24.狼に印と町に到着。救世主って何?
小狼が尻尾をフリフリ。
それにまったりと癒されていたが、そこにまたもや熊登場。
これを熊と言っていいのかわからないほどのサイズだ。
こいつ、あたしの癒しtimeを邪魔したわね!
しかも小狼を狙うとか、いい度胸してるじゃないの。
成敗!
頭と首を狙って、魔力全開で打ち込んでやった。
ふふーん。
どんなものよ!
固まっている狼たちを尻目に、こんな邪魔なものはさっさと仕舞ってしまえと木の棒でつついた。
消えていく大熊に更に怯えたのか、何故か皆狼たちがあたしの前に集まり伏せ、腹を見せ始めた。
あ、これはやっちゃった?
でも、まあ帰りもこの道を通るのだから、無駄な殺生が行われないですむのなら、いいかな。
「帰りもこの道を通るから、宜しくね。良い子にしてたら、帰りにも何かあげるから」
その言葉に一斉に尻尾を振る狼たち。
もうあたしには、大型犬にしか見えないほどに、可愛い。
間違って殺さないように、目印を付けておいた方がいいかもしれない。
何かあるかと探してみたが、縛る為に作った布の紐しかない。
あまり可愛くはないけれど、布自体に防御の付与がされているからそれなりに役に立つでしょ。
「他の狼と区別したいから、これを皆に付けるから並んで。それなりに防御力もあがるから、狩りもしやすいと思うよ」
この言葉が通じたのか、リーダー君があたしの前に並ぶと、他の狼も右に倣えで並んだ。
全部で子狼合わせて13匹。
小狼に付ける時は、もちろん嫌がられない程度にもふることを忘れない。
今度来る時には、カッコいいスカーフでもつけてあげたい。
「じゃあ、またね」
本当は人間を襲わないでと言いそうになったが、寸でのところで抑えた。
この狼たちを飼うわけにはいかない。
責任をもつ覚悟がないのに、義務だけ押し付けてはだめだ。
明日帰れるかどうかもわからない。
一番大きいシッシを渡して、森を出ていった。
さあ、気合を入れて町に行こう。
探索計を見れば、あと20分ほどで着くと示しているので、気合を入れ直して歩き始めた。
それにしても平坦な道というのは、楽でいい。
どれだけあの道が悪路だったのかがわかる。
スイスイと軽やかに歩いていると、遠くで煙が見えた。
人の営みがあることに、少しホッとしながらそれを目指す。
久しぶりの人との再会だ。
第一接触が失敗しませんように。
それなりに高さのある塀が見えた。
よし!
「こんにちは!」
「おい、あれ」
「え、森から人が?」
「しかも小さな女の子だ。あり得ない」
「おい!隊長を呼んで来い!」
あれ?大事になってる?
小さな女の子って・・・。
若返ってるけど、普通に成人してるし!
そう思いながらも、近寄り過ぎないようにゆっくりと歩いて門へと向かった。
門番さん、隊長を呼びに行ったけど、いきなり不審者であたしを捕まえたりしないよね?
入口らしき場所から五mほど離れた場所で止まり、取りあえず様子を見る。
町の中に入れないなら、またあの森に戻るしかない。
ただあの虫だらけのあの奥に、今日はもう行きたくない。
仕方ないからその時は、あの狼がいたあたりでテントはって野宿しかないなぁ。
そんな覚悟をしていたが、隊長らしき人があたしをみるなり膝をついた。
何事?!
「救世主様。プラムの町へようこそいらっしゃいました。私、隊長マルクが案内させて頂きます」
「あ、の、どういうことですか?」
「黒髪・黒目の女性が森から来ると婆様、この町の巫女が予言をしました」
「え、巫女?この町に世界樹が?」
「やはり!・・・いえ、この町には既にありません。その為町は放棄され・・・いえ、詳しくは婆様とお話しして頂ければ」
隊長の後をついて行くだけで、なにやら拝む人が居たりして、落ち着かない。
救世主とかそんな大層な者ではないのに、否定をすることも許されないような、そんな重苦しい空気が漂っている。
周りを見渡せば、町並みはそれなりに古いけれど、レンガなどで建てられた家はしっかりとしている。
なのに、寂れた印象が強いのは、人々の表情と痩せている体型、そして身に纏っている服のせいかもしれない。
「ここです」
大きな樹があったであろう根の横に、厳かな雰囲気漂う大きな建物。
ここに婆様がいらっしゃるらしい。
女は度胸!
会って色々確かめよう。
「よくぞ、いらっしゃいました。救世主様。・・・おお・・・本当に、言い伝えの通りのお姿じゃ」
大粒の涙を受けべる婆様に、どうしていいのかわからず、ここに一緒に来たマルク隊長を見た。
「婆様、救世主様が驚いていらっしゃいます」
「おお。すまんのー。もうただの伝説じゃと思っていた言い伝えが、真であったことが嬉しいのじゃ。大婆様は真実を申していた」
「あの・・・状況が呑み込めないのです。あたしを救世主と呼ぶほど、この町はどんな困難に陥ってるのですか?」
一瞬戸惑いを感じたが、マルク隊長は簡単に教えてくれた。
「食べ物が不足しています。あと薬も。それを含めて、婆様のお話を聞いて貰いたいのです」
「わかりました。では、お話を聞く前にあたしもお腹が空いたのです。干し肉を渡しますので、作って頂けませんか?それをみんなで食べられたらと思います」
「いいの、ですか?」
「あたしがお腹空いたのですから、勿論です」
しっかりと眼鏡をかけ直して、婆様とマルク隊長を見た。
鑑定眼鏡は人のステータスのようなものが見えるのだ。ゲームのような詳しい情報ではないが、名前と職業あと人となり。
見てすぐに、婆様もマルク隊長も、救世主様に心酔と出た時には頭が痛くなった。
どれだけの期待が込められているのか・・・。
胃が痛い。
伝説とやらを聞くのが怖いよ。
それならば、腹を括ってシッシも出そう。どうせ10頭以上あるんだし、狼たちにあげる分だけ残しておけばいい。
「あ、でも干し肉は日持ちするので、シッシを先に出しますね。解体できる人に頼んでください」
「シッシがあるのですか!」
あ、更に心酔力が高まった。
教祖様じゃないんだから。
怖くなりながらも、本当にお腹も空いたし、今は深く考えたくないとシッシを2つ出した。
大袈裟に目を見開いたマルク隊長は、すぐに部下たちを呼んだ。
「今すぐこれを捌いて、食事を作れ!」
これがキッカケでもしも襲われても、誰もあたしを傷つけることは出来ないし、二度とここに来ないだけのこと。だからこれで正解と思いたい。
今はとにかく、何も考えたくないほど疲れたよ。




