09
こんこん。
立派な豪邸を前に純白のドレスを着た見知らぬ綺麗な女性が門を叩く。
するとすぐに門番らしき男性がすっ飛んできた。
「ミルです。ただいま戻りましたわ」
その女性は門番にそう語りかけた。
あ~そ、ミル?ミルって言ったこの人?ド、ドレス?いつのまに着替えたの?それに『ござる』はどうした?
「は!ミル様!おかえりなさいませ!すぐに門をあけます!」
「はい」
ギギギッ
門は大きな音を立てて徐々に開いていく。
「ちょっとミル。いつのまに着替えたの?」
「つい、さっきですわ」
「ですわ?......なんか悪いところ打った?」
「失礼ですわね。これがわたくしの本当の姿ですわ」
「ほへー......」
「さあ、行きましょうか?」
「は、はい」
私達はミルの後ろをすごすごとついていく。
やがて豪邸の玄関らしきところについた。すると大きな扉が開きミルのご両親と執事の総勢10人ほどが私達を出迎えてくれた。
「お父様!お母様!」
ミルは早足になりご両親に飛びついていった。
「おお!ミル!無事でよかった!会いたかったぞ!」
「ミル......本当に無事でなにより......」
感動の親子の再会といったところなのか。私も思わずもらい泣きをしてしまいそうになる。
「さあさあ客人達も中にお入りください。大したものはありませんが歓迎いたしますぞ」
「はい!」
ミルのお父さんらしき人が私達を歓迎してくれたので私達はとりあえずホッとして豪邸の中にお邪魔することにする。
☆
「それでモエミさんとか言ったかな?」
「はい」
「普段はどんなことを?」
「はい、依頼場で仕事を見つけてそれでとりあえずは食べていってます」
「まあ、女性なのにそんな危ないことを......」
私はミルのお父さんとお母さんに質問攻めにあっていた。
ふと横を見るとユンちゃんとロキは脇目もふらずモシャモシャモシャと何かの肉を食べていた。
こっしーは何も食べずにただ紅茶だけを飲んでいた。
こっしーとロキは当然、今は人の姿をしている。
「まあ、男の人も2人いるし大丈夫ですよ。それにミルもつよ......結構、頼りになるし、何かあっても安心です」
「うむ、私の娘には早く結婚してもらって跡継ぎを作ってもらわないといかん。それで私がいいところの男性を紹介するといっても娘は自分で見つけると言い出しできかんので困っておるのだ」
「本当よね、女の子なのに危ないわ」
「あ、ははは、そうなんですか、でミルはどこに行ったんでしょうか?」
「旅から持ち帰った衣服の洗濯と本人も少し着替えたいと言ってましたわよ?」
ミルのお母さんはそう答えた。
ほどなくしてミルは戻ってきた黒いドレスに着替えて。
「わあ......」
私はミルの姿を見て思わず声を出してしまう。漆黒のドレスを纏ったミルは別人のように艶やかさを増していた。
「おお!やはりな、俺の目にくるいはなかった」
何かの肉を食べていたロキも食べるのをやめてミルの姿に見とれていた。
「ロキ!ロキ!.......もう!」
それを見てユンちゃんは何か怒っている。
「お待たせしましたわ」
ミルはこっしーの隣に腰掛ける......ってなんでこっしーの横に座るのよ。
「......綺麗ですぞ。バーン様」
「ほ、本当でございますか!あ!......ありがとうございます、こっしー様」
こっしーに褒められ突然声を荒げるミル。それは私達と普段いる時の反応のようだった。てか絶対私達といる時のがあなたの『素』なんだよね?
「う~む、そちらの青年は?」
ミルのお父さんもミルが隣に腰掛けたこっしーが気になる様子だった。
「はっ!ご挨拶が遅れて申し訳ございません。わたしめはこっしーと申します」
「う~む、ハキハキして気持ちの良い応対だし何より父親として嫉妬してしまうほど我が娘の隣が良く似合う」
「はっ!ありがたき幸せにございます」
「君は娘と付き合っておるのかね?」
「いえ、わたしめはモエミ様のただの従者でございます」
「ふうむ、左様ですか」
「ちちう......お父様、こっしー様との結婚許してくださいますか?」
「ちょ!......」
突如としてミルはそんなことを言い出した。私は声を荒げそうになるがミルのご両親がいるので自粛した。
「なに?こっしー殿は付き合ってはいないと言ったが......」
「わたしくしがベタ惚れなのでございます......こっしー様に」
「ほう、そんなにか......まあ、ミルが認めた男なのだから間違いはないだろう。なあ母さん?」
「ええ、わたくしは間違えたみたいですけどね」
「......ぉい、子供の前だぞ!」
「......」
これはマズイことになった。バーン家は本気でこっしーを婿に迎える気になりそうだ。なんで私、ミルの家に来てしまったのだろう。
「んんんんーん!どうだミル、こっしー殿と軽く庭の散歩をしてきてみては?」
「はい、ではこっしー様、参りましょ?」
スッとミルは右手を差し出す。それの対応にこっしーは少し困った様子で私の顔を伺っていた。私もお招きされた身でバーン家に恥をかかせる訳にはいかないのでこっしーに仕方なくコクっと頷いた。
「......承知いたしました」
こっしーはミルの手を取りすくっと立ち上がる。
「まあ、本当にお似合いですこと」
ミルのお母さんは凛々しく連れ添い立っているミルとこっしーを見てそう言った。
「ぬうううう」
変なうめき声が聞こえる。それはロキだった。表情をみるとあからさまに嫉妬の炎が燃え盛っているような感じだった。
「モエミ、変な顔」
私もユンちゃんにそう言われた。どうやら私も嫉妬に狂った顔をしているらしい。それにしてもどうしてミルはそんなにこっしーに執着するのだろうか。
確かにイケメンだけれどそれだけの理由にしては......
「では、モエミさんたちには特製の牛のステーキを召し上がっていただこう!」
ぱちん!
ミルのお父さんはそう言うと指を鳴らした。
ユンちゃんとロキの目は爛々と輝いていた。まあ、私も少し期待しちゃっている。
☆
「こっしー様どうです?この噴水?」
「はい、とても素晴らしいです」
「泳いでみますか?」
「バーン様、知っておられたのですか?わたしめが鯉だということを」
「はい」
「なのになぜ、わたしめのようなものを......人ではありませんぞ?」
「人ではないといけないのかしら?」
「ご両親も納得できますまい?」
「子孫を残せないというのなら反対するかもしれませんが......」
「......バーン様」
「こっしー様、お願いがあります」
「??」
「ミルと呼んではくれませんか?バーン様というのは距離を置かれているようでわたくしはとてもイヤです」
「しかし......」
「それくらいのお願いは聞いて欲しいです」
「......承知いたしました」
「それと今夜、わたくしの部屋に来てくださいませんか?」
「......それはなぜですか?」
「もし、子孫を残せないのならわたくしはこっしー様をあきらめます」
「しかしそれは......」
☆
私はこっしー達の散歩がとても気になり食事どころではなかったはずだがステーキのあまりのおいしさに夢中になっていた。
「うま!うま!おいしいよ~」
__こっしー達が庭の噴水の前で何を話していたのか私には知る術もない。




