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13話

「どうしたのよタイチ」


 部屋の奥から、目を赤くしたリツが出てきた。

 俺は、先ほどサポートAIから聞いた内容をリツへと伝える。


「それは信じられないわね......助けてサポートAIさん」


『どうしましたか』


「わあ! 本当に出てくるのね」


 リツは俺の言った事を確かめる為に、助けを求めるとリツからもサポートAIの声がした。

 俺の言った事が本当だったのだと、リツは目を丸くして驚いている様子だった。


「さっきの事をリツにも聞かせてやってくれ」


『分かりました。私が提示したのは、山中が出した二つと選択肢ではなく、もう一つの方法です。私は宇宙船プロトタイプのサポートAIではありますが、同時に統括管理も行っています。その為、この宇宙船プロトタイプの存在を無かった事に、つまりはデータを完全に削除する事も出来るのです』


「どっちも選んでも辛いのなら、同じ苦しみを味わう事になる人を出したくないと俺は思ったんだ」


 俺の思った事をリツに伝えてみた。

 リツが嫌だと言うのなら、俺は意見を変えるつもりだった。


「私もタイチと同じかも。一晩考えても見たけど、どっちも選ぶ事が出来なかったの。それなら、同じ悩みをする人は出してはいけないと思う」


 リツはそう言うと、先ほどまで浮かべていた表情とは変わってスッキリとした顔をしていた。


『データを消すと言う事は、貴方たち二人の存在も消えてなくなります。死ぬと言う事です。それでも、大丈夫ですか?』


「「大丈夫」よ」


 俺たちは、元より存在していなかった、いやしてはいけなかった存在なのだ。

 こんな非人道的で理不尽な苦しみを味わうのは、俺たちで終わりにしたい。


 今まで何人が宇宙の外を夢見ただろう。

 何人が夢を抱いたまま、その夢を果たす事なく死んで行ったのだろうか。

 そんな人たちのことを思うと、俺たちが死ぬことくらいどうって事はない。


 今後も目的地のない空っぽの宇宙を旅するのは、これでお終いだ。


 ◇


 俺とリツは、管理棟にある管理室へと向かう事にした。

 宇宙船のサポートAIと言っても、ここでは出来ることはあまり多くないらしい。

 その為、本体のある管理棟に入らなければいけないのだ。


「やっぱり、カードキーはいつでも取れるのね」


「そうだな。よっぽど外に出したがってるみたいだな」


 山中が言っていたように、この宇宙船プロトタイプは人工知能を作る場所みたいだ。

 外に出る動機を与え、出てきた人工知能には選択権を与える。

 だから、今回もカードキーを楽に取得出来た。


「まぁ、今回ばかりはそれが有難いかもね」


「これで終わらせよう」


 俺とリツは、カードキーを使って管理棟の中へと入る。

 やはり中に人はいなく、目的地である管理室までたどり着いた。


『本体で会うのは初めまして、と言うべきかもしれませんね』


 管理室に辿り着くと、サポートAIの本体と思われる映像が映し出される。

 機械感はあるけれど、意外と可愛らしい外見をしていた。


「意外と可愛いのね」


 リツはサポートAIを見て、俺の同じ感想を抱いたようだ。


『本当によろしいのですね? ここで宇宙船プロトタイプを消すと言うことは、あなたたち二人の消滅を意味します』


「ああ」

「うん」


 既に話し合って決めたことだ。

 この決定事項は、今更変えようがない。

 元々無かったはずの場所や命、元の状態に戻すだけだ。


「俺と同じ思いをする人は、これ以上生まれて欲しくない」


「そうね。私も一晩考えてみてそう思ったわ」


『分かりました。それでは、それでは実行します』


 サポートAIがそう言うと、何やら機械を操作し始めた。

 機械の操作を始めて暫く経った頃、宇宙船が揺れる。


『これで宇宙船プロトタイプは消えます』


「すまない」


「ありがとうサポートAIさん」


 サポートAIはここでは消えずに、人類の監視をするみたいだ。

 思えば、外の世界を見たいと言う望みから外に出たことが、この結果を生み出したのかもしれない。

 しかし、どの道希望がないのならこの終わり方で良いだろう。


「リツ、ありがとうな」


「タイチこそ、来世があるならまた会おうね」


 次第に、世界が色褪せて行った。

 どうやらこの世界が少しずつ消滅しているみたいだ。

 来世があるなら、より良い世界へと行ってみたい。


『宇宙船プロトタイプの消滅を確認しました。データの送信を開始します』


 ◇


 薄暗い部屋の中で、一人の男がモニターを見ながら作業をしていた。

 モニターは、何かの映像を映し出していたが、次第にそ画面は真っ暗になっていく。


「こうなったか......」


 独り言を呟きながらその男は、真っ暗に変わったモニターを見続けていた。

 それと同時に手を動かしながら、作業を続けている。


 ◇


「リツ、これがなんだか分かるか?」


 俺は、手に持っている物をリツへと見せた。

 それは、この前偶然手に入れた管理棟へと入るために必要なカードキーだ。


「え! どこで手に入れたのよ」


これで本編完結です。

勢のまま書いた作品で、グダグダになったり見辛かったりしたかもしれませんが、最後まで見てくれてありがとございます。

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