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1.魔女?知らんがな。

いつものようにコツコツと窓の外から音がする。

カーテンの向こうはまだ薄暗く、陽が上ったばかりだと分かる。

いつも遊びに来る時間よりも、少し早いのではないだろうか。

それでもカーテンが開くまで続けられるまで、一定なコツコツという音は止みそうにない。


仕方ない。

諦めてカーテンを開けると、窓の半分をいつもコツコツ言わせる鳥の顔で埋まっていた。

怖いし。


「こんなに早く、どうしたの?」

用意していたパンの欠片を渡しながら訊ねた。

お?

今日は珍しくパンを唾むよりも先に、足先を差し出した。

ただ遊びに来ただけでなく、どうやら急ぎのお使いらしい。


『魔女殿、至急王宮に来れたし』


なんじゃそりゃ。

知らんがな。

魔女?

あたしゃ、梨花だし。

放っておこう。


空を見上げる。朱とオレンジと白と群青色が見事なコントラストを奏でている。徐々に群青色から青が増え始めるのを見ていると眠気など飛んで行ってしまった。そして夜明けを知らせるように、あーさん達が一斉に鳴き始めた。


コケコッコー!!


仕方ない。このまま外へ出て皆を放つとするか。


「おはよー。今日もみんな元気だね。あーさん、今日育てる卵はある?」

コッ。

「ないんだね。ありがとう。全部使わせてもらうね」

コッコ。

「ありがとう」


あーさんはこの鶏たちの肝っ玉母さん。有精卵があると必ず教えてくれる。だから間違って食べてしまうこともなく、安心して卵を食べられるのだ。

そしてこのあーさん一家は、頭がいいだけじゃない。畑に付く虫や害虫、害獣まで駆除する警備まで請け負っている。スーパー鶏さんなのだ。

ここが異世界問だけで、普通の鶏かどうかも怪しいけれども。

鶏が、ネズミを駆除して食べているのを初めて見た時には、何度も目を擦って開けて、閉じてを繰り返して、目を疑ったけれどね。今は日常の中に溶け込んでいるのだから、あたしも順応力があるのだろう。


「今日もよろしくね」


全部で10羽を引き連れて、あーさんは見回り兼朝ごはん出かけた。

いつもの場所に置いてある籠に卵を入れていく。

今日はどうやら5個もあるらしい。


「はーちゃんも朝ごはん食べていく?」

何かが一巡して落ち着いたのか、先ほどまで返事をくれと地面を蹴っていたハシビロコウのような鳥は頷いた。良い子だと頭を撫でてあげれば、嬉しそうに大きな嘴が開けられた。

「ぴゅい」

図体によらず、可愛い鳴き声である。


さて、今日は何を食べようか。

愛嬌のあるお客さんもいることだし、畑で採れた野菜を入れて、オムレツでも作ってみよう。


冷蔵庫を開けて卵を二個収納する。そしてもーちゃんが出してくれた牛乳をコップ二つにいれ、ボールに少し移した。牛乳をしまうと同時に、サイコロほどの小さく切り分けたチーズを数個取り出して、後は・・・。野菜室からたまねぎと彩りにブロッコリー・プチトマトを出した。


牛乳を入れたボールに卵を3個割って泡だて器で混ぜる。塩コショウを入れて、更に混ぜる。

フライパンにバターを落として、玉ねぎとチーズを入れて混ぜながら火を入れる。ある程度玉ねぎに熱が通ったら卵を入れて端と端を折ってくるんと返した。

これで良し。

ちゃんしたオムレツかどうかなんて問題ない。美味しければいいのだ。

本当はここでキノコ類も入れたいところだが、朝から気持ちがバタついたせいで、森へ取りに行けていない。お昼から錬金の素材もなくなっているから、一緒に取りに行こう。


ブロッコリーを少し湯がいて、付け合わせ予定のプチトマトと一緒にオムレツの横に飾った。

うむ。美味しそうだ。

トマトケチャップをオムレツにかけて、少しあぶったパンを添えれば出来上がりだ。


「はーちゃんの分は食べやすいように切っておくね。食べられないものある?」

ブルブルと大きな嘴を振った。

「じゃあ、これでいい?」

「ぴゅい」と頷いた。

はーちゃんは、頭のいいスーパー使い魔だった。

「はーちゃんは偉いね。主放ってここに引っ越ししてくればいいのに」


「ぴゅー」

本当に、といってそうな残念な声を出して、パンからつつき始めた。どうやら好きなモノは最後に食べる派らしい。

何故そう思ったかって?

あたしもそうだから、通じるものがあるのだ。

あたしの使い魔でないことが、残念でならない。


さて、あたしも食べよ。

パンを一切れ口の中に入れた後、追いかけるようにしてオムレツにかかっているケチャップ事、口に入れる。

今日はいい感じで胡椒が効いている。いい塩梅ではないだろうか。自分で自画自賛しながら全部食べた後、同じように食べ終わったはーちゃんをみた。

見られていることに気づいているはずなのに、はーちゃんは何も言わない。お返事がないと家に帰られないとは分かっているけれど、エサをくれるあたしに少し恩義を感じてくれているからか、急いで書いて欲しいと急かせない。

本当に出来た鳥である。


「ねー、はーちゃん。あたしって、何者なんだろうね。それよりもここどこなんだろうね。誰も答えをくれないまま半年がたったよ。一ヶ月前にはーちゃんから、薬草をくれという手紙と一緒に現れたのは、ここ一番のビックリかな。イラストにあった薬草を渡して、それで終わり、だったはずなんだけどね・・・」


ま、わからないことは仕方ない。

「だからね、はーちゃん。自分でもわからないことだらけなのに、恐怖を与えるようなことをするはーちゃんの飼い主は、大っ嫌いなんだよ。今度手紙つけてやってきたら、家に上げないどころか、この結界の中にも入れなくなるからね。これ、警告」


大きく頷いたはーちゃんを撫でた。

「いつのように遊びに来るだけなら、来ていいからね」

「ぴゅい」

わかってもらって何よりだよ。



読んで頂き、ありがとうございました。

こちらもよろしくお願いいたします。

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