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防衛省統合幕僚監部特殊防衛部隊  作者: 志
EMP兵器密造及び密売事件
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丹波慶壱の祝日

 仕事と家庭の板挟みになる丹波と娘のお話






 丹波にとって本来なら今日は休暇を取って朝から家族と時間を共にする、言わば祝日になるはずだった。しかし、先日の高潮の影響で埠頭に現れるはずの運び屋の動きがなく、2週間も作戦の予定がズレてしまった。それもよりにもよってどうしても外せない予定がある日に。

 当然娘たちからは非難の声を浴びせられた。仕事と私どっちが大切なの?と。特殊な部署に属しているということは家族に話していないため、災害でもない限りは仕事それ即ち雑務だと思われている節がある。非難されるのも当然といえば当然だ。それでも黙って仕事に向かわなくてはならない。国のため、家族のために。






 この日、丹波は作戦を終えた後すぐに帰宅した。三女瑠奈ルナの誕生日を祝うためだ。一時はどうなることかと思い気を揉んだが、無事に定時前に帰宅し誕生日を祝うことができた。

 「ほらプレゼントだ」夕食会を終え妻と長女が食器を片付けている間に、丹波は瑠奈にプレゼントが入った箱を渡した。嬉しそうに受け取り、開けていい?と尋ねると丹波が頷くのよりも僅かに早く包みを開け始めた。

 「かわいい・・・」瑠奈は見惚れた様子で箱の中の物を取り出した。ピンクゴールドの三日月に星がぶら下がっているチャームのネックレスだ。

「お父さんありがとう」瑠奈の満面の笑みに思わず丹波も口元を綻ばせた。ネックレスを綺麗に箱にしまうと、ところで。と瑠奈は口を開く。

 「今日の仕事って何だったの?」昨日になって急に仕事で今日は休めないと連絡が入ったが、今はこの通り誕生日を祝ってくれている。昨日の内に何かするでもなく今朝いつも通りに家を出ていつもよりも早く家に帰ってきた。果たして急な仕事とは何だったのか甚だ疑問だ。

 瑠奈の心情は丹波にも大いに理解できた。だが、おいそれと何をしていたのか言うわけにはいかない。そもそも特防隊というもの自体統幕以外には隠匿されていて、家族にも漏らすなと厳命されている。だから家族内では元々所属していた航空自衛隊に今も属しているということになっている。それに、今やっている仕事は他人に胸を張って言えるようなものではない。時には法を破ることもある。故に丹波はお茶を濁した。

 「基地から基地へ危険物を運ぶ仕事だ」

「何?危険物って」今までも度々踏み込んだ質問をされることがあったが、そういうときはいつも決まって言う言葉がある。

 「それは特定秘密だ」いつもそればっかり。と瑠奈はむくれたが、特定秘密保護法が施行される前から丹波に内容と罰則を何度も念入りに聞かされていて理解しているためそれ以上は何も聞かなかった。

 「そういえば泰洋タイヨウにももう祝ってもらったのか?」多少強引にではあるが自分のことから瑠奈の交際相手のことへと話題を変え、仕事のことは考えさせないように気を逸らした。

「まだだけど、明日一緒に遊びに行くの」

「今日家に呼べばよかったな」すると瑠奈はううん。と大きく首を振った。

 「産まれた日は産んでくれたお母さんとお父さんと一緒に過ごしたかったし」それは父親としてこの上なく嬉しい言葉だった。しかし、しばらく会っていない泰洋と顔を合わせることを切に望んでいる事実もあった。瑠奈もそれをわかってのことだろう。それに・・・と付け足した。

 「タイちゃんはお父さんに渡したくないもん」






 今朝はとてもゆったりとしたスタートだった。いつもなら5時に起床し30分間筋トレをしたのちにシャワーを浴びて朝食、7時には出勤という生活スタイルだ。

 それが今日に限っては起床したのが8時過ぎ、それから朝食を摂り現時刻は9時13分。シルバーメタリックのスズキ・ランディに乗り、エンジンをかけて大凡15分が経った。車内ではEarth,Wind&Fireの"September"が流れている。

 9時に家を出るなら駅まで送っていく。昨晩はっきりとそう言ったのだが今朝瑠奈が起きたのは8時47分。それから着替えやらメイクやら何やらであっという間に時間は過ぎ現在に至るまで未だ玄関から姿を見せる気配はない。

 普段の生活では遅刻を目の当たりにすることがほぼないので、どうしても遅刻というものは快く受け入れることができない。尤も丹波自身も防衛大時代は遅刻の常習犯であったが。

 "September"が4回目のイントロを終えた頃、漸く玄関のドアが開き瑠奈が姿を現した。白いブラウスに黒のロングスカート、首ではピンクゴールドの三日月が輝いている。淡いピンク色のショルダーバッグを手に持ち慌てた様子で助手席に駆け込んだ。

 「ごめん。お待たせ」にっこりと笑いシートベルトを締めると、行こ。と言った。丹波は聞こえるように溜息をつくと口を開いた。

「あのなぁ・・・」しかしそれ以上言葉を発することはなかった。職業病とも言うべき時間にシビアな生活を家族に強いるべきではないし、何よりも娘を駅まで送るために車を出す準備をして長い時間待たされる。そんな父親としての日常も悪くない。そう思った。

 車をゆっくりと発進させると最寄りの川口駅まで走らせる。陽気な―瑠奈にとっては妙ちくりんな―BGMと駅まで10分足らずという近さもあって昨夜ほど会話は弾まなかった。

 ロータリーに車が停まると瑠奈はシートベルトを外しドアを開けた。そのまま降りようとしたが、何かを思い出したように丹波の方を振り向いた。

 「いってきます」指を揃えた右手を顔の横まで挙げた。丹波はその姿に思わず口元を緩め答礼した。

「いってらっしゃい」






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