足を止めることはなかった。
では何が問題か? それは、4人のしていた話の内容だ。そうコイバナである。
今日は女子だけか、と考えながら教室のドアを開けようとした時、彼女の声が耳に飛び込んできた。
「私の好きな人は~」
思わず動きを止めてしまう。彼女たちは気が付いていないようで、話は続いてゆく。
「あんまり目立たないけどかっこよくて~最高にクールなんだけど、たまに見せるしぐさが可愛かったりするの。しかも、なんだかんだ優しくてね~……」
「誰だよそれ~」「本当にそんな奴いるの~」「まさか~」
そんな奴がいるのか。信じたくないけれど、僕も幼馴染歴が長いので彼女が嘘をついていないのは分かる。しかも、多少照れつつ楽しそうにしゃべっているので、本気で好きなのが分かってしまった。
僕にとどめをさす言葉が笑い声の中から聞こえた。
「告白?向こうからしてきてほしい!……けど、出来るかなぁ。」
あぁそうか。自分のことを顧みると良くわかる。なんだ、僕は邪魔者じゃないか。登下校に始まり、昼食を一緒にとったり遊びにも連れて行ってもらう。彼女は人気があり友達が多いにもかかわらず、人づきあいが苦手でうまくしゃべれない僕のことも幼馴染だからと誘ってくれる。
そのことに甘え、ほぼ毎日一緒にいる。でもこれでは彼女の想い人も告白しにくいだろう。そろそろ一人でもうまく生きていけるようにならなければ。彼女から離れればきっとすべてがうまくいく。彼女の想い人が分かったら手助けしてやろう。
踵を返し早歩きで立ち去る。この時考えられたのは、自分が邪魔になっているということだけだった。
あぁそうだ。……でも、どうしてこんなに涙が出るのだろう。
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そんなこんなでベッドに横になっていると、急に部屋の外がどたどたと騒がしくなり、バンッという大きな音と共にドアが開いた。
ゆっくりそちらに顔を向けると彼女が仁王立ちしていた。かなりイライラしていらっしゃる。
「どうして何も言わずに一人で帰ってきてるのよ。ずっと待ってたんだからね!」
「うん、そうだね。ごめん。」
動く気が起きなかったので転がったまま答える。すると、彼女は膝をつくと手を僕の額に置いて心配そうな顔をする。
「なに?具合でも悪いの?熱はないみたいだけど。」
これは、色々やばいと思ったので手をよけてベッドの上で胡坐をかく。
「いや、体調に問題はないよ。そんなに心配しなくて平気だよ。」
少し不思議な顔をした後、すくっと立つとスマホをいじり始めた。
「そう、それならいいんだけど、でも制服しわになるわよ。後ねぇ、わたしずっと連絡取ろうとしてたのよ。それを何も返さないで、大丈夫ならそれぐらいしなさいよ、……ってあれ?通知が……ない?」
ここでポケットからもスマホを取り出すと、そちらもいじりだした。
ん?2台持ちなんてしてたかな。あの黒いほうは……
「あー!それ僕のスマホじゃん。なんで勝手にいじってるの!」
「そんなことはどうでもいいでしょ。」
彼女はこちらをぎろりと睨む。勢い良く立ち上がったものの、ネコに睨まれたネズミのような気分になり委縮してしまう。
「電話は着信拒否、SNSはブロック。一体全体どういうつもり。」
「う、あー」
いきなり詰め寄られ頭が真っ白になり、口から意味のない言葉が出る。いつものように謝って終わらせようかとも思ったが、頭の隅で今日が最後とよぎる。大きく深呼吸をした。彼女の甘く爽やかな香りを感じて自然と落ち着いてきた。だが同時に、彼女の香りで落ち着いたという事実に少しイライラしてきた。
こうなったらあることないことぶちまけてやる。
上目づかいながらすごい形相で詰め寄る彼女の肩を押し、少し離れさせる。
「そんなことって、僕のスマホを勝手にいじることが?」
と言って思い切り睨み返してみると、彼女は唖然とした表情で固まってしまった。しかし、次第に肩がプルプルと震え、顔に赤みが差してきた。
ヤバい怒らせたか、と思ってドキドキするがきっともう遅い。なのでこちらは、余裕の表情で迎え撃つ。
「え、ええそうよ。ちょっと見ただけでしょ、しかも目の前で。どこに問題があるっていうのよ!」
「問題大有りだよ!普通他人のスマホは見ないからな、わかってんのか⁈」
「はぁ⁈だからどうだっていうのよ。あんたが連絡よこさないのが悪いんでしょ。しかも、着信拒否っていきなりなんなの!」
「着信拒否して何が悪いんだよ。元々そういう機能があるんだから、使ったってお前に非難されるいわれはないだろうが。僕はロックかけてたんだぞ。なんで開けられるんだよ!」
「パスワードなんていつも同じじゃない。しかも誕生日。あれだけ目の前で使っておいて私が分からないとでも思っていたの?そんなことより、着信拒否にした理由を早く答えなさいよ!」
「はっ、理由なんてないよ。パスワード知ってたのは良しとするけど、僕のスマホ使うの自然だったよなぁ。まさかとは思うけど、これが初めてじゃないなんてことはないよなぁ。今の時代、これが犯罪になることだってあるんだぞ。」
