プロローグ
記憶の底。
覚えているはずがない生れ落ちた瞬間の景色。
息苦しくて、息苦しくて、助けて!と、心が叫んでいた。
突然、肺の中にたくさんの空気が入ってくる。
――――眩しい!――――
目の前に明るい光が溢れて、目から涙が、唇から声がもれる。
声に応えるように、天井から花びらのようなものが降り注いだ。
風のような、光のような、なにかが、ひゅんひゅん、ぐるぐると、怖いぐらいの速さで周りを回っていてめまぐるしい。
びっくりして涙も、声も止まった。
何度も瞬きする。
これは、なに?
泣き止んだわたしを、しっかりとした安定感のある手が抱き上げて、温かな湯で体を清めてくれた。
白い、ふんわりとした布に包まれ、寝ているかかさまに渡される。
わたしを見るかかさまのやさしい笑顔。
ととさまのうれしそうな顔。
でも、かかさまが、すこし悲しそうなのはなぜだろう?
わたしもうれしくて、かかさまが心配で、ふたりへと手を伸ばす。
そこへ、ノックの音が響いた。
「お入りなさい」
執事のジョセフの声に続いて、いくつもの足音が聞こえ―――
ととさまが、わたしをかかさまから受け取った途端、周りの景色が変わった。
ここは、浮島だ。
大好きな、やわらかな緑の匂い。
わたしの目の上に光輝く宿り木が見える。
白い服を着たととさまが、わたしを抱いたままゆっくりと膝をまげた。
跪いている子ども達と視線が合う。
どの顔も真剣で、その額には小さな輝きがある。
「誓いを」
声を合図に、4人の子ども達がわたしを囲んだ。
「--------------------」
なに?
何と言っているの?
風と光の渦が一層激しくなって聞こえない。
ただ誓いの言葉が金色の光となって、わたしと子ども達を包んでいくのがわかる。
天井から、また沢山の光の花びらが舞い落ちてくる――――――――。