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防衛省統合幕僚監部特殊防衛部隊  作者: 志
防衛省官僚失踪事件
15/38

追跡と謎

 綾部の捜索を開始するも一向に手掛かりを掴めず疑問を募らせる高槻たち。その裏で、宮津は独り不穏な動きをみせる。







 捜索開始から4日が経った現在でも、綾部の行方は依然として掴めていない。綾部が最後に退勤してから帰宅したこと、そして、翌朝タクシーで市ヶ谷方面に向かったことも確認できた。

 しかし、そのタクシーは防衛省庁舎に着くことなく、忽然と姿を消した。厳密に言えば、タクシー自体はその後都内を巡回していた。だが、綾部の姿はそこにはない。タクシーを降りた姿は防犯カメラには写っておらず、完全に消息を絶った。 

 タクシーを調べたところ、きちんと届け出してある普通のタクシーで、ドライバーも綾部の姿が確認できなくなったその時間に客を降ろしたと証言しており不審な点は見られない。

 「ダメです。何回見てもここから先の足取りを追えません」橿原はお手上げといった様子で机の上にへたり込んだ。

「歩容認証にも引っかかりませんでしたし、完全に消えちゃいましたよ」そう言いながら、机に突っ伏し両手を頭の上に挙げる。

 「車を変えた可能性は?」高槻がそう尋ねるが、橿原は机に突っ伏したまま扇ぐように手を振った。

「その日あの場所を通った車は全部数秒前に周辺のカメラに映ってましたから、別の車を用意してた可能性はないですし、死角で不自然に長く止まった車もありませんでした」それを聞いて高槻は、うーん。と頭を悩ませた。拉致の線を考えたが、その様子はなく、事故でもない。意図的に行方を眩ませたにしても、大通りを1本入った細い道が5メートルほど死角になっている以外、周辺の道は全てカメラの画角に収まっており姿を見せずにこのエリアを抜けるのは不可能だ。

 「どこでもドアでも使ったか?」勿論そんなことはあり得ないことはわかっている。それでも、そう疑いたくなるような状況であることは確かだ。

 暫しの沈黙の後、高槻は立ち上がって橿原の背後に回る。おもむろに橿原の頭に手を置くと、髪の毛をぐしゃぐしゃにしながら少し小声でささやくように言う。

 「宮津の動きはどうなってる?」橿原はビクッと体を跳ね上がらせると、キーボードの隣に置かれたノートパソコンを開いて操作する。ログのようなウインドウとマップのウインドウが表示されると、高槻に差し出した。

 パソコンを受け取ると、まずはログのウインドウに目を向ける。通話の履歴から閲覧履歴まで、全ての通信記録が書かれており最新の履歴が順に上に表示されている。数分前に高槻と電話したのが最後のようで、ログの1番上に高槻の携帯番号が記載されていた。

 スクロールさせ履歴を遡っていくと、和泉の番号や松阪の番号、高槻の知らない番号ではあるが、頻度から察するに零のものと思われる番号もあった。

 そして、もう1つ高槻の知らない番号があった。しかも、昨日から急に頻度が増え、この2日だけで8回も通話した記録がある。更に言えば、最後にこの番号と通話したのはつい6分前だ。

 「この番号の相手が誰か突き止めるぞ」すると橿原は、疲れているのか、電話相手の身元を突き止めることに意味を見出せないのか、あまり乗り気でない様子で返答する。

「了解・・・」






 「ああ。それじゃあ」宮津はそう言うと、通話終了のアイコンをタップする。そして、通話の画面が閉じると履歴を開いた。

 1日分の通話履歴だけで画面が一杯になった。目一杯フリックすること4回目で、ようやくスクロールの1番下。丁度1週間前の履歴にまで遡った。

 ここ2、3日が特に多く、そのほとんどが舞子との通話だった。その数、実に8回。不倫を疑われれば言い逃れはできないようだろう。

 しかし、仮にそう思われようと宮津は気にも留めないだろう。今はそんなことを考えていられないほどに切迫した状況なのだから。

 宮津はツールバーからゴミ箱のアイコンを表示させると、そのままタップし履歴を削除した。そしてホームボタンを押そうとしたその瞬間、バッテリーが残り少ないことを知らせるメッセージが画面に表示された。

 それを見て宮津は首を傾げる。朝には満タンまで充電されていた。にもかかわらず、昼過ぎの今では残量が僅かとなっている。通話のし過ぎがその原因の一翼を担っているのは間違えないだろう。とは言え、あまりに減りが早すぎる。経年劣化でバッテリーの容量が減るとは聞くが、つい先週までは消費のスピードも普通で、何の問題もなく使用できていた。

