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2.落ちた先はどこなのか

何も持たないで帰ったはーちゃんを見送って、あたしはソファにドカッと座った。

魔女かぁ。

まあ、この世界の常識を全くわからないまま、魔法を自在に操って野菜や薬草を作り、適当に錬金釜に材料入れば、ポーションが出来る。仮にそれらが出来る者がそうだと言われたら、そうなのかもしれない。

だけど・・・。

それはそちら側の勝手な言い分。

あたし的には、魔女になったつもりはないし、生きるために工夫しているだけだ。

はあああああぁぁっ。


ここに来て半年ぐらい経った、と思う。

今は何の問題もなく生活できているので正直深く考えたくなかった、というのが素直な気持ちだ。

まあ、全く問題がなかったかと言えば、問題以前のことが合った。

それに関して、誰の助けも得ていない。

『魔女』だから、当たり前とか言われたら、キレそうなあたしがいる。


家の中を見渡す。本当にここはどこで、誰の持ち物なんだろか。

はーちゃんの主が示すように、あたしは魔女で。

実はここは元々歴代魔女が住んでいて、居なくなったからあたしが呼ばれてここに来て、落ち着いたころにお城に挨拶に行くのが通例なのだろうか。


なんの説明もなく来いとか言われても、恐怖でしかない。行ったら最後牢屋にいれられて、何かを作れとか言われても困るし、魔女でなければここを出ろと追い出されても困る。

だって、この世界にあたしの居場所なんてない。ここ以外に、どこにも行くところなんてないのだから。


それに死にかけた代償として、ここを貰っても罰は当たらないと思う。

それが出来ないのならここから自立して生きていけるように、準備をしなければならない。一先ずはこの島にははーちゃん以外誰も入ってこれないように結界の強度を高めて、と。

これでよし!


最悪を考えて、色んなものを作らないとダメね。

ここを出たらまた死にかけた、とか絶対に嫌だから。

あれは本当にシャレにならない。

思い出すだけで、虚ろな目になるのは、仕方ないと思うのだ。


そう、あれは12月中旬の、凄く寒くて風が髪を撫でるたびに、いらん!とごちていた。寒いと人間それだけでイラつく。そんな日だった。

今でも夢でも見ているのではないかと思えるぐらい、あっけない転移?だった。

自転車で会社の帰り道。いつもの道を寒さに震えながら帰っていた。

何故か自転車に乗ったまま、突然落ちた。

そう、落ちたのだ。

穴なんてなかった。

段差なんてなかった。


大きな幹線道路沿いで車通りも多く、同じように自転車で帰っている学生やサラリーマンたちに混ざって走っていただけ。今考えても、意味が分からない。


そしてもっと意味が分からないのは、自分の名前が梨花ということと、落ちる前の状況だけしか覚えていないこと。始めは覚えがなくとも頭を打って、記憶喪失になったのかと思った。

だけど、落ちた感覚があったにもかかわらず、自転車に乗ったままそのままこの家の庭に着陸していたのだ。あたかもこの場所に居たかのように。


パニックなんていうものじゃなかった。

無機質な建物が並ぶ日本じゃないのは一目で確実にわかったし、それどころか段々と息苦しさが増してきた。ふとした瞬間に食べていた飴(餅じゃないよ)を喉に詰まらせて、苦しくなったことがある感じに似ていた。いや、普通では混ざっていない何かが空気中にあり、それを吸い込んだのではないかと思った。


このままでは危ない事が本能でわかった。誰の家なのか安全なのかとか確かめる余裕もなく、駆け込むように家のドアに手を掛け、そのまま入った。

立っていることもままならず、そのまま玄関らしき場所に倒れこみ、酸素を求めて喘いだ。

何度も咳き込み、喘いでを繰り返し、そのまま気を失った。


どれぐらいの時間が経ったのかもわからない。

目を開けることが出来た時、ああ、生きてるんだ。

そんなことを思ったのを覚えている。


目を開けたものの、ぐったりとして何も力が入らず、転がり、這いずり、やっとの思いで部屋の中に入り、無我夢中水を欲した。


そしたらどうだろう。目の前にテニスボールぐらいの水が出てきた。そこに何でという疑問の前に、すぐに齧り付くように引き寄せた。

美味しい。

気が済むまで何度も水を飲んだ後は、先ほどまで重かった体にスーッと清涼感が駆け抜けた。真夏の炎天下にミント水を飲んだ如く清々しく、体は自分の体重を感じないぐらい軽くなった。


生き返った。


本当に死ぬかと思った。

生きていると実感すれば、早急にこの状況を把握しなければならなくなった。

このまま寝転がっていても何の解決にもならない。しかも転がっている床を感じればわかる。ほこりがほとんど落ちていないし、あたし自身が転がったのにも関わらず、埃で服や髪の毛が汚れていない。ということは、誰かが丁寧に掃除をしている、誰かが住んでいるということに他ならない。無防備に鍵を掛けることなく、放置して何処かへ出かけられるぐらいだから、近くにいるのだと思う。

持ち主が帰ってきたときに家の中に見知らぬものがいたら、警戒するに違いない。

何とか体を起こして、この家の持ち主をドアの前で待つことにした。


ただ、また外へ出て同じことを繰り返してはいけない。

そっとドアの外へ顔だけ出して息ができるか確認する。


すーはーすーはーぁ。

呼吸OK、脈もOK。ならば、一歩体ごと外へ出る。あくまで一歩。そしてドアノブはしっかり握ったままだ。

あ、大丈夫みたい。

あれは何だったのだろう。ここの持ち主が現れたたら、理由が分かるだろうか。

それにここは何処なのか、街に行くにはどうすればいいのか。今日だけでいいので、部屋の隅っこを借りることは出来ないか。

そしてなりよりも、取り合えず、何か口に出来る物を恵んでもらうために。

生きれることが分かったなら、本能で食を求めるのは当たり前だと思うの。

お腹空かせた仕事帰りに、死にそうになった。これだけで、疲労困憊。栄養があたしを呼んでいる。


ああ、おなか、空いた・・・。


読んで頂き、ありがとうございました。

ブックマーク&評価もありがとうございます。

嬉しくなって、本日2回目の投稿。

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