一笑に付して話を切り上げると、勉強机の椅子に座りくるりと回ると足を組んだ。
さすがにずっと立ちっぱなしは疲れると彼女も思ったのか、ベッドに腰掛ける。
……定位置に収まってしまった。
「そうね、勝手に見たことに関しては謝っておくわ。でもね、そんな見られて困るようなものあった?ほとんどが連絡事項を伝えているだけだったし、調べているのもゲームのことばかり。なにも面白くないわ。」
「おい、見ている宣言に加えてさらっと僕をディスるなよ。……はぁ、もうするなよ。」
「ねーでもそれってさ、人のこと言えなくない?」
「はぁ⁈僕はお前のスマホ勝手にいじったりしてないぞ。まず、パスワードを知らない。」
「まぁそれはそうだけどね、携帯ゲーム機のこと。勝手に私のポケ〇ン始めて、勝手にマスター〇ール使ったりしてたじゃん。」
「そりゃいつの話だよ。しかもお前ラストエリクサー症候群だし、あれは出会った瞬間逃げるやつに使ったから無駄になってないじゃん。あそこで使ったほうがマス〇ーボールも幸せだったと思うよ。」
「それだけじゃないのよ。マ〇オだって勝手にやってたでしょ。隠し通路通ってまだ行けないはずのステージ行けるようにしたり、色々やめてって言ってもやめなかったじゃない。」
「それは昔の話だから。今はしないからもういいだろ。」
「あーっ!そういえば中学校の時も私のこと避けようとしたことあったでしょ。」
「なぁ話聞けよ!……ああ、そんなこともあった気がするけどそれが何⁈」
「もしかして今回とその時の理由って同じなのかなって思っただけ!」
中学の頃か、間違いなく思春期的なことだな……今も思春期真っ只中だけど。
それを正直に言う?そんな訳ないよな。
「そんなこともう覚えてる訳ないだろ。でもあれって、たしかそっちも僕のこと避けてなかったっけ?覚えてないのか?」
「ああそれは……お、覚えてる訳ないでしょ!」
「ははっ、そんなもんだよな。じゃあ僕ちょっとお花を摘みに……」
そう言ってこの場からの離脱を図る。
しかし、我が幼馴染ながら手強い。さっとドアの前に移動すると仁王立ちで僕の行く手を遮る。
「ちょっと、何馬鹿なことを言っているのかしら。着信拒否の理由を話さずにこの部屋から逃げられると思っていて?あっ、これあなたのスマホ。ちゃんと戻しておきましたから。……ね?」
スマホを手渡すとともに笑いかけてきた。なお、目は笑っていない。
この顔は……
「はい、……話します話します。学校終わって1組いくじゃん。今日は日直だったからいつもより遅くなったんだけど、その時女子4人でいなかった?少し話が聞こえちゃったんだよね。」
「な、な、な、な。」
「お前の好きな人は凄いみたいな話が。」
彼女は顔を真っ赤にして僕の胸倉をつかんでくる。
「なに盗み聞きしてくれちゃってるの!ほんと信じらんない!バカ、アホ、クズ!豆腐の角に頭ぶつけて死んじゃえ!」
「く、苦しい、死ぬから。話はまだ、お、終わってない。」
「ええ、そうね。しっかり話してもらおうじゃないの。」
しぶしぶといった様子で手は放してもらえたが、いまだにものすごい形相でこちらを睨み続ける。眉がピクピク動いているのが非常に怖い。
「それでな、四六時中お前と一緒にいさせてもらってるけど、告白されたいんだろ。なら、僕の存在が邪魔になるだろうが!」
「はぁ⁈意味わかんないんですけど!それでどうやったらあの結論に至るのよ!ほんとバッカじゃないの!」
「人の気持ちも知らないで、よくそんなにぼろくそに言えるよな!」
「なんでよ!クズかと思ったらゴミなの⁈ほんとわかんない!」
「ああ、お前には僕が何考えてるかなんてわかんないだろうよ!」
「なによそれ。だったら教えなさいよ!」
「だってお前可愛いじゃん!」
「……なっ⁈」
「美人で頭も良い。運動神経抜群で人当りもよく、みんなの人気者。そんなお前が、ただ人気者の幼馴染ってこと以外何の取り柄もないどうしようもない男のことなんて分かる訳がない!」
「い、いきなり何言ってるのよ!」
「だが事実だろ!僕たちは幼馴染ってだけで本来住む世界が違うんだよ!」
「そんなことない!」
「いや、今まではうまく回ってたけどいつか破綻するときが来るんだよ!」
「違う!あんただってかっこいいもん!ちょっと地味だけど。たまにかわいい仕草とか出るし、目立たないところでも気遣いできて優しいから!」
「嘘つくなって。僕は出来ることしかしてないんだよ!何も思いつかないからってお前の好きな人のパクるな!」
「これは本当だもん!」
「ああ⁈じゃあ僕と付き合えって言ったら付き合うのかよ!」
「ええ!望むところよ!」
「「はぁはぁはぁ」」
二人とも息を切らし睨み合っていたが、どちらからともなく目を逸らす。
顔が熱くなるのを感じる。
「えーっと、……付き合うってことでいいのかな?」
「うん、その……よろしく。」
目が合うと彼女は笑いかけてきた。
その笑顔は、今まで見てきた中で1番魅力的だった。
最後までお読みいただきありがとうございました。
贅沢は言いません。つまんねえと思ったら容赦なく☆1つの評価をお願いしますm(_ _)m