 色々な可能性を頭に思い浮かべていったが、結局は考えても仕方ないという結論に至った。宮津はスマホを省電力モードに切り替えると、市ヶ谷に向け車を出した。






 「何処からも手掛かりは見付からず、か」松阪は手元にある報告書を見比べると、険しい表情をした。人捜しだけならいくらでもやりようはある。しかし、警察に感知されないようにという条件がつくとやれることは限られてくる。

 狭い範囲での捜索なら防衛省だけでも行えるが、大規模な捜索となると警察の介入は避けられない。かと言って、現状で可能な限り手を尽くした結果は、言うに及ばずだ。

 「それで、今回は何の相談だ?」松阪は報告書を置くと、手を組んで宮津に鋭い眼光を向ける。

「お前のことだ、わざわざこんなくだらない報告をしに来たわけじゃないだろう?」だったら話は早いとばかりに、宮津は口元を綻ばせ、ゆっくりと頷いた。

 「なら、こちらもお前に色々と話しておかないとな」すると松阪は立ち上がって奥の小さな会議室へ歩いて行くと、部屋の明かりをつけた。宮津も後に続いて会議室に入り、ドアを閉めブラインドを降ろした。そして、松阪に促され椅子に腰掛ける。

 「この事件、裏に何が居るんですか?」

「その答えはお前もわかっているだろ?」一見答えになっていないように思える返答だったが、宮津が抱いていた疑念を確信へと変えた。

 「上もそのことは知ってますよね?」

「ああ」松阪は重々しく頷いた。そして、黙って考え込み始めた宮津に視線を向ける。

 「それで、どんな策を持ってきたんだ?」すると宮津は、顔の前でピースのような形で指を2本立てて見せた。

「プランAは正面突破。プランBは強行突破です」

「詳しく聞かせてもらおうか」すると宮津は頷いたが、その前に。と前置きし椅子から立ち上がった。

 「スマホの充電をしたいのですが、充電器をお借りしても?あとコンセントも」

「生憎コンセントが空いてないんだ。俺のパソコンに繋いでくれ」宮津は部屋を出ると僅か数秒でまた戻ってきた。そして、再び椅子に腰を下ろすと、真剣な面持ちで口を開く。

 「まずプランA。こちらは合法的な手段で綾部と接触。そのまま保護します。もしそれが失敗した場合はプランB。綾部の居場所を特定し、強引に身柄を奪取します」

「足取りがわからないのにどうやって綾部と接触するつもりだ?」何のアテもなしにそんな立案はしないであろうが、この状況で接触する方法があるのか疑問を感じずにはいられない。

 「綾部の妻は、綾部と連絡が取れるそうですので、居場所を聞き出してもらいます」

「勝算はあるのか?」

「会うことは絶対にできます」何を根拠にそう言っているのか、松阪は再び疑問を抱いたが、自信がある様子の宮津を見て、それ以上追及することはしなかった。

 「プランAでそれなら、当然プランBは違法だな?」宮津が何の躊躇もなく頷くと、はぁ。と松阪は息を吐いた。最初から想定していたことではあるが、この先やらなければならないことを考えると、どうしても快くはなれない。

 「詳細はプランAが失敗してからお伝えします」

「上に頭を下げるこっちの身にもなってくれ」そう苦言を呈すると、宮津はお返しとばかりに切り出す。

 「そうおっしゃるなら、今度から部下に隠し事は無しにしてくださいよ」

「それはお互い様だろ?」そう言われると今度は一転して、痛いところを突かれたといった様子で苦笑いして頭を掻く。

「次はちゃんとご報告するようにしますよ」そんなことを言う宮津を、松阪は呆れたような目で見た。本当に次はちゃんとするのか。そもそも次はあるのか。そんなことを考えているのかもしれない。

 「それで、どんな腹積もりをしているんだ?」

「何がです?」宮津は反射的に惚けて見せたが、松阪が何を言いたいのか、はっきりと理解していた。松阪の方もそれをわかっていて、あえてこの聞き方をしたのだろう。

 「答えたくないならそれでもいい。だが、もしお前がはなから奴らの根城を強襲するつもりなら、こちらに話しておいた方が都合がいいんじゃないか?色々と準備が要るんだ」

 すると宮津は突然、ははっと笑い声を漏らした。それはある種、安堵の笑いのようでもあり、また、恐怖からくる本能的な笑いのようでもあった。

 「敵わないな。松阪さんには」

「何年の付き合いだと思っているんだ」松阪がそう言ってニヤリと笑うと、宮津もつられて顔を綻ばせた。

 「そういえばそうでしたね」

「まだ長い付き合いになるぞ」






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