21.あーさん
それから、まあ飲んだ。
鶏のあーさんにもお酒を勧めた。
この時点で、あたしはどこかネジが緩んでいたのだろう。
まともな神経であれば、普通ただの鶏じゃないとわかっていても、お酒を勧めたりしない。
動物虐待だと言われても仕方ない所業だ。
お酒を飲んだ後すぐに、あーさんは鶏から変化した。
孔雀?
尾長鳥?
羽が広げられると眩いぐらいに七色に輝き、尾は何メートルあるかわからないぐらいに長くなった。
「綺麗ね」
素直な感想だった。
「あーさん、何者?」
「アル・アトラーンティース。この島と同じ名を持ち、この島を守る者」
あれ?コッコじゃない?!
「この姿の時は、人語を話せる」
「そうなの?!じゃあ、いつもこの姿でいればいいのに」
「この姿だと色々制限がかかる」
それだけいうとあーさんは、目の前のお酒(モモ酒)を飲んだ。
仕方ない。話を元に戻そう。
「あーさんの名前の響き的には、聖なる地ってことかな。世界樹が管理しているわけでも、ないんだよね?」
「それはない。アレは自分と眷属を守ることにしか興味を持たない」
「眷属って、妖精とか他の地の世界樹?」
「妖精は眷属などではなく、アレにとって奴隷の様なものだ。アレは他の物を生かしてやっているのだから、仕えるのが当然だと思っている。この島を守るわらわであったとしても、恩恵を得ているのだから対価を渡せというぐらいだからな」
よほど世界樹のことが嫌いらしい。あーさんにしては長文をしゃべっている。
ならば、ずっと気になっていたことを聞くとこにした。
あたしの前の人は、どうして居なくなったのか。
世界樹に殺されたのなら、タダではおかないと闘志を漲らせながら。
「梨花の前の者は、帰る道を探しに出て行ったきり戻ってきていない。その後どうなったのかは、わからない」
元の世界へ帰る道か。
元の世界のことが、気にならないわけじゃない。
だけど、正直戻って自分の居場所はあるのだろうか。
存在していなかった者とされた場合、完全に不審者扱い。
それだけならいいけれど、変な機関に囚われの身になったりしたら、最悪な気がしている。
自分のことに関して記憶がないのはいいことなのか、悪いことなのかわからないけれど、今は帰りたいという気持ちはあまりない。
帰りたくなったら、その時はその時だと思っている。
「あーさんは、一緒に行かなかったの?」
「わらわは、ここを離れられない」
「ん?なんで?」
「契約で縛られている」
「そうなの?!」
でも、きっと召喚術何てものがあると教えた人は、あーさんにここから出てもいいと言ってると思う。
あたしがいる場所に召喚できると、知識が教えてくれる。
「あーさん、何言ってるの。どこへでも行けるんだよ。あーさんが望めば」
「望む?」
「そうだよ。この島からあたしなら出る方法があるってことだよね?だから、大丈夫!その代わりこの島がどうなるかわからないから、今のうちに色々貯めこもうね!」
「さあ、乾杯だよ。乾杯!飲もう!」
「先ほどから、何を言っているのだ・・・」
先ほどからあたしが何を言っているのか理解できていないあーさん。
あたしもね、まだよく理解できていない。
今わかっているのは、あーさんがここを出ることは出来るってこと。
「だからね。一緒に外に行こうね」
それだけいうと、眠気に勝てずそのままテーブルに突っ伏した。
その日に見た夢はこの世界を旅する自分と、あたしに呼び出されて仕方なさそうにしながら、討伐を手伝ってくれるあーさんがいた。
次の日から二日酔いで怠い体を引きずりながらも、保存食をたくさん作った。
外に出れば薬が必要になってくることも分かったから、鑑定して薬になるものを採取する。
そして組み合わせが分からないまま、ひたすら錬金をして、薬になる組み合わせを探す。
その工程が中々実験のようで面白かった。
その中で腹が立つのが、世界樹の葉を1枚でも入れると鑑定で質が最高級になり、普通に作るよりも効果が2~3倍になる。
例えば風邪薬の場合、普通ならば熱を下げ咳を止めるに留まる。
魔力を持つ者には、そこから更に回復させ体力を元に戻す、までいくのだ。
それは世界樹の葉が、時間停止能力と素材の質をあげる役目(回復)を担っているからだと予想している。
恩恵?
そんなのクソくらえ。
素材の一つでしかないのだから。
なぜなら、魔力がない人に飲ませた場合は、薬の効果そのものの効果しか得られない。
品質は上級だが、効き目は普通の風邪薬と変わらない。普通の薬より、品質の持ちがいいだけでしかないのだ。
今に見ておれ、世界樹よ。
あんたの葉っぱなんていらないと言えるものを作ってやるんだから!
だけど対価は払ってるんだから、今は!魔力分はしっかりと使わせてもらうのだ。
だから魔物という肉を狩り、魔石を得てマジックバックを作る。
マジックバックを作ったら、そこに肉を収納する袋と骨や皮など他のことに使える部位を収納する袋にわける。
解体は家の外についている魔道具で簡単にできるから、とても助かる。
そう、あの解体するものは、とても優秀だったのだ。
まず、肉は冷蔵庫に。
骨や皮・内臓など素材にもならないものは、肥料になり野菜や果実がなる畑に撒き、素材となる骨・皮は錬金室の倉庫に保管される仕組みになっていた。
これを作ったのは、初代ここに住んだ人らしいけど、元々は何をしていた人なんだろうね。
その知識、どこかに書いておいてくれていたら楽しく読めたのに。
残念でならない。
ある程度の薬やマジックバックは出来た。
だから、これから付与術を勉強するのだ。
これが自分のモノにできれば、魔力がない人でも使える魔術具が出来るのだ!
読んで頂き、ありがとうございました